第73話「リオネル、奮闘する!」

リオネルは激闘の末、難敵の上位種『オークカーネル』を倒した。


そしてクレマンへ告げた通りに……

洞窟内から、数十キロもある大きな岩石をいくつも持ち出し、積み上げて、

オークどもの巣窟となっていた洞窟の入り口を封鎖。

葬送魔法『聖印』もかけておく。


勝利の安堵に満ち、『行き』よりも足取り軽く、アルエット村へ速攻で帰還した。


時刻はまだ、お昼前。

正門前へ到着し、リオネルが手を振る。

リオネルの帰還をまだかまだかと待っていた、物見台に陣取るドニが、歓び大声を出す。


「うおい! 兄貴だあ! リオネル兄貴が無事に帰って来たぞぉ!!」


ドニの指示で、すぐに正門が開けられた。

例によって、洞窟から村までの約15㎞を……

リオネルは余力を充分残しながらも、15分を切り、駆け抜けていたのである。


リオネルは笑顔である。

クレマン、エレーヌ、アンナ以下アルエット村の村民へ『良い報告』が出来るからだ。


「ただいま、戻りました」


リオネルの報告を聞き、クレマンが進み出る。


「おお、リオネルさん、良くぞ戻った!」


どこぞの王様が言うようなセリフで、クレマンがいたわってくれた。

リオネルは軽く息を吐くと、一気に、そして余計な修飾語を抜きにして、

シンプルに報告した。


「村長! ご報告します! やはり洞窟にはオークの上位種『オークカーネル』が巣喰っていました。相当なレベルなので、苦戦しましたが、何とか倒しました。洞窟も出入り口をふさぎ、封印しました」


対オーク上位種の綿密な作戦を立てて倒した事。

特異スキル『念話ハイレベル』を習得した事は……黙っておく。

レベルアップした事も言わない。

説明がややこしいし、下手をすれば単なる自慢となる。


「おお! リオネルさん! 良くぞ、平和を脅かすオーク上位種を倒してくれた! これでアルエット村は救われる! 後でしっかり褒美を取らせよう」


これまたどこぞの王様のように、クレマンはリオネルを褒めたたえた。


無理もない。

愛娘エレーヌ、愛孫アンナと和解し、今リオネルからオークどもの首魁を討伐した事を聞いたのだから。

懸案事項は全て解決し、今まさに我が世の春……なのだ。


対して、リオネルは苦笑する。


「いえいえ、村長。強敵オークカーネルと配下を倒しても、平和は一時的なものだと思ってください」


「おお、そうなのか? あいつら以上の敵は、そう現れないと思うが……」


「いえ、『勝って兜の緒を締めよ』と言います。油断は絶対に禁物ですよ。魔物だけでなく、山賊とか、追いはぎとか、人間の賊も襲って来ますから」


「村長! リオネルさんの言う通りですよ!」

「リオにいちゃんの言う通りですよ!」


エレーヌが釘を刺し、アンナも可愛らしく母に追随した。


「うんうん! 了解! エレーヌとアンナの言う通りじゃ! ふたりが言う事なら間違いない!」


もう確定だった。

エレーヌ、アンナと完全に和解したクレマンは……

愛娘と愛孫の言う事、頼み事は何でもハイハイ聞く、『単なる好々爺』と化していたのである。

今後は、家族として幸せに暮らして行くに違いない。


「村長! そんな簡単にOKするなんて、単なるもうろくした、『デレ爺さん』っすよ!」


ドニが突っ込みを入れた時……だけ。


「ごら! ドニ!! 誰が『もうろくしたデレ爺さん』じゃ! ぶっとばすぞ!!」 


頑固? 乱暴? 素?のクレマンへ戻っていたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


その後、リオネルからオークの討伐について……

改めてクレマン以下、自警団のメンバーへ詳しい報告が為された。

オーク襲撃の被害者である、エレーヌとアンナも加わっている。


その席でリオネルは再び「勝って兜の緒を締めよ」と全員を戒めた。

クレマンも、オークとの戦いを目の当たりにしている為、熱心にフォローしてくれた。


そして、その夜……

クレマンが貸してくれた別宅で、リオネルは久しぶりにぐっすり眠った。


エレーヌとアンナ、クレマンを、アルエット村を守るという、己に課した使命を果たし……

安全な場所で寝袋へ入ったせいで、さすがに気が抜け、バタンキュー! 

だったのである。


しかし、『有言実行』がリオネルのモットーだ。

既にリオネルお得意の?『ハードスケジュール』が組まれていて、

村民達へ周知されており、早速実行される事となった。


アルエット村は農村で、農作業中心の生活の為、朝が早く始まるのも幸いする。


……翌日、リオネルは夜明け前、午前3時に起床。

午前4時過ぎから、リオネルを心酔する自警団の若手ドニ達を連れ、村の周辺を早朝パトロール。

そのパトロール後、軽い朝食を摂り、そのまま村民達に混ざって農地で、作業の手伝いを行う。

牛、豚、鶏など家畜の世話もする。

一緒に働く事で、村民達と心の距離も更に縮まり、絆も深くなって行く……


好奇心もあって……

村民達から、農作物、家畜についていろいろ教授して貰い、

数多の知識を得て翌日実践する繰り返し。

村民達の作業を見て、チートスキル『見よう見まね』が発動。

リオネルの努力もあり、農作業の基礎をほぼ習得出来たのは言うまでもない。


昼食後は、『「リオネルが教授する番』となり……

夕方まで、戦闘訓練の『指導教官役』を務めた。


結局この戦闘訓練は、リオネルのひたむきさに心打たれた村民が自ら希望して、

村民全員の参加となった。


これまで「学ぶ」事が多かったリオネルにとって……

「教える」という真逆の行為はとても新鮮であり、楽しかった。


リオネルはふと、ギルドで受けた講座の教官達を思い出し、懐かしく感じた。

自分が『教師』になる……のも面白いと思う。


夕食は毎晩、エレーヌとアンナ、クレマンと共に摂る。

そして夕食後は物見台で、ドニ達へ警戒、警報周知の方法をこれまた指導した。


そして、クレマンからは褒美として、『金貨30枚』を渡すと言われたが……

リオネルは断った。


但し、宿の主アンセルムの忠告を入れ、労働の対価は全く無料……というわけではない。


クレマンの別宅に泊まる毎日の宿泊費と、エレーヌ宅で食べる食事代を、

『タダ』にして貰ったのである。


リオネルにしてみれば……

日々の平和な暮らしと、エレーヌとアンナ、クレマンを始めとした、

温かな村民達との心の触れ合いは「金品とは代えがたい」と感じたのである。


以上のスケジュールを連日こなした2週間後……


「村民の気持ちがひとつになった」とはっきり感じたリオネルは、

エレーヌとアンナ、クレマンへ、


「そろそろ村を出て、冒険者の街ワレバットへ向かう」と、

出立しゅったつを申し出た。


対して、アンナは予想通り、大反対!

泣いてイヤイヤをしたのだが……

クレマンまでが、リオネルの出立を大いに残念がり、身振り手振り入りで、

懸命に止めた。


そして、リオネルの出立を何とか阻止しようとする、身内のふたりを見守りながら……

エレーヌは寂しそうに、柔らかく微笑み、リオネルを見つめていた……

真っ先に止めるかと思いきや、彼女は何故か、何も言わなかったのである。

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