第88話「大逆転」

「行け! 奴らを蹴散らせ!  圧倒せよ!」


心の内なる声が発した言葉に従い……リオネルは勝利を確信した。


モーリス、パトリス、ミリアン、カミーユ、そして自警団員達を後方に残し、

今や『疾風の弾丸』と呼ばれる『強者』は、凄まじい速度で疾走。

あっという間に、ゴブリンどもから100mくらいの距離まで接近した。


しかし、リオネルはそのまま突っ込まず、一旦その場で止まり、ゴブリンどもを見据える。


ごはあ! ぐあお! がああ! きいあっ! ごおお! かああっ!


無造作に近づいたリオネルを見て、ゴブリンどもは歯をむき出し、唸り、威嚇する。

しかし、リオネルは動じない、臆さない。


リオネルは改めて、敵を見る。

観察する。

全体の状況を認識し、把握した。


カミーユが言ったように……原野で戦った5倍。

1,000体以上は居るだろう。


対して自分はぼっちのひとり。


1対1,000!!


しかし、内なる声が、

「ゴブリンハンター習得者ならば、所詮200も、1,000も同じザコだ」とささやき、

リオネルの心は威嚇するゴブリンどもを、『遥か高所』から、見下ろしていた。


「てめえら……外道へ堕ちた、ザコ妖精のくせに、俺達、人間をなめんじゃねぇぞ!」


そんなリオネルの挑発的な言葉に、ゴブリンどもはまた威嚇で応える。


ごはあ! ぐあお! がああ! きいあっ! ごおお! かああっ!


しかし、リオネルにはゴブリンの唸り声など、

『負け犬の遠吠え』にしか聞こえない。


そういえば俺、『負け犬の人生』と父や兄達から言われたな……

ふっ、今こそ、はっきりと、言い返してやるぜ!


「俺は、負け犬なんかじゃねぇ!!」


暗黒の歴史が脳裏によみがえったリオネルは不敵に笑い、

「ずいっ」と大きく、一歩踏み出した。


そんなリオネルの挑発行為が、ゴブリンどもの殺戮本能さつりくほんのうに火を点ける。


おおおおおおおっ!!

きえおおおおおっ!!

うらあああああっ!!


その数、1,000体以上のゴブリンが、たったひとりのリオネルへ、

雄叫びをあげ、襲いかかって来た。


後方で見守る誰もが、血みどろの惨劇を確信した。


たったひとりの人間がゴブリン1,000体に敵うはずがない!

あっという間に殺され、喰われてしまうと!

小さな肉片も、骨も残らないだろうと!


しかし!

奇跡が起こった!


「くおおらっ!!」


気合一発!!

リオネルが放った魔力と視線が、迫り来るゴブリン達1,000体の襲撃を、

「びたっ!」と止めたのである。


否! 止めたどころではない!


ぎゃっぴい!? ひええん! くおおん! ひいいん! うわぁおおん!


一気呵成の威嚇が怯え、驚き、悲鳴に変わり……

迫っていたゴブリンどもの先頭が急ブレーキ!!

折り重なり、バタバタと倒れてしまった。


まさに原野の再現!!


ドミノ倒し! ドミノ倒し! ドミノ倒し! ドミノ倒し!ドミノ倒し!

ドミノ倒し! ドミノ倒し! ドミノ倒し! ドミノ倒し!ドミノ倒し!

が際限なく起こりまくり、もう大混乱。


後方では、混乱し、同士討ちまで出る始末である。

原野の時と同様、ゴブリンどもが進撃する勢いは完全に止まっていた。


ゴブリンどもにとっては、ドラゴンの……否!

魔族の支配者、『魔王のひとにらみ』に等しい恐るべき強力過ぎる『威圧』である。


リオネルは敢えて、特異スキル『フリーズ』等々を使用しなかった。

『威圧のみ』でどこまで効果があるか、試したのである。


「あ、あ、あれほどの! た、た、大群のゴ、ゴブリンどもが! リ、リオ君ひとりにっ!? お、お、怖れおののいているっ!! す、す、凄すぎる! やはりっ! つ、つ、使っているのは! い、い、威圧の技だっ!!」

「リ、リ、リオネル君!? き、君は一体!?」


「わお!! リオさんっ!! 超すごぉ!!」

「うわあ!! う、うっそだろぉ!? リオさんっ!!」 


「「「「「!!!!????」」」」」


後方で見守っていたモーリス、パトリス、ミリアン、カミーユ、そして自警団員達は……

ただただ呆然とし、リオネルとゴブリンを見守っていた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


ごはあっ! ぐおおっ! がああっ! 


大混乱するゴブリンどもの中で、何とか平静さを取り戻し、向かって来ようとする者が居る。

しかしまだ足腰がおぼつかず、よろよろしていた。

『上位種』と呼ばれる指揮官役たる『ゴブリンカーネル』3体であった。


ゴブリンカーネル3体も精神的ダメージは大きく受けたが、

どうやらリオネルの『威圧』に何とか耐えたらしい。

さすがに上位種、ノーマルタイプよりも心身の耐久性が遥かに高いのだろう。


だが、リオネルには想定内だ。


「ははは、おら、さっさと来いよ」


3体のゴブリンカーネルは、『荒くれぼっち』リオネルの『挑発』を聞き、


ごはあっ! ぐおおっ! がああっ! 


と、再び吠え、リオネル目がけ、襲い掛かって来た。

ひっかき、噛みつき、体当たりしようと!


しかし!

リオネルは圧倒する。


ぱああん! どしゃ!

ばあんっ! どしゃ!


1体目は顔を張られ、2体目はシールドバッシュされ、吹っ飛び、地へ伏したのだ。


そして最後のゴブリンカーネル3体目は、リオネルに「むんず」と頭を掴まれ、

大混乱する群れへ見せしめのように「ぶんぶん」風車のように振り回され、


終いには、


べっしゃ!


と思い切り、大地へたたきつけられた。


リオネルに襲いかかった上位種3体とも……「ぴくり」とも動かない。

速攻で絶命したようだ。

まさに即死、瞬殺である。


ダメだ!!

敵わない!!

こいつは俺達の天敵だあ!!

た、助けてくれぇ!!


ぎゃっぴい!? ひええん! くおおん! ひいいん! うわぁおおん!


悲鳴とともに、そんな心の声が、念話を習得したリオネルの心に聞こえて来た。


このキャナール村で、食物連鎖しょくもつれんさの上位種として……

人間を小馬鹿にし、農地で思うがままに暴れ回っていたゴブリンどもは、

リオネルの『威圧』により怯え切った上、指揮官役をあっさり倒され、更に底知れぬ恐怖に心身を染められたのだ。


こうなると最早、彼らの選択肢は『逃走』しかない!!


ぎゃっぴい!? ひええん! くおおん! ひいいん! うわぁおおん!

ぎゃっぴい!? ひええん! くおおん! ひいいん! うわぁおおん!

ぎゃっぴい!? ひええん! くおおん! ひいいん! うわぁおおん!


全てのゴブリンが怯え悲鳴を上げながら……

我先に、彼らの本拠地『巣穴』があるらしき方向へ向かい敗走を始めた。


たったひとりぼっちで!?

ゴブリン1,000体を!!??

威圧し、圧倒したのかああ!!??


リオネルの起こしたのは、前代未聞!!

信じられない『奇跡』である!!!


おおおおおおおおおおおおおおおおっっっっ!!!!!!!


モーリス、パトリス、ミリアン、カミーユ、そして自警団員達は大歓声をあげた。


まさに『大逆転』!!!

こうなれば、反撃されるリスクは、ほぼ『ナシ』である。


「今でぇす! 皆さあん!! 追撃しましょうお!!」


「うおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!」


張り上げるリオネルの呼びかけに対し、応えるときの声。


主導権は完全に、『ゴブリン』から『人間』へと変わった。


これまでキャナール村民が受けた、多大な苦しみが……

大嵐が、一気に快晴になるような、鮮やかな逆転勝利であったのだ。

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