第105話「可愛い妹、可愛い弟」
リオネルから、バックラーよりは、やや小型の盾を受け取ったカミーユは、
満面の笑みを浮かべ、とても嬉しそうに装着した。
大喜びするカミーユを見て……
リオネルは冒険者ギルドで受けた『盾の講座』を思い出す。
教官はバックラーに関し、詳しく説明してくれた。
……バックラーは携帯性・機動性に優れた小型の盾である。
片手剣とバックラーの組み合わせは、この世界でも老若男女問わず、
数多の冒険者が用いる装備のひとつでもある。
バックラーは何よりも使いやすく、携帯に便利で機動性が落ちないというメリットがあり、山岳地帯や盆地、丘陵等……起伏に富む地域では、特に愛用されていた。
バックラーの形状は直径約30cm、円形で鉄製が多い。
中央に『ボス』と呼ばれるふくらみを設け、その内側に取手をつけたものが一般的である。
しかし表面に鋭いとげ状のスパイクを付け、攻撃力を著しく増したたもの、
同じく表面に奇抜なデザインの意匠をあしらい、絵柄で相手を威嚇する意図のものも見受けられた。
バックラーの『概況』だけでなく、『使用方法』も教官は説明してくれた。
通常の盾が自分の身体の近くで構えるのに対し、
バックラーは持ち手を、相手に対し、正面に突き出して構える。
この構えだと、相手から見て、バックラーのような小型盾でも、
己の身体の、より多くの部分を隠し防御することが可能であるという。
また、バックラー自体で殴りつけるシールドバッシュ、
パワー負けしないよう、剣に添えて、攻撃を繰り出す使い方もある。
「使い方はバックラーと殆ど同じさ」
「バックラーっすか。そうっすよね」
「ああ、但し、この盾は装着する腕の部位で、バックラーとは若干、攻防のやり方が異なる。カミーユが使いやすいように使えば良い。それと武器を持つ『対人間』と、牙や爪、特殊攻撃をして来る『対魔物』では、戦い方が全く異なる。戦う際には、良く注意し、立ち回るんだ」
「はいっす! 分かりました! 一応、バックラーの基礎は、ひと通りモーリスさんから教わっていまっす。それに俺は基本、ヒットアンドアウェイ戦法で行きますよ」
「おお、ヒットアンドアウェイ戦法か! 俺と同じだな」
「本当っすか? リオさんはひたすら無双って、感じっすけど」
「いや、相手次第だが、俺も基本はヒットアンドアウェイ戦法だ。物理、魔法とも、有効射程と索敵能力の許す限り遠くから攻撃を仕掛け、即座に撤退するって感じだ! あとは個人的な意見だが、あまり盾の防御力を、あてにしすぎるのは禁物かな」
「はいっす! モーリスさんからバックラーの使い方を教えて貰った時、基礎練習も少し、しましたっす。リオさんの使い方も見ていましたし……この盾を装着し、やってみまっす」
「ははは、良かったら、俺が先に戦って、手本を見せようか?」
「お、願いしまっす!」
カミーユは装着していた小型盾を外し、一旦リオネルへ戻した。
改めて装着し直すリオネル。
ここで収納の腕輪から予備の盾を出す事は出来ないからだ。
そんな事をしながら……
ふたりは、洞窟出入り口の手前まで来た。
ゴブリンが潜む、洞窟の出入り口は……
先ほどミリアンと戦った後のまま、モーリスが生成した土壁に三方を囲まれ、
正面の土壁の入り口のみ下方に小さな穴が開いていた。
その穴は、リオネルが発動した風壁でふさがれている……という状態だ。
その風壁の発動時間がそろそろ終わる。
「さあ! バトル再開だ」
リオネルが促し、
「はいっす! 姉さんの討伐記録数を破ってみせまっす!」
カミーユは元気良く、返事を戻したのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
先ほど同様……
リオネルとカミーユは風向きを考慮し、白煙が出ない場所でスタンバイする。
風壁の効力が切れた!
穴から白煙が吹き上がる。
リオネル達が放り込んだ、魔導発煙筒はまだ効果を持続していた。
ぎゃあ、ぎゃあ、ぎゃあ、ぎゃあ、ぎゃあ、ぎゃあ、ぎゃあ、ぎゃあ!
穴から、ゴブリンどもから苦痛を訴える悲鳴が聞こえて来た。
「よし! 行くぞ!」
「リオさん、き、気を付けてっ!」
「おう!」
これも先ほど同じ。
やがて……
白煙にまみれるように、一体、二体、三体と、ゴブリンが転がり出る。
リオネルは、すかさずシールドバッシュ! バッシュ! バッシュぅ!
このバトルパートは、カミーユに手本を見せる為、
剣や魔法、他の格闘技を使わず、シールドバッシュオンリーである。
倒す数も『倍』と決めていた。
それにシールドバッシュオンリーは、自分の為にもなる。
熟練度が上がるし、新たなシールドバッシュの戦い方も見出せるやもしれない。
それに、先ほどのカミーユとの会話で思い出した。
ダメージを受けないギフトスキル『ゴブリンハンター』習得と実践で、
つい失念していたが……
リオネルも基本、ヒットアンドアウェイ戦法なのだ。
つまり、蝶のように舞い、蜂のように刺す!
加えて、素早く敵の攻撃圏外まで撤退するのだ。
なので、敵の攻撃を敢えて受け、弾き飛ばさない。
全て
強敵オークカーネルとの戦いで、
特異スキル『念話ハイレベル』を習得した事の影響であろうか……
心を読まずとも、相手の動きがはっきりと見切れる。
リオネルにはゴブリンどもの次の動作がすぐに分かり、身体も瞬時に反応。
自然に「すっ」と、最短距離で
そしてリオネルは、「ふっ」と笑う。
やはり双子の姉弟である。
姉のミリアンも、カミーユと同じく、ヒットアンドアウェイ戦法を取っていたからだ。
唯一違うのは……魔法行使の可否のみ。
しかし、昔から『そっくりな姉』と比較されて来たカミーユにとっては、
魔法が使えない事が大きな重荷に、大きなコンプレックスとなって来たはずだ。
重く克服不可能なコンプレックスに押し潰されそうになりながらも……
けなげに大好きな姉を慕い、必死に守ろうとするカミーユが、
リオネルは愛おしくなる。
決めた!
血はつながらなくとも、心の絆は結んでいる。
だから!
ミリアンは可愛い『妹』
カミーユも可愛い『弟』
縁ある限り、ふたりの面倒を見ると。
ぎゃあ、ぎゃあ、ぎゃあ、ぎゃあ、ぎゃあ、ぎゃあ、ぎゃあ、ぎゃあ!
穴から、後続のゴブリンどもが、白煙にまみれて現れた。
敢えて少し待ち、ゴブリンに認識させる。
驚くゴブリン達。
ぎゃう!? おうう!? ひえっ!? わうお!?
習得したばかりの念話、そしてサトリ――読心のスキルで、
ゴブリンの意思は丸見えだ。
「おらあ! 来いよっ、てめぇらあ!」
再び「ふっ」と笑ったリオネルは……
左腕の盾を大きく誇示し、ゴブリンどもを思い切り挑発したのである。
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