第74話「ついにざまあ! パートⅠ!」

「追放された」リオネルが、強敵オークカーネルを倒し……

アルエット村において、温かい心の交流をしていた頃……


ある日の午前、ディドロ家次男セルジュは、

王都にある某カフェの『オープンテラス』で待ち合わせをしていた。


気になる待ち合わせ相手は、魔法大学在学中、

全生徒から『マドンナ』と呼ばれていた麗しき美女オレリアである。

セルジュも、オレリアも今年、魔法大学を卒業していた。


セルジュは、オレリアとは、まだステディーな関係ではない。

最初は、20名ほどのグループで会った。

全員で、遊んだ。


このようなグループ交際を数回行い……

その後、セルジュの方から何度も何度も何度も何度も……アプローチし、

ようやく、オレリアがOKし、ふたりきりでお茶を飲む約束をとりつけたのだ。


今日の『お茶』を機に、オレリアと更に親しい関係になる!

そして、更に更に恋人同士になる!

ゆくゆくは……結婚する!!

オープンテラスでお茶を飲むセルジュの妄想は果てしなく広がっていた。


オレリアは子爵家の娘である。

兄ケヴィンの見合い相手である伯爵家令嬢より、家格は劣る。

だが、オレリアの方が遥かに美人なのである。


リオネルを追放してから……

ディドロ家において、長男ケヴィンと次男セルジュのライバル意識は高まり、

どちらが上へ行くか! という闘争心むき出しの状態となっていた。


「兄弟は仲良く」という温かい考えは、当然ながらケヴィンにもセルジュにも一切ない。

そんな骨肉の争いを父ジスランも止めるどころか面白がり、却って煽る始末であった。


弱肉強食!

足手まといの弱者は切り捨てる! 

と、いうのがディドロ家当主ジスランの冷酷な方針なのだ。


俺は魔法省で、絶対にケヴィン兄上より出世してやる!

そして兄上を部下にして、あごで、こき使うのだ!

上から目線で見つめ、「おい、ケヴィン!」と呼び捨てにして。

そして最終的には父上の跡を継ぎ、宮廷魔法使いとなり、更に上へ行く!

ディドロ家の家督を継ぎ、大臣となり、王国の政務にかかわる!


セルジュの欲望は止まらない。


温厚なリオネル以外、ディドロ家は全員……

上昇志向しかない、出世欲の塊みたいな人間なのだ。


さてさて!

隣席から、若い女子達の声が聞こえて来る。


セルジュがチラ見すると、7人の女子がお茶を飲んでいた。

年齢は20歳そこそこから、30歳前くらい。

皆、美しく可憐な女子ばかりだ。


良い女ばかりだ!

と、セルジュは舌なめずりする。


女子全員が、何やら楽しそうに話していた。

仕事関係の話が聞こえて来る。

同じ職場の先輩、同期、後輩の仲間らしい。


しかし、自分は意中の女子、オレリアと待ち合わせ中だ。

ナンパなどは出来ない。


やがて……

待ち合わせ時間の数分前に、オレリアがやって来た。

彼女はあまり嬉しそうな表情ではない。


しかしセルジュは全然気にしなかった。


「やあ! オレリア!」


「セルジュさん……私、もう貴方とは」


そうオレリアが口ごもった瞬間。


「あら! オレリア! 久しぶりぃ!!」


隣席からひときわ大きな声が響いた。


おしゃべりしていた女子のひとりが、オレリアへ向かい、笑顔で手を大きく打ち振っていたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「本当に久しぶり! 2か月ぶりくらい?」


「そうそう!」


セルジュの座るテーブルと女子達の座るテーブルが「ぴたり」とくっつけられていた。

女子達のグループのリーダー格が、カフェの店員へ頼み込み、許可を貰ったのである。


何と! 偶然にも隣席の女子達の中に、オレリアの『親友』が居た。

久々の再会らしい。


オレリアから、『お願いポーズ』をされ、セルジュは見ず知らずの女子達の同席を、

断る事など出来なかった。

ひきつった笑みを浮かべながら、表向きは快くOKしたのだ。


もしも、ここでセルジュが同席を断りなどしたら「ちっさい男」と思われ、

「好感度が下がるのは確実だ!」と思ったからである。


しかし、これでは『ふたりきりのデート』が台無し。

いつものグループ交際と変わらない。


一方、『マドンナ』オレリアはカフェへ来た時とはまるで違い、超の付く上機嫌。

会話が弾みに弾んでいた。


そして、何と! 何と!

『同席事件』を遥かに上回る衝撃の事件が起こったのだ。


「この前、王都を旅立った人の『送別会』をこのメンバーでやったの。先輩のナタリーさんの主催で! すっごく盛り上がったのよ!」


「へえ! 誰の送別会?」


尋ねたオレリアの問いに、『親友』が答えたのである。


「冒険者のリオネル・ロートレック君!」


ぶっ!!


追放した『弟』の名がいきなり出て、驚愕したセルジュは、

思わず、飲んでいた紅茶を噴き出した。


な、なんだとぉ!

あのクソヤローがあ!?


リオネルの名を聞き、いらっとし、セルジュは憎悪に満ちたけわしい目となったが……女子達全員の冷たい視線に気付く。


「す、すみません!」


慌てて謝罪するセルジュを……女子達は皆、更に冷たい視線で睨んでいた。

勿論、オレリアも一緒に……


これでは間違いなく、好感度、大幅ダウン!! ……である。


何と何と何と!

セルジュの隣席でお茶を飲み、おしゃべりしていたのは……

ナタリー達、リオネルに熱い好意を持つ『冒険者ギルド女子職員軍団』だった!

その職員のひとりが、オレリアの親友、幼馴染だったのだあ!!


女子職員軍団は、オレリアを巻き込み、『送別会』の話で盛り上がる。

当然、リオネルの話が中心である。

セルジュは……完全に無視。

徹底的にハブられていた!!


「リオネル・ロートレック君って、まだ18歳だけど、ちゃらちゃらしていないの!真面目で努力家でひたむき、それでいて、凄く強くて最高にカッコいいの!」

「それなのに、ナタリーが可愛い『弟』扱いするからあ!」

「だって、だってぇ! ホント、『弟』にそっくりだったんだもん!」

「ナタリー以外は、皆、『彼女希望』宣言したんだよぉ!」

「そうそうそう!」

「でもでも! そんなシチュエーションになったら、普通は、がっついて私達を口説くのに、リオネル君は全然そんな事をしなかった!」


「リオネル君って、優しくて真面目で、ストイックだったよねぇ。それでいて、熱いの! 本当にナタリーさんが好きだったのよぉ! それって、凄くかっこいいじゃない! 私、じ~んと来て、大好きになっちゃった!」


そして何と! 何と! また何と!

オレリアが、熱く語る親友の言葉に反応……


「へえ! 意外!! じ~んと来て、大好きって!! 男子には超シビアな貴女がそこまで言うんだ? リオネルさんって素敵な人ね! 興味あるわ! 私も、そういう年下の男子が好みなの!」


などと言い出したのである。


そしてオレリアの親友が「ちらっ」とセルジュを見て、


「ねえ、場所変えない! 良い店があるの! 美味しいランチしながら、女子だけで、リオネル君の話をして盛り上がろう!」


「「「「「「「賛成!!!」」」」」」」 


こうして隣席の女子達はオレリアとともに、ランチへ行く事となってしまった。


麗しのオレリアと、甘いふたりきりのデートを夢見ていたセルジュにとって、

とんでもなく大ショックである。


しかし!

『衝撃』はそれだけではなかった!


立ち上がったオレリアは、キッと、厳しい視線をセルジュへ投げかけた。


「セルジュさん! この際、はっきりとお伝えしておきます!」


「オレリア……さん」


「私、貴方に恋愛感情が全くありません!」


「え!?」


「貴方って、最低!!」


「さ、最低!!??」


「何かにつけて、自分は凄い魔法使いの家に生まれた、父が宮廷魔法使いで、兄がエリート官僚、って自慢ばかり! 挙句あげくの果てに、俺はふたりを超える天才だぞって言うし、何それ? って感じで、もう、うんざりしてます!」


「ぐ、ううう……」


「もう二度と会わないから、絶対に誘わないでください! とっても迷惑ですっ! 今日は、それを言いに来ました! じゃあ、永遠にさようなら!」


がががががが~~~んんん!!!!


まさに、ざまあ!!!

まさに因果応報!!!


弟のリオネルを散々おとしめ、最底辺のゴミ屑扱いした天罰が、

セルジュへ、「ずがががーん!」と下ったのだ!!!!


「さあ、行きましょ!」


「「「「「「「は~いっ!」」」」」」」


リーダー格の女子職員が出発を促すと……

オレリアを含め、女子達全員が去って行った。


ひゅうううううううう~~~……


たったひとり残され、呆然としたセルジュの傍らを……

『一陣の風』が寂しそうに吹き抜けていったのである。

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