第92話「熱い喜びと感謝」

「まともに戦い勝てないのなら、ルールを変える。これが多勢に無勢で勝つ為、俺達に都合を良くする『無理やりのルール変更』ですっ!」 


おおおおおおおおおおおおお!!!!


多勢に無勢に勝つ為の、無理やりのルール変更


リオネルがはっきり言うと……

パトリスも含め、今度は村民達から、大きなどよめきが起こった。


「大いに納得」「成る程!」という『了解の波動』をリオネルは感じた。

ここまでは順調である。


更にリオネルは言う。

具体的な戦い方を全員へ伝えるのだ。


「作戦をもう少し詳しく説明します。……洞窟からいぶし出されたゴブリンどもを、モーリスさんが作った土壁で進路を狭めて密集させ、こちらは防護壁の背後から、俺の風矢、モーリスさんの岩弾、ミリアンの氷矢、属性魔法で一斉に攻撃するんです。討ち漏らして、向かって来る個体をカミーユに任せます」


リオネルの作戦指示……

「討ち漏らした個体を任せる」と聞き、カミーユが小さく叫ぶ。


「うお! 緊張する!」


そんなカミーユへ、リオネルがすかさずフォロー。


「ははは、大丈夫だ、カミーユ。いざとなれば俺が威嚇で足止めした上、魔法組も、剣技や格闘戦に切り替え、一緒に戦うから」


しかし、ここでモーリスが大きな懸念を告げる。


「ふむ……だが、リオ君。私達の魔力は有限だぞ。敵は2,000体も居る。魔法を撃ち尽くし、魔力切れした時に、奴らが襲って来たらどうするのだ?」


その懸念はすぐリオネルも考えた。

対策は……考えてある。


「魔力切れのご心配は、ごもっともです。しかしその点は考えています、俺の威圧と、風の壁でゴブリンの行く手をさえぎり、足止めします。風の壁は30分効果が継続します。その間に魔力の回復をはかるのです」


モーリス達には明かさないが、リオネルは習得したスキルも存分に使うつもりだ。

フリーズ他、使えるモノは使いまくり、ゴブリンどもを足止めする。


「な、成る程……でもたった30分では、魔力の回復がまだ不十分だ」


「はい、時間が足りなければ、モーリスさんにも奴らの行く手を阻む形で、洞窟の入り口に土壁の防護壁を造って貰い、奴らの外部への進軍を防ぎ、更に時間を稼ぎます。その間に、魔力の回復をはかります」


「ふむ、洞窟の入り口をふさぐのか! ほぼ万全だな! しかし万が一の場合も考えておかねばならない。リオネル君の風壁、私の土壁の生成が間に合わなかったり、支えきれずに、奴らが襲って来る場合は?」


「それも考えています……どうしても防衛が無理な場合は一旦、撤退します」


「一旦、撤退? 逃げるのかい?」


「ええ、あまりにも状況が不利な場合は、無理をしません。俺達4名全員、一旦馬で撤退するんです。今回は、村の馬を4頭お借りしたいと思います。俺達4人の、村と洞窟の行き帰りに使いますから」


リオネルはそう言い、パトリスへ言う。


「先ほどお願いしましたけど、この場でも改めてお願いします。パトリスさん宜しいですか?」


「ああ、全然問題ないよ。村の馬を何頭でも、存分に使ってくれ」


「という事で、モーリスさん。洞窟へ赴く時は勿論、万が一の撤退用に馬を使います」


「おお、馬か!」


「はい! ……俺、ゴブリン渓谷で奴らの走行速度と持久力は確認していますけど、俺が殿しんがりとなり、風の壁を使って、再度奴らを足止めします。そして撤退しますけど、最初は全速で逃げ、少し走ったら速度を落とし、馬がばてないように注意さえすれば、完璧です。約5㎞の距離で、馬の速さなら、ゴブリンどもは、ほぼ追いつけません」


リオネルはそう言いながら……微笑む。


いざとなれば、モーリス達を無事に逃がす為……

自分だけ、ぎりぎりまで現場に残り、ゴブリンどもを足止めした上で出来るだけ倒し、全速力で走って帰る事を考えている……のは内緒だ。


「な、成る程!」


「一旦、馬でキャナール村まで撤退し、正門を開けて貰い、パトリスさん達と合流します。俺達が村へ入ったら、すぐに正門を閉めて守りを固め、村で籠城して、魔法等で戦いながら、機を見て打って出て、反撃に転じます。それを繰り返し、奴らの総数を減らして行くのです」


「おお、リオ君、最後の奥の手は、持久戦という事だな」


「はい! 洞窟の攻防戦で数をだいぶ減らした上、持久戦に持ち込んで攻撃を何度か繰り返せば、ゴブリンどもの総個体数は、当初の2,000体から、だいぶ減っているでしょう。となれば、最終的には先ほど農地で行った戦いの再現となるはずです」


「うむ、うむ! 素晴らしいぞ! リオ君! 奴らに勝つイメージがはっきり湧くぞ」


「まあ、あくまで想定ですし、予定は未定。考えた通りに行かない事も多々あるでしょう。状況を常に確認し、致命傷を喰らわないようにするのが第一です」


「はは、相変わらずリオ君は慎重だな、と思えば大胆な突撃はするし、はは不思議な奴だよ、君は」


「まあ、それは置いといて。モーリスさん、そして皆さん! 勝って兜の緒を締めよです! 油断は絶対に禁物ですよ! 常に警戒し、確認を怠らず、先手先手で、早めに手を打って行きましょう……俺の説明は以上です。何か、ご質問はありますか?」


「「「「「………………」」」」」


リオネルが呼びかけても……質問をする者は居なかった。


ひと呼吸置き、パトリスが手を挙げる。

どうやら……質問ではないらしい。


「リオネル君! 戦いはまだ終わっていない。だからお礼を言うのは、まだ早いかもしれない」


パトリスはそう言うと、軽く息を吐く。


「モーリス達にも、充分感謝しているが……リオネル君! 村民へ戦う勇気をくれ、絶望に陥っていたキャナール村の明日を! 未来を! 切り開いてくれたのは君だ! 本当に本当にありがとう!」


「パトリスさん……」


パトリスは……目を赤くして、泣いていた。

自警団員の3人も同様だった。


熱くあふれる喜びと感謝の波動が……

リオネルへ向け、たっぷりと放たれていたのである。

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