第76話「出立&ランチタイムの訪問者達」

翌朝……

エレーヌ、アンナ、クレマン、そしてドニと少年達も入れ……

リオネルはクレマン宅で、朝食を共にし、全員で存分に話し合う。

話題は、別れを感じさせない、シンプルでとりとめのない雑談だった。


しかし……

それが却って良い。

言葉で上手く言い表せられないが……

人間同士の絆、温かさをリオネルは確かに感じた。


そして、午前7時過ぎ……快晴の空の下、

遂にリオネルはアルエット村を出る。


立つ鳥跡を濁さず。

リオネルは出立前日のお昼までに……

宿泊していたクレマンの別宅の、片づけと掃除もすませていた。

隅から隅まで……

頑張って、ぞうきんで磨いたのでピカピカとなった……


「リオネルさぁん! いろいろと本当にありがとう! 元気でねぇ!」

「バイバイ! リオにいちゃぁん! ママと待ってる! 絶対に村へ遊びに来てねぇ!」

「さらばじゃあ、リオネルさん! いつでも、アルエット村へ来てくださいよぉ! 貴方なら、大歓迎ですぞぉ!」


「兄貴ぃ! 俺、教えて貰った事を活かして! 一生懸命、頑張って村を守るよぉ!」


「「「「「リオネルさあん! ありがとう!」」」」」

「「「「「達者でなあ!」」」」」


正門を出る時は、エレーヌとアンナ、クレマン、ドニ達だけでなく、村民のほぼ全員が見送ってくれた。

皆が、大きく手を打ち振って叫び、別れを惜しんでくれている。


リオネルの胸が、じん!と熱くなる。


いつになるかは分からない。

だが、いずれまた、このアルエット村へ来ようと思う。


……その時、俺は『何者』になっているだろう……

『自分の人生』というドラマの『どんな主役』となっているだろう……


そして自分とは違う時間を過ごしたこの人達は、一体どんな人生を歩んでいるだろう。


いつの日にか、再会を果たしたい。

しかし予定は未定。


もしかしたら……

この人達と、二度と会う事はないかもしれない。

一期一会かもしれない。


でも……

出会い交わった彼等彼女達の人生において……

自分が『良き脇役』として存在出来ていたら、と切に願う。


そんな思いを胸にし、村を出た。


しばし歩いて行くと……


ぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ!!!


重い音がし、リオネルが振り返れば……


大きく開け放たれていた正門が、リオネルとの別れを惜しむように、

ゆっくり閉められて行き……やがて完全に閉じた。


「さよなら、兄貴ぃ! またなあ!」


大きな声が降って来る。


すぐさま物見台に登ったとおぼしきドニが、大声で別れを惜しんでいた。


つい笑顔となったリオネルも、大きく声を張り上げる。


「お~い! ドニぃ! 頑張れよぉ!」


ドニへ叫んだ、リオネルの大きな声が届いたらしい。


「「「「「「「「「「リオネルさあん!!」」」」」」」」」」


リオネルの名を呼び、別れを惜しむ村民の声が聞こえた。

聴覚がビルドアップしたリオネルの耳には、エレーヌ、アンナ、クレマンの声がはっきりと識別出来たのだ。


「お元気でぇ!」


リオネルは大声で言い返し……

ふう!と大きく息を吐いた。


「さあ、行くか!」


踏ん切りをつけるように、自分へ告げたリオネルは……

村道を踏みしめ、街道へ向け、歩き出したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


街道へ出たリオネルは、索敵も併用し、周囲を視認。

異常がない事を確認した上で、地図を出した。


「ええっと……目的地のワレバットまで後、120㎞くらいかあ。次の村までは30㎞くらいっと……結局、半月以上もアルエット村に居たし、特にあてもない。まったり、のんびりと行くかあ」


親しんだ村を後にした時は、親しくなった人々と別離の寂しさもあった。


しかし強敵オークカーネルを倒し、村への災禍となる原因を除き、

特異スキル『念話ハイレベル』を習得し、『レベル14』となった。


やるべき事が出来た!

いろいろな人の役に立てた!

自分に、結果も出た!


という満足感がある。

これからの旅も、また新たな出会いがあり、新たな発見もあるだろう。


「俺の今の足ならゆっくり歩いても5時間かからずに、大楽勝で次の村に着くだろう。よっし! 行こう!」


リオネルは歩き出した。

さすがに「しゃかしゃか」と走ったりしない。


索敵を行いながら……

一般の旅人と同様、時速5㎞くらいでゆったり歩く。


「あ~、気持ち良いなあ」


という事で、村を出て景色を楽しみながら、4時間ほど歩いたリオネルであったが……

以前と同じく、少し先、右手に『空地』を見つけた。


物入れから、愛用の懐中魔導時計を取り出した。


「ええっと、時間は……午前11時前か。少し早いけれど、腹が減ったし、昼飯にしよう。だけど、もうさすがに強盗は要らん、ノーサンキューだ」


苦笑したリオネルは、『空地』へイン!

『空地』は誰も居なかった。

なので、例によって隅っこへ。


背負っていたバッグを降ろし……

仕舞ってあった昼用の『弁当』を出した。


今朝の朝食と弁当はほぼ一緒のメニュー。

エレーヌとアンナから貰った黒パン、大きなチーズ、数種類のドライフルーツ。

飲み物は、アルエット村特産の新鮮な牛乳を魔導水筒へ詰めて貰った。


「さあ、村の思い出に浸って、ありがたく食べよう。あ、そうだ。兎の肉も焼いて食べようか」


リオネルは収納の腕輪から、魔導コンロ、フライパン、

兎の肉数切れ、塩、コショウ、も出す。

冷たい紅茶の入った、予備の魔導水筒も出しておく。


そして、リオネルが肉を焼き始めてまもなく、索敵に気配を感じた。

……人間が数名……3名乗り込んださほど大きくない『馬車』のようである。


しばし経って……

一台の馬車が『空地』へ乗り入れて来た。


御者席に陣取って、馬を御しているのは、革鎧を着込んだ冒険者風、

筋骨隆々、たくましい壮年の男だ。

いかつい顔だが、先日の強盗のように邪悪な殺気がない。


それに馬車の客席に乗っているのは……

放つ魔力の気配から察するに、やはり革鎧を着込んだ、

10代前半の少年ひとりと少女ひとりのようである。

このふたりからも殺気を感じない。


用心深いリオネルは……念の為、スキルをすぐ放てるようにし、体内魔力も上げた。

こん棒をすぐ使えるようにし、すぐ戦えるようにも準備をする。


だが……

自分の習得したスキルを9割方信じ、引き続き、リオネルは平然と肉を焼き続けたのである。

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