第102話「ミリアン、舞う!」
「私、ゴブリンどもと戦うよ! リオさんも私を信じて、背中を預けてね!」
前向きなミリアンのコメントを聞き、リオネルは微笑む。
「ミリアン、良く言ってくれた」
「うん! あったりまえだよ! リオさんっ!」
ショートカットの金髪で碧眼、元気印の15歳、ミリアンは若さに満ち溢れている。
魅力的な女子で可愛いが、「好き」とか、「彼女にしたい」とはまた違う。
アルエット村で出会った8歳の天使のような可憐なアンナとも違う。
愛すべき『妹』だが……
守ってあげたい『ボーイッシュで活発な明るい妹』という感じだ。
同様に、カミーユは『怖がりな可愛い弟』だ。
まだまだ成長途上だが、明るく前向き。
とことん面倒を見たいと思う。
リオネルは、怯えるカミーユに『かつての自分』を重ねていた。
父、兄達から酷い仕打ちを受けた反動かもしれない……
ここはミリアンへ、具体的に言葉に出し、伝えた方が良いだろう。
「聞いてくれ、ミリアン。結構厳しい事は言ったけど、俺はけしてカミーユを見捨てたりしないぞ!」
「うふっ! 嬉しいっ! 本当にありがとう、リオさん!」
ミリアンは微笑んで礼を告げた。
そして肉親ならではの決意も語る。
「私もそう! カミーユはたったひとりの身内だもの! 可愛い弟の面倒をとことん見ようって決めてるんだ!」
「おう! 分かった! カミーユの問題は改めて考えるとしよう。まずは当面の敵であるゴブリンどもを倒す。作戦通りに行くけれど、ミリアンのキャパは大丈夫かな?」
リオネルが尋ねれば、ミリアンは苦笑する。
「ええ、さすがにさ! 昨日のリオさんみたく、ひとりでゴブリン1,000体の群れに突っ込むのは絶対に無理ゲー!」
今度はリオネルが苦笑する。
自分の『秘密』を知らない者から見れば、多勢に無勢でゴブリンと戦う行為は、
無茶そのものだからだ。
「ああ、そこまで無理はさせないって」
「あは、サンキュ! 念の為、リオさんと出会った時の200体も無理だよ! だけど、2,3体くらいなら、一度に相手が出来る」
「了解!」
「但し、ヤバくなったら、すぐ手を挙げるよ! 即、逃げるからね! 頼りにしてる!」
打てば響けとばかりに、良いリアクションが戻って来た。
ミリアンは他人の話を良く聞き、自分を客観的にも見ている。
「OK! 任せろ! 命は大事にだ! モーリスさんが造った土壁に、魔法で穴を開けるぞ。大きさはゴブリン一体が出て来れるくらいの穴だ」
「了解! そうやって、戦う相手の数をこっちでコントロールして、さっき洞窟を囲んだ土壁同様、多勢に無勢というルールをガラリと変えるんだね! 私達に有利なようにさ!」
「その通り! 奴らとサシか、せいぜい数体と戦う、俺達が全然有利なルールとなる。穴を開けたら、様子を見ながら戦うぞ。まずは俺が行こう」
「うふふ! 地獄の悪魔みたいなリオさんの戦いぶりを、間近で見れるなんて楽しみだよ」
「地獄の悪魔みたいなって……あのね……」
先ほどミリアンが苦笑したのと交代に、今度はリオネルが苦笑したのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
しかし……
ミリアンの表現はけして大げさではなかった。
リオネルはモーリスが生成した、洞窟の出入り口をふさぐ土壁の片隅へ、魔力を抑えめの風弾をぶち当てた。
計算通り、人間より小さいゴブリンが一体通れるくらいの穴が開き……
中へこもっていた白煙が「もうもう」と噴き出た。
リオネルとミリアンは風向きを考慮し、白煙が出ない場所でスタンバイする。
ぎゃあ、ぎゃあ、ぎゃあ、ぎゃあ、ぎゃあ、ぎゃあ、ぎゃあ、ぎゃあ!
穴から、ゴブリンどもから苦痛を訴える悲鳴が聞こえて来た。
オーク同様、唐辛子などを調合した白煙は威力を発揮しているようだ。
やがて……
白煙にまみれるように、1体、2体、3体と、ゴブリンが転がり出る。
リオネルは、すかさずシールドバッシュ! バッシュ! バッシュぅ!
ぶぎゃ! がはっ! ぐあっ!
ゴブリンどもは全てが、あっさりと破砕された。
更に、4体、5体、6体目が出て来た。
今度は、拳、蹴り、再び拳!
ぶぎゃ! がはっ! ぐあっ!
またも!
ゴブリンどもは全てが、あっさりと破砕された。
そして、7体、8体、9体、10体目が!
シールドバッシュ、拳、蹴り、最後にシールドバッシュ!
ぶぎゃ! がはっ! ぐあっ! ぶぎゃっ!
リオネルは、あっさりと、淡々と、10体を瞬殺したのである。
ここで、リオネルは魔力抑えめの風壁で穴に仮の
時間にして、10分ほど有効な風壁である。
この10分間をインターバルとし、リオネルとミリアンは交代した。
リオネルがあっさりゴブリン10体を倒したのを目の当たりにし、ミリアンの泣きが入った。
「リオさ~ん、凄すぎ! 息も上がってないし! さすがに私、10体は無理だよぉ!」
「ははは、じゃあ、まず3体だ。奴らの動きを良く見て、攻撃は極力、
「OK! うん! じゃあ今度は私が前面に立つ。これは修行だもの! 勇気を出して戦ってみるよっ!」
決意を述べたミリアンが前面に立ち、やや後ろへリオネルが『控える形』となる。
「よし、ヤバかったら、すぐ助けるからな」
リオネルはそう言うと、体内魔力を上げ、すぐに威圧、風壁が両方、行使出来るようスタンバイした。
万が一の際は、すぐに飛び込めるよう身構えもする。
「サンキュ、リオさん! じゃあスタンバイするよ!」
ミリアンは魔法使いの呼吸法を使い、心身を落ち着ける。
魔力の放出はない。
リオネルのように魔法を使わず、魔力を温存する作戦の趣旨は心得ていた。
しばし経ち、風壁の効果が消えた!
ぎゃあ、ぎゃあ、ぎゃあ、ぎゃあ、ぎゃあ、ぎゃあ、ぎゃあ、ぎゃあ!
またも穴から、ゴブリンどもの悲鳴が聞こえて来る。
再び……
白煙にまみれるように、1体、2体、3体と、ゴブリンが転がり出た。
「ふう!」
軽く息を吐いたミリアンは、
『強化ミスリル製ガントレット』を振りかざし、鋭い気合を発する。
「はっ!」
蝶のように舞い、蜂のように刺す!
びし! びしっ! びししっ!
ぎゃ! ぐあ! げはっ!
さすがにリオネルのように瞬殺……
とはいかないが、素晴らしい速度で繰り出される冷気を含んだ3発の拳を受け、
ゴブリンは絶命した。
へえ!
やるなあ!
リオネルは感嘆するが……
先の3体から間を置かずに、穴から抜け出た残り2体のゴブリンが、ミリアンを襲おうとしていた。
白煙の痛みが目に残っているからか、まだふらついている。
「声をかけようか」「助けに入ろうか」と迷ったリオネルであったが、
ミリアンの放つ波動は、ゴブリンの攻撃を察知していた。
彼女は後ろ向きのまま、リオネルへ「大丈夫」と言うように、
「さっ」と右手を挙げた。
そして素晴らしい速さの身のこなしで身体の向きを変え、
ふらつくゴブリンどもへ、美しく身構えた。
ぎゃあ、ぎゃあ、ぎゃあ、ぎゃあっ!
「はああっ! とああっ!」
びし! びしっ! びししっ!
びし! びしっ! びししっ!
ぎゃ! ぐあ! げはっ!
ぎゃ! ぐあ! げはっ!
まるで!
華麗な舞姫!
ミリアンは美しいダンスを舞うように、ゴブリン2体の攻撃を
カウンターで3発ずつ、冷気の拳を打ちこんだのである。
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