第91話「無理やりのルール変更」

農地を襲ったゴブリン1,000体をリオネル達冒険者と村民一体となっての討伐。

大勝利に湧く明るさから一転し、急直下!

リオネルが告げた、「ゴブリン2,000体生存!」の一報は、キャナール村の村民達へ重く重く、のしかかった。


しかしリオネルは、自身を含めた冒険者4名のみで討伐の遂行にあたるという。


一体どうやって!? 

たった4名だけで、いかにゴブリン2,000体を倒す!?

超人的なリオネルが居るとはいえ……という疑問。


確かにリオネルは単身突っ込み、農地へ襲来したゴブリン1,000体を圧倒した。

しかし今度は更に『倍』の大群が相手なのだ。


加えて!

まだ懸念もある!

広々としたオープンな農地を襲撃したゴブリンと、戦うのとは勝手が違う。

奴らの本拠である、暗く深いであろう未知の『洞窟』を攻めるという、

大きな不利もあるのだ。


モーリス、ミリアン、カミーユは、大きな期待と大きな不安を……

そしてパトリス達村民は、一縷の望みという、すがるような視線をリオネルへ向けて放って来た。


「モーリスさん、現場を調べた上で俺が考案した作戦を、提案しても宜しいですか?」


「ああ、決めたよ」


「え? 決めた?」


「うむ、宜しく頼むというのは、逆だ。こちらのセリフさ、そうだろう?」


「モーリスさん……」


「今回の戦いで、指揮を執るのはリオ君だ。申し訳ないが、とことん頼らせて貰う! 君が立案した作戦の説明、指示を宜しく頼むぞ!」


「は、はいっ! 了解です! じゃあ、やらせて貰います」


「うむ!」


リオネルはモーリスへ申し入れをし、OKを貰ってから言い放つ。


「皆さん、お聞きください。……これから、俺達の宿舎で『作戦会議』を行います。作戦参加者の俺達4名、そして村長のパトリスさん、自警団の方からは、数名ほどのご参加をお願いしたいと思います」


という事で、宿舎の空き家において、早速作戦会議が行われる。

進行役も、『作戦立案者』のリオネルとなった。

一連の流れを見たモーリスが、今回の討伐に関しては、

「リオネルへ全面的に任せる」という指示を改めて出したからだ。


結局参加者は、リオネル、モーリス、ミリアン、カミーユ、パトリス、自警団員3名の都合8名となる。


パトリス、自警団員3名に参加して貰ったのは、まず作戦の共有、そして情報の収集である。

アルエット村の時同様、土地勘が全くないリオネル達にとって、洞窟内部を始め、何らかの情報があれば全てプラスとなるからだ。


幸い、ひとりの自警団員が洞窟の情報を持っていた。

アルエット村村長クレマン同様、その自警団員は少年の頃探検したそうである。


その自警団員から、いろいろ聞き取りをした結果……

洞窟内部は結構広く、深さも相当だと言う。

但し、出入り口はリオネルが確認した1か所のみ、他にはないそうだ。


さてさて!

ここからが、リオネルの立案した作戦の披露となる。

誰もが真剣に無言で聞いている。


モーリス、ミリアン、カミーユは自身の命が、

パトリス以下村民には村の未来が、それぞれ懸かっているからだ。


「このまま待っていれば、奴らはいずれ数を頼んで攻めて来ます」


「………………」


「対してこちらは援軍は来ずに少数。まさに多勢に無勢そのものです。これが奴らのルール、数で押し切ろうとします」


「………………」


「まともに正面から戦ってはこちらが全く不利です。勝つ為には、そのルールを無理やり変える作戦を立てなくてはなりません」


勝つ為に「多勢に無勢」から、

「少数でも自分たちが勝てるルールへ無理やり変える」そういう作戦を立てる。


リオネルはそう前置きし、話し始める。


「座して待たず、先手必勝! あいつらが今日受けたダメージが癒えないうちに、こちらから攻撃を仕掛けます! とどめを刺してやるのです!」


おおおおおおお!


リオネルが言うと、パトリスも含め、無言で聞いていた村民達から小さなどよめきが起こった。


「明日の朝早く、俺達4人はゴブリン討伐に洞窟へ出発します。俺達が出発したら、万が一の敵襲に備えて、門を固く閉めてください。ゴブリン以外の魔物、人間の賊が襲って来るやもしれません。パトリス村長以下自警団の方々は、村でがっちり守りを固めながら、いつでも戦えるようスタンバイして貰います」


リオネルはそう言うと、更に話を続ける。


「ここからは俺達の作戦の具体的な説明です。洞窟に到着したら、まず、出入り口の両脇に、モーリスさんの地属性魔法『土壁』で囲いを作って貰います。ゴブリンが洞窟から出てくる際、バラバラに分散しないようにして、こちらから攻撃する時、まとを絞りやすくする為です」


軽く息を吐き、リオネルは更に言う。


「土壁の長さは10m、高さは5m、厚さは1mくらいで生成して頂きます。これを左右にひとつずつ、配置するのです。いわば馬の視界をさえぎ遮眼革しゃがんかくのような効果を見込みます」


補足しよう。

遮眼革しゃがんかくとは……

馬が前方へ走る事だけに集中出来るよう、眼の側面を衝立ついたておおう。

その結果、余計なモノが一切視界に入らないようにする『馬具』である。


つまり、リオネルは、この衝立の部分を、洞窟の出入り口の両脇へ土壁として造るよう、モーリスに頼んだのだ。


結果、ゴブリンの視線はリオネル達が居る前方だけに向くというわけだ。

そしてリオネルが告げたように、ゴブリンの分散を防いで密集させ、攻撃魔法で狙いやすくする。


「モーリスさん、魔法による土壁の生成、宜しいですか?」


「うむ、了解! お安い御用だ」


「それと俺達の陣地の前にも、攻めて来るゴブリンをはばむ防護壁を作って貰います。こちらも長さは10mですが、高さは1,5m、厚さは1mくらいです」


「ああ、リオ君、となると、都合3か所の土壁か。それくらいの数と大きさならば、私の魔力量には問題ない。攻撃魔法も充分撃てる!」


「OK! 次です。モーリスさんが土壁を作ってから、洞窟へ、冒険者ギルドで造られた魔導発煙筒をぶち込みます。既にゴブリン渓谷のゴブリン、某所でオークの巣にも使い、大きな有用性を確認済みです」


この場の全員への説明だが……

モーリスは、自分とミリアンとカミーユが確認しながら進めた方が、

更に理解が及ぶと考えたに違いない。


合いの手を入れ、リオネルをフォローする。


「おお、リオ君、そうか! 成る程! 私達4名は、リスクを避けて洞窟内へは入らず、この発煙筒で、奴らを外へいぶし出すというわけだな」


「はい、奴らを洞窟外へおびき出して、罠にかけます」


「ほう、罠か」


「はい! ゴブリンどもが発煙筒で苦しみ洞窟外へ出ます。しかし左右を土壁で阻まれ、分散が出来ない。狙いを定めずとも命中率が格段に上がります」


リオネルは、アルエット村でオークに対して実施した作戦を、

更にバージョンアップした形で使おうと考えていた。


「成る程!」


「無防備で密集した状態で、俺達が遠くから攻撃魔法で狙い撃ちし、数を減らして行きます。少数で多勢を倒せるようにします。まともに戦い勝てないのなら、ルールを変える。これが多勢に無勢で勝つ為、俺達に都合を良くする『無理やりのルール変更』ですっ!」 


おおおおおおおおおおおおおおおお!!!!


多勢に無勢で勝つ為の、無理やりのルール変更。


リオネルがはっきり言うと……

パトリスも含め、今度は村民達から、大きなどよめきが起こったのである。

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