第82話「キャナール村の司祭」

王国街道から村道へ入り、5分ほど走って、リオネル達一行は、キャナール村へ到着した。


キャナール村の正門と周囲を見たリオネルは既視感デジャヴュを覚える。


このキャナール村も高さ5mぐらいの武骨な丸太の防護柵に囲まれていた。

村道が突き当たる正面には、同じようなぶ厚い板で造られた正門があり、固く閉ざされているのも同じ。

そして正門の内側、やや後方に高さ7mぐらいだろうか、物見台を備えた木製のやぐらがあるのも同じだった。


そして物見台に陣取る革鎧姿の門番は、金髪の少年ドニ……ではなく、

たくましい中年の男である。


何故なのか、ひどく男はピリピリしていた。

周囲に視線を走らせた後、眼光鋭く、リオネル達を見て話しかけて来る。


「何だ、お前らあ? 旅人なのか?」


ここで返事をするのは、事前の打ち合わせ通り、モーリスである。


「頼も~うぉ!」


「は? 頼もう?」


まるで道場破りのように、古めかしいモーリスの呼びかけに絶句する村の門番。


「……………」


「ぷぷぷ、くうっ!」

「ううっ、くくく」


リオネルは何とか無表情を装ったが、ミリアンとカミーユは必死に笑いをこらえていた。


しかし弟子の笑いなど、おかまいなしという趣きでモーリスは声を張り上げる。


「キャナール村の門番殿! 私はモーリス・バザン! 元創世神教会司祭の武闘僧モンクで、現在は冒険者であ~る!」


しかし!

ものものしいモーリスの名乗りも、門番にはピンと来ないようだ。


「はあ? 元司祭様? その方が何用で?」


だがモーリスも、やはりおかまいなし。

全く動じていない。


「うむ! キャナール村創世神教会のパトリス・アンクタン司祭殿にお取次ぎを願いたい! 同期のモーリスが訪ねて来たと!」


ここでようやく、門番が反応する。


「え? 村長と!? い、いえ! パトリス司祭様と? 同期……でいらっしゃるのですか?」


「うむ! 私モーリスはパトリスとは創世神教会の同期、そして長年苦労を共にした大が付く親友なのであ~る!」


モーリスが得意満面に言い放つと、完全に門番の様子が変わる。

大が付く『親友』というのが、キーワードだったようだ。


「えええっ!? し、親友ぅぅ!?」


「うむ、悪いが、なるべく早く伝えてくれい!」


「か、かしこまりましたあ!! 大急ぎでぇ!!」


門番は、最後には物見台でびしっ!と敬礼。

村内へ大声で叫ぶ。


「お~い! 大至急、村長……いや! 司祭様をお呼びしろ~っ! ご親友のモーリス様がいらしたとお伝えするんだあ!!」


そして、門番が叫んでから、約10分後……


ぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ!!!


村の正門が重い音を立て、大きく開いた。


すると……

開いた正門の向こう側には教会の法衣ローブをまとったひとりの司祭が立っていた。


年齢はモーリスと同じ40代半ばくらい、日焼けした顔をほころばせている。

背はモーリスよりずっと高く長身、180㎝くらいあるだろう。

そこそこの体内魔力も有しており、魔法も行使するようだ。

この彼がパトリス司祭らしい。


「おお、モーリス! 本当にモーリスだっ!」


「おお、パトリス、元気そうだなあ!」


モーリスは、馬車から軽々と飛び降りて、駆け寄り……

パトリス司祭と「がっつり」ハグをしたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


入った村の中は、何となく物々しい雰囲気に包まれていた。


ここはキャナール村創世神教会礼拝堂……

モーリスの親友パトリス司祭に案内され、リオネル達は話している。


「モーリス、10年ぶりか?」


「ああ、パトリス、ほぼ10年ぶりだ! 凄く懐かしいぞ、おお!」


「こら! それはこっちのセリフだ、モーリス! お前が生きていて本当に嬉しいぞ!」


ふたりは本当に久々の再会らしい。

心の底から喜び合うという感じで、とても微笑ましい。

同年代の親友……否、友さえも皆無だったリオネルからすれば、羨ましい限りだ。


「それにしても、ビックリだ。パトリス、しばらくぶりに会ったと思ったら、お前が村長をしているとは」


「うむ、3年前に先代の村長がやまいで亡くなってな。彼から病の床で何度も頼まれたのだ」


「ふうむ……」


「私など、村長の器ではないと散々固辞したのだが、村民達からも、『どうしても』と言われ、やむなくな……私が後を引き受けたのを聞き、先代村長は天へ旅立たれた」


「そうだったのか」


「ああ、でも実際に村長をやってみたら、司祭の仕事と同じくらい天職と思うようになった」


「それは何よりだ」


「で、しばらくぶりに会ったと思ったら、ずいぶん若いのを、3人も連れているんだな。モーリスよ、紹介してくれ」


「分かった!」


リオネルは客分でランカー冒険者、セリアとカミーユはモーリスの弟子で冒険者デビュー前だと、紹介された。


3人のプロフを簡単に説明し、モーリスは言う。


「リオネル君とは、たまたま知り合った。まだ若いが、とても優秀な少年だ。彼の力も借りて、ミリアンとカミーユを一人前にしたい。この先のワレバットで冒険者登録し、鍛えようと思っている」


「成る程」


「旅の途中で、キャナール村の近くを通ったから、パトリス、久々にお前の顔を見たくなってな」


「おお、嬉しい事を言ってくれる!」


「それでだ、パトリス。今夜の宿を頼みたい」


「任せてくれ! と、言ってもこの教会の宿泊室は狭い。私の自宅も、お前は良くとも、若い子達が気苦労するだろう。だから、全員がゆったり泊まれるよう、村の広い空き家を用意する。そして今夜と言わず、いつまでも居てくれ」


「おお、助かるぞ!」


「その代わりと言ってはなんだが」


「おお、何だ?」


「ああ、現在、村にいろいろ起こっている、『様々な問題の解決』に協力して欲しいのだ。謝礼は別途払うから」


「『様々な問題の解決』? おお、冒険者レベルで片づけられる問題なら、ガンガン言ってくれ」


という事で……


パトリスは、すぐ宿舎となる空き家を確保してくれた。

教会の間近にある家だ。


そして、「疲れただろうから、今日はゆっくり休め」とパトリスは言い……


「じゃあ、モーリス、明日から頼むよ」


と笑顔で去っていった。


昔の『人脈』により、宿を確保し、モーリスは得意満面だ。


「ほうら! どんなもんだい! 言った通りだろ、ははははは!」


そうこうしているうち、なんやかんやで時間が経っていた……

リオネルが愛用の魔導懐中時計を見れば、午後5時となっている。


宿を与えられるのと引き換えの条件が気になった……

冒険者レベルで片づけられる、村にいろいろ起こっている『様々な問題』とは……


だが、アルエット村における経験で、リオネルは何をやらされるのか、何となく分かっていた。


念の為、モーリスへ尋ねてみる。


「モーリスさん、冒険者レベルで片づけられる、村にいろいろ起こっている様々な問題って、何ですか?」


「うふふ、多分リオさんが昼間やったような事よ」

「そうそう! リオさんの強さなら、楽勝っすよ!」


すかさず、モーリスの代わりに答えてくれたのは、ミリアンとカミーユの双子姉弟だったのである。

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