第87話「行け! 奴らを蹴散らせ! 圧倒せよ!」

リオネル達が空き家――『宿舎』から表に出ると……

パトリスが言った本日この時出撃可能な、いろいろな仕様の着古きふるした革鎧を着込み……さび付いた剣、曲がったメイス、手作りのこん棒などを手にした……

粗末な武装のキャナール村『自警団員達』が、「ずらり」と並んでいた。


自警団員達は総勢で80余名といったところ……

MAX100名余と聞いていたから、20名ほど負傷しているのかもしれない。


「よし、早速出発だ。モーリス、私について来てくれ」


「分かった。リオ君、そしてミリアン、カミーユは私とパトリスの少し後ろからついて来てくれ」


「「「了解!」」」


すぐにモーリス、パトリスは並んで歩き出し、リオネル、ミリアン、カミーユが続く。

その後を、パトリスから指示が出ていたらしく、自警団員全員がついて来る。


しばらくすると、モーリスとパトリスふたりの会話が聞こえて来た。


ふたりは声のトーンを落としているが、リオネルの耳は聞き取れた。

身体強化魔法がかかっているのに加え、人間の倍ほどの聴覚を持つといわれる犬、猫の能力が聴力を底上げをしてくれているようだ。


先に口を開いたのはパトリスである。


「モーリス、いろいろ、すまぬ……」


「分かっている。気にするな、パトリス……元気を出せ。しかし念の為、言っておくが、リオネル君や弟子達に無理はさせんぞ」


「ああ、けして無理はしないで欲しい。まだ私達は戦える……村民達にそう思わせてくれるだけで構わない……そうでないと、日々ゴブリンどもに蹂躙じゅうりんされ、未来どころか、明日も見えず、心が折れてしまいそうだ」


久々に本音で話せる『親友』に会い、パトリスはひどく『弱気』になっていたのだ。

親友にだからこそ、さらけ出せる……

頼られる村民の前では、けして見せられぬ『姿』であり『言葉』である。


モーリス、パトリスが再会した時にも感じたが、

お互いを支え合うふたりの姿を見て、リオネルはひどく羨ましかった。


改めて思うのだ。

リオネルにはここまで心を許せる同世代の友は居ないと。

幼馴染、同級生は……とても冷たく、まともに話さえしなかったのだ。


宿の主アンセルムがようやく心を許せる存在となったが、いかんせん年齢差がある。

冒険者ギルドの職員ナタリーは憧れる姉の域を出ない。


信頼し合い、気のおけない親友を、……『背中を任せられる者』と人は言う。

どこかで待っていると信じる『想い人』とともに……

深い心の絆を結べる存在と、いつの日にか巡り合いたい。


リオネルはそう思い、歩みを進めていた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


ものものしい中、これまた自警団所属の門番に村の正門を開けて貰い……

リオネル達は村外へ……

ここで自警団員15名ほどが離脱。

念の為、村の防衛に残る……らしい。


引き続き、パトリスとモーリスに先導され……

周囲を警戒しながら、用心深く進んで行き……

一行はやがて、農地に到着した。


農地の奥から……

パーティピーポーの如く、大騒ぎし、遊ぶような数多の咆哮が聞こえて来る……


そして、目の前で展開していた光景は……


ぎゃわうっ! きへいっ! くわおっ! ぎへへっ! きゃうおっ! にへへっ!

ぎゃわうっ! きへいっ! くわおっ! ぎへへっ! きゃうおっ! にへへっ!


ぎゃわうっ! きへいっ! くわおっ! ぎへへっ! きゃうおっ! にへへっ!

ぎゃわうっ! きへいっ! くわおっ! ぎへへっ! きゃうおっ! にへへっ!


「うわわわわ! ひ、ひ、ひ、酷いよおっ! な、な、何これっっ!!??」

「あ、あ、あ、ありえねぇぇっっ~~!!??」


ミリアンとカミーユが、驚愕するほど、とんでもない『惨状』であった。


リオネル達の目の前に広がるのは……農地ではない!!

無残に荒れ果てた原野と全く変わりなかった。

否! それ以下、絶望を暗示する不毛の地である!!


丹精込めて育てられた農作物は……

食い荒らされ、引き抜かれ、打ち捨てられていた。

うねは完全に崩され壊され、ゴブリンどもは面白がり、

ぐちゃぐちゃと、『どろ浴び』までしている。


そして!

超パーティピーポー化したゴブリンの総数は………パトリスが告げた100体どころではない!


その10倍以上!!

リオネルがざっと見たところ、農地に現れたゴブリンの総数は1,000体以上は楽に超えていた。

巣穴に居るゴブリンも含めたら、全体の総個体数は、その倍以上居るかもしれない!!


これでは、素人に近いキャナール村の自警団では、絶対に歯が立たない!!

攻めかかっても、返り討ちになる!!

……全員が喰われてしまうだろう!!


パトリスは驚愕し、呆然となる。


「くうううっ!! い、いつもより、ゴブリンの数が!! あ、圧倒的に多い……」


ぎゃわうっ! きへいっ! くわおっ! ぎへへっ! きゃうおっ! にへへっ!

ぎゃわうっ! きへいっ! くわおっ! ぎへへっ! きゃうおっ! にへへっ!


ぎゃわうっ! きへいっ! くわおっ! ぎへへっ! きゃうおっ! にへへっ!

ぎゃわうっ! きへいっ! くわおっ! ぎへへっ! きゃうおっ! にへへっ!


多くのゴブリン達が、リオネル達に気付く。

だが……人間を完全に舐め切っていて、威嚇さえしない。


「モーリス……これが、キャナール村の現状……なんだ……」


力なくつぶやくパトリス……


「ううう、パ、パトリス! た、確かに! か、か、数が多すぎる!! こ、こ、これでは! さ、さ、作戦など無意味だ!! た、戦ったとしても、体力が持たずに、力尽きるぞ。攻撃魔法を撃っても、魔力がもたぬ……リオ君、ミリアン、カミーユ、と、とりあえず、た、待機だ」


そして、想定外の個体数を目の当たりにし、絶句し唸るモーリス……


「とりあえず待機」というモーリスの言葉を聞き、リオネルも考える。


ここは、平坦な農地。

陣地を築く場所も時間もない。

ゴブリン渓谷で戦ったような地の利がないのだ。

一旦、撤退しかないのか……


「うう、ううう……こ、怖いぃぃ」

「ち、ちくしょう! すげぇ数だぜ! リオさんが昨日、原野で倒した3倍、4倍、いや! 5倍近く居やがる!」


リオネルの傍らで、怯えるミリアン。

前に立って姉をかばい、悔しそうに歯噛みするカミーユ。


「「「「…………………」」」」」


自警団員達は、己の無力さに全員が、無言……ただただ、うなだれていた。


そして、リオネルはひとり、気持を無理やり抑え込み……

鋭い視線でゴブリン達を見据えている。


何か、良策は?

突破口はないかと!


リオネルは唸る。


何を臆している!

俺は心に誓ったはずだ!

血がつながった肉親の父、兄に見捨てられた自分だからこそ!

どんな事があっても! 友を! 仲間を! 虐げられ、頼って来る者達を!

けして見捨てないと!!


身体を張り、命を懸けて戦うのだ!!

そして必ず守る!! 

絶対に守り抜く!!


ここで!

内なる声が、静かにだが熱く、リオネルにささやいて来る。


ギフトスキル『ゴブリンハンター』を授かりしお前ならやれる。


行け!

奴らを蹴散らせ!

圧倒せよ!

と……


内なる声で、リオネルは確信する。


そうだ! 

ゴブリンならば、この数でも俺は勝てる!


ギフトスキル『ゴブリンハンター』が俺に凄まじい力を与えてくれると。


「ふっ」


勝利を確信したリオネルは、大きく頷くと不敵に笑った。

そして、「すたすた」と歩いて行く。


「モーリスさん、パトリスさん、ミリアン、カミーユ……作戦を変更します。俺が、単独で行きます……後方待機……宜しくです!」


「む、無茶だ!? や、やめろ!! リ、リオ君!!」

「な、何、言ってる!? つ、突っ込むなんて!? し、死ぬぞおぉぉ!!」 


「「リオさんっ!」」


制止するモーリス、パトリスの前に歩み出たリオネルは……

ミリアン、カミーユが名を呼ぶ声を背に、「だん!!」と大地を蹴り、

勢い良く、走り出していたのである。

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