第83話「何でもOK! それは反則!」
キャナール村の村長で、創世神教会のパトリス・アンクタン司祭が用意してくれた宿泊用の空き家は……
そこそこ設備の整った空き家である。
空き家は、かまど付きの厨房があり、3間続きの部屋で構成されていた。
戸外には、井戸、トイレも備わっていた。
だが、部屋はからっぽ。
家具は皆無、ベッドもない。
モーリスから予備の寝袋を貸そうと言われたが、リオネルは当然自前の寝袋を使用する。
また完全に『素泊まり』であり、村から食事は出ない。
食事は持ち込みの食材を『宿泊者』が調理、いわゆる自炊する約束事となっていた。
このパターンはアルエット村で村長クレマンの別宅に泊まった時と同じである。
リオネルは既に『この作法』を学習し、認識していた。
ここは、新参の自分が気を利かせ、率先して「作業した」方が良いだろう。
という事で、リオネルはモーリスへ手伝いを申し出る。
「モーリスさん、馬車から食材を出しますか? ちなみに俺、料理が出来ますけど、もし良かったら、やらせてください」
しかし、モーリスは「ニッ」と笑い、手を挙げ、リオネルを制した。
「まあ、落ち着け。しばし待て、
「落ち着け? 待て? ですか?」
「おう!」
そう、モーリスの言う通りだった。
ここキャナール村は、アルエット村とは「作法が違っていた」のだ。
違うというのは……すぐに判明した。
村民が次々と訪ねて来たのである。
「ちわっす! あんたらが冒険者かあ! 村長に聞いたぞ、これは差し入れじゃ、良かったら食べてくれや!」
「おう! お前らが冒険者かい! 村長がおっしゃっていたぞ、村の為に働いてくれるんだってな。コレ食べて、気合入れて、宜しく頼むぜえ!」
「冒険者さん! 村長にお聞きしましたわ! 私達の為に頑張ってくださいね! これウチで焼いたパンなの! 良かったら食べてくださあい! 応援してまあす!」
という感じで……
肉、野菜、パン、チーズ等々が、山のように積み上げられた。
牛乳入りの樽も数個……
村民達が大量の、そして新鮮な食材を差し入れしてくれたのである。
どうやら、パトリス司祭の『指示』で、村民がすぐに対応してくれたらしい。
全員で良くお礼を述べ、訪れた村民が帰宅した後……
何故か、得意満面なのは、モーリスである。
「あはははは! どんなもんだい! これで滞在中、食糧の心配はナシ! 無くなったらまた差し入れがあろう! 私のお陰だぞ!」
当然、ミリアンとカミーユが「突っ込み」を入れる。
「いやいやいや、師匠、パトリス司祭様の人徳だって!」
「そうだ! そうだ!」
対して、モーリスは猛然と反論する。
「何を言うか! 私とパトリスは親友だぞ! 親友とは一心同体! 彼がやった事はイコール、私がやった事なのだあ!」
熱く語るモーリスだったが……
「はい、分かりました。ありがとうございます、モーリスんさんのお陰ですね。じゃあ俺が料理します」
リオネルが淡々と言葉を戻すと……
「はあ~、何だよ、リオ君はあ……反応うっすいなあ」
モーリスは場が盛り上がらない事にガックリ。
しかし、
「うふふ、リオさん、ナイス!」
「あははは! そうそう、師匠はすぐ調子に乗るから」
ミリアンとカミーユには大いに受けたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
とんとんとんとんとんとん! とんとんとんとんとんとん!
ざっく! ざっく! ざっく! ざっく! ざっく! ざっく!
リオネル達が宿舎とした、キャナール村の空き家、厨房には、
いかにも手際が良さそうで軽快な、調理の音が響いている。
村民から差し入れして貰った食材を使用し、アンセルム直伝の腕をふるい、
リオネルが料理を作っているのだ。
じゃっ! じゃっ! じゃっ! じゃっ! じゃっ! じゃっ!
じゅ~~っ! じゅ~~っ! じゅ~~っ! じゅ~~っ!
リオネルが調理する様子を見て、ミリアンとカミーユが感嘆している。
「うわ~っ! リオさんって、ホント何でもOKなんですねえ!」
「ホント! ホント! めちゃくちゃ強くて、風の魔法もバッチリ、乗馬も得意だし、御者もこなせて、その上、料理も大得意なんて、反則すよお!」
「決めた! 私、料理、教えてもらお!」
「姉さん、俺もシールドバッシュや体術を教えてもらお!」
一方、腕組みをして、モーリスは満足そうに頷いていた。
「うんうん! 弟子のお前達にも分かるだろう? さすがリオ君は、私が見込んだだけの事はある!」
「あ~っ! リオさんが、さすがって、何ぃ? 師匠は何でもかんでもすぐ、自分の手柄にするんだからあ~」
「姉さんの言う通りだよ! リオさんを自分が見込んだとか、ホント、師匠はせっこいっなあ!」
「何だとぉ! うっさいぞ、お前らあ!」
という騒ぎを傍らに見ながら……
リオネルの料理は完成した。
作ったのは……
豚肉の塩焼き、豚肉のパテと、これまた豚肉と野菜のラグーである。
塩焼きは説明不要だが……
パテは肉をミンチより更に細かく刻み、ペースト状に練り上げる料理だ。
またラグーは、シチューに近い煮込み料理である。
村民が差し入れてくれた中に豚肉があったので、パテを作り、
ラグーは豚肉と野菜を煮込んだのである。
そしてパンにチーズ、新鮮な牛乳もテーブルに並べられた。
「さあ、食べよう。創世神様に感謝を……」
元司祭のモーリスの言葉で食事は始まった。
「わあ! うっま!」
「激うっまです! リオさん!」
「うん! 美味いぞ、リオ君!」
3人の賞賛の声を聞き、リオネルは嬉しそうに頷くと、自分も食事を始めた。
ここでモーリスが言う。
真剣な表情をしていた。
「明日の朝、多分パトリスが来る。私達が請け負う仕事の説明があるはずだ」
この村で請け負う仕事……
起こっている問題とは……一体、何だろうか?
自分に解決出来るレベルなのだろうか?
リオネルは食事をしながらも、いろいろと考えていたのである。
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