第84話「心の距離が近くなって来た」
翌朝……
モーリスの言った事は本当となった。
いつもの生活習慣で、午前3時30分過ぎに、リオネルは起床した。
さすがに真夜中のこの時間、モーリス、ミリアンとカミーユはまだ眠っている。
二度寝をするのもいかがなものかと思い……
そのまま荷物の片付け、整理をしていたら……
何と!
午前4時過ぎに、村長――パトリス司祭が顔を出した。
「おはよう!」
しかし、モーリス、ミリアンとカミーユはまだ眠っている。
3人を起こさないよう、リオネルは声を抑えて挨拶する。
「おはようございます」
「おはよう……君は確か、リオ君、リオネル君だったな?」
「はい、村長。リオネル、リオネル・ロートレックです」
「ははは、絶対に全員寝ていると思って来てみたら、リオネル君が起きていたなんて残念! 大外れだったな」
パトリスの物言いを聞き、リオネルの身体が「びくっ」と反応する。
生涯、絶対に忘れる事はない、意地悪な創世神教会の司祭に笑われ、
思い切り馬鹿にされた、『スキル授与の悪夢』が甦る……
「ざ、残念、そして大外れって……村長」
「おう、どうした? 顔色がひどく悪いぞ、リオネル君」
「は、はあ……」
「リラックス、リラックス。私の呼び方は、もっとフレンドリーに。村長でなく、司祭でもない。パトリスさんで構わんよ」
「じゃ、じゃあパトリスさん、ひ、ひとつだけ、お願いします」
「おう、何だね? お願いとは? まだ顔が、えらく引きつってるぞ」
「あ、あの……ざ、ざ、残念、大外れって……お、お、俺にとっては、と、とんでもなくバッドな禁句なんです」
「ほうお! 『残念、大外れ』が? とんでもなくバッドな禁句?」
「ぐわっ! また言います? は、は、はい。と、特に司祭様から言われると、暗黒歴史が何度もリフレインして、ダメージが、とんでもなくでかいんです。どうか、カンベンしてください……」
「ふむ、暗黒歴史が何度もリフレイン? 成る程、そうか。じゃあ、大事な事だからもう一度聞こう、司祭から言われる『残念、大外れ』がかい?」
「うっわあ! 確認した上、ダメ押しされるなんて……あの、わざとおっしゃってます?」
「あはは、ま、い~じゃないか。分かった、分かった、もう言わないよ」
「あ、ありがとうございます。……ところで、こんなに朝早くからパトリスさんが、いらっしゃるのって、仕事の話……ですよね」
「ああ、そうだ。これからリオネル君達には、出撃して貰うよ」
「出撃ですか? 何か、村外に魔物が出るから、退治してくれとか、そういう話ですか?」
「ああ、そうだ。君は察しが良いねぇ」
「ええっと……多分、完全にその段取りを知らないのは、この中で俺だけみたいなんで。念の為に確認して構わないっすか?」
「おお、構わないぞ」
「つまり……村長たるパトリスさんが、村民の方々がお持ちの、いろいろな懸案事項を把握されている。その中で冒険者が解決出来そうな案件を取りまとめ、仕切って、俺達に振ると……」
「ふむふむ、大体、その通りさ。今回お願いするのは、ひとつだけどね」
「ひとつ、お願いですか。成る程、それで滞在中は、村の懸案事項を解決する俺達が、存分に働けるよう、気遣って、こういうふうに、もてなせと、村民の方々にお伝えした」
リオネルは、そう言い、積み上げられた食料品の山を指さした。
パトリスは、食料品の山を見て満足そうに頷く。
「ははははは、ピンポーン! 大当たりだ。付け加えれば、昨日伝えたように、私から、ささやかだが謝礼金も払うよ」
「了解です。モーリスさんの意向や指示もあるでしょうが、俺は基本、精一杯やらせて頂きます。という事で……そろそろ起こした方が宜しいですよね?」
「ああ、私がモーリスを起こそう。リオネル君は、双子ちゃんを起こしてくれるかね」
「了解です」
もしも行使すれば、モーリス達を起床させられる事が分かっている。
ここで特異スキル『リブート』レベル補正プラス15―再起動を使うのは一案だが、
リオネルはやめておく。
パトリスへ自慢するような趣きとなるし、敢えて得手を報せる必要はない。
リオネルとパトリスは一緒に、いまだ眠っているモーリス達を起こしたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そんなこんなで、モーリス達が起床。
朝食が「まだだ」というパトリスを、モーリスが引き止めた。
「一緒に食べよう」と誘う。
対して、パトリスがOK。
支度の為、リオネルが厨房に立った。
ミリアンとカミーユが調理を手伝う。
時刻は未だ午前5時前……
こんな時間だが、村民が数人また差し入れにやって来た。
アルエット村と同様、農村であるキャナール村は、やはり朝が早いのである。
差し入れに来た村民達はパトリスが一緒に居るのを見て、笑顔となる。
パトリスは、モーリスの許可を得て、村民達も朝食に誘う。
宿泊所である『空き家』は一気に、にぎやかとなった。
村民達は、調理をするリオネル達にも声をかけて来る。
リオネル、ミリアンとカミーユも元気良く応える。
……リオネルの調理を手伝いながら、ミリアンが言う。
「師匠のモーリスさんと、旅をする際、こういうふれあいの積み重ねで、私とカミーユは、少しずつ陰キャではなくなったんですよ」
カミーユも姉に続いて言う。
「リオさんになら言えますが、実は俺達、捨て子だったんです。拾われて王都の創世神教会の孤児院で育ちました。俺も姉さんも、無口でひどく人見知りでした。今は全然違いますけど」
「……そうだったんだ」
「ええ、まだ幼い頃、孤児院の警護に来ていたモーリスさんが、運動神経の良い私達姉弟に声をかけ、稽古をつけてくれたのが、冒険者見習いになるきっかけでした」
「規定で15歳になったら、俺達、院を出なければならないんですが、モーリスさん、『自分もいずれ教会をやめて、冒険者になるから一緒にやろう』と誘ってくれたんでっすよ」
これまでミリアン、カミーユといろいろと話をしたが……
当たり障りのない話ばかりで、このような『身の上話』はしていない。
だんだん……
ふたりと、心の距離が近くなって来たと感じる。
こんなちょっとした心のふれあいでも……
『ぼっち』で「散々はぶられていた」経験者のリオネルは、とても嬉しくなったのである。
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