第103話「昔の俺みたいだなあ」

ミリアンは5体のゴブリンを全て完璧に倒した。

昨日の農地での戦い同様……

彼女が使った格闘術、モーリス直伝破邪聖煌拳はじゃせいこうけんの、

体捌たいさばき、攻防の動きもじっくり観察出来た。

やはりチートスキル『見よう見まね』は発動しないが、だいぶ参考にはなった。


ミリアンは、緊張していたし、少し疲れも出たようだ。

ここは無理をせず、休ませた方が良いだろう。


加えて、このような場合……

態度だけではなく、はっきりと言葉に出し、

いたわった方がベストな事を、リオネルは学んでいた。


「お疲れ、良くやったぞ、ミリアン! 100点満点だ!」


リオネルが労わると、ミリアンは嬉しそうに微笑む。


「うふっ! 100点満点! 了解! リオさんの半分だけど、5体も倒したよぉ! 一度に戦った自己新記録! ふ~、疲れたあ!」」 」


「おう、じゃあ、ちょっち、回復だ」


「え? 回復? もしかして薬草でもくれるの? 『治癒』なら私も使えるけど……今は魔力を節約……だよね」


「治癒くらいなら、俺は大丈夫さ! ほいっと! 」


リオネルはミリアンとすれ違いざまに、回復魔法『治癒』を発動する。


「うわ! びびっと来た! 驚き! リオさんが『治癒』を!? ホント何でも出来るんだね!」


「いや、回復魔法はさ、『治癒』だけしか使えないんだよ」


「私もそうだよ! 回復魔法は『治癒』だけしか使えないんだ、でも、凄いって!」


ミリアンはそう言うと……目を大きく見開き、更に驚いた。

同じ治癒の魔法でも、自分とリオネルの魔法が全く異なっていたからだ。


「あれぇぇ!? うっそぉぉ! 何コレぇぇ!? 私の使う『治癒』とは全然違うじゃない! 身体も心も軽くなるぅ! 超リフレッシュだよぉ!」


「はは、少しは疲れが取れるだろ?」


「うんっ! 単に体力回復だけじゃない! 少しどころじゃないよ! メンタルもバッチリ!」


ミリアンの反応を見て、リオネルは自信を深める。


どうやら自分が行使する回復魔法『治癒』は付帯効果があると。

……アルエット村でクレマンに使った時も大喜びされたから。

これもチートスキル『エヴォリューシオ』の能力によるものかもしれない。


「というわけで、交代。じゃあ、俺がまたゴブリンを倒すから」


「OKでっす! 宜しくねぇ!」


という事で、リオネルとミリアンは交互に戦闘を重ね……

リオネルは80体、ミリアンは38体を倒した。

今回の戦いにおいて、魔法と格闘を合わせたら、

ゴブリン討伐数の記録更新ラッシュだと、ミリアンは胸を張った。


そろそろ頃合いだろう。


「ミリアン、疲れたか?」


「ううん! あまり疲れてないよ。リオさんから、こまめに回復魔法をかけて貰ったからね♡ さわやか超リフレッシュ!!」 


「よっし! じゃあ、一旦モーリスさんとカミーユの下へ戻ろう!」


「はいっ!」


と、いう事で……

リオネルとミリアンは、『陣地』へ戻ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「戻りました」

「戻ったよぉ!」


リオネルとミリアンが戻ると……


モーリスは「作戦が順調に進行している」と、上機嫌。


「おう! ふたりともお疲れさん、ゴブリンをトータルで100体以上倒したな!」


 答えたのはミリアン。 


「うん! ばっちり! モーリスさん、カミーユ。リオさんって、本当に凄いよぉ、回復魔法まで使えるんだあ!」


「な、何!? リオ君は回復魔法まで使えるだと? 本当に凄いな!」


しかし、カミーユは……


「はあ? 回復魔法って何だよ! そんなのリオさん、超反則だよ! それにっ! 姉さんと、あんなに仲良くなってさ!」


と、シスコンジェラシー? もあり、結構、ね気味であった。


そんなカミーユの発する波動が、リオネルへ伝わって来る。


不甲斐ない自分に比べ……

いつも張り合う姉が大活躍するのが悔しく、もどかしい。


そして張り合いながらも大好きな姉と、めっちゃ仲良くする、オールマイティなリオネルがねたましい。


鬱屈うっくつした様々な感情が心の中で渦巻いているようだ。


そんな時こそバトルで発散。

師匠のモーリスも分かっている。

但し、暴走防止の為、『監督者』が居た方が良い。


「じゃあ、カミーユ、私と一緒に出撃するか?」


モーリスが誘うが、カミーユは首を横へ振る。


「ダメだ! 俺とリオさんが行く!」


「でも、カミーユ。リオ君はたった今、戦って来たばかりだ。魔力も結構使っている。ひどく消耗してしまうぞ」


「で、でも!」


カミーユは、ミリアンとリオネルを交互に見た。

大好きな姉とリオネルを『ふたりきり』にさせたくないようだ。


リオネルが手を挙げ、言う。


「構わない、俺が行きますよ」


「今までリオ君の超人的な戦いは何回も見届けてはいるが、君は本当に疲れていないのか? 魔力の回復も必要なんだぞ」


モーリスは懸念するが、


「大丈夫です。カミーユ、行こうか」


リオネルは再出撃を告げ、カミーユを誘った。

全く疲れを見せないリオネルに、カミーユは気圧される。


「は、は、はいっす!」


ここでカミーユは本音を漏らす。

リオネルに対して、羨望の気持ちを。


「リオさんは圧倒的に強いし、何でも出来て良いっすね! 悩みなんかないっしょ!ホント羨ましいっすよ!」


しかし、リオネルは「全く違う!」と感じ、

愚痴とも言えるカミーユのつぶやきをスルー。


「な、何だか、カミーユは……昔の俺みたいだなあ」


と、思わず返した。

同時に、リオネルの心の中で、凄まじい暗黒歴史の記憶が次々に甦って来る。

とても鮮明に、リアルに……


対して、現在のリオネルしか知らないカミーユは、不可解さを全開にする。


「はあ? 昔の俺? あのね! リオさん! そういう言い方は凄く頭に来るっすよ!」


カミーユは相当立腹したようだ。

『ほんの行き違い』といえるのだが、「昔の俺みたい」は、失言となってしまった。


「もう! リオさんったら、ホント何、言ってるんすかね。貴方はさ、失敗とか、挫折なんかした事ないっすよね? 要領が悪くてバカな俺とは全然違うでしょ!」


「い、いや……カミーユ……俺も……そうだ……」


「シャラップっす! リオさんは地獄の鬼神みたいに強くて、頭も凄く良いし、乗馬も料理も、何でも出来る。ちゃんと優しい家族だって居るっしょぉ! 友達だって大勢居るだろうし、可愛い女子だって選り取り見取り! 超が付くモテモテのバラ色人生でしょうに! ど底辺の俺から見れば、超が付くぐらい羨ましいって言ってんすよ!」


怒ったカミーユの容赦ない物言い……


一方、リオネルは『嫌な暗黒記憶』が次々とリフレインする。

これはとんでもなく強力な精神攻撃である。


「カ、カミーユ……」


「はあ? 何すか、珍しく噛んで……俺に何か、言いたい事があるっすか!」


「は、はははは、俺はカミーユの言うような『バラ色な人生』を送ってはいない」


乾いた笑いを発するリオネルを見て、カミーユはいぶかしげな視線を放つ。


「くっそ! 何言ってるんすか? つまらない冗談はやめてくださいっす!」


「違うんだって。ずっと勇気が出ず、努力が足りない自分が全て悪かったんだが……」


「え!? リオさん!?」


「……俺は要領がめちゃくちゃ悪く、失敗続きだった」


「え?? う、うっそでしょう!?」


「いや、嘘じゃない! 魔法学校では超が付いた劣等生で、悩みがありすぎ、学校でも家でもゴミ屑扱いされて、コンプレックスの塊だった。だから友達なんて皆無だし、優しいどころか……家族はもう居ない」


「へ!?」


「それに俺は全然もてないよ。生まれてからず~っと彼女居ない歴18年、王都では子供扱いされ、思い切り振られたばかりだ。人生の負け犬と言われ、底辺に近い人生だったさ」


「え、えええ~~!? じ、人生の、ま、負け犬ぅ!?」


リオネルの衝撃の告白? カミングアウトを聞き……

カミーユは驚き、呆然となってしまったのである。

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