第77話「戦う理由」
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革鎧を着込んだ冒険者風、いかつい顔で筋骨隆々、たくましい壮年の男は、御者台から、
「ひらり」と飛び降りた。
やはり、先日襲撃して来た強盗とは違い、
そして、軽々とした身のこなしから、相当の『腕』なのだと、リオネルには分かる。
何か「武道をやっている」という雰囲気だ。
魔力もそこそこあるようなので、魔法も使いこなすのだろう。
反対側で肉を焼いているリオネルの方を向き、男は控えめな物腰で一礼する。
リオネルはわずかに微笑み、同じく丁寧に一礼を戻した。
馬車に乗っていた少年と少女も身の軽さを誇るように飛び降りた。
ふたりとも金髪で、背は160㎝を超えたくらい、
年齢は多分リオネルより少し下、15歳から16歳くらいだろう。
こちらしなやかな身体さばきをしていて、何か「武道をやっている」と見た。
遠目から見ても、ふたりは良く似ていた。
もしかしたら双子かもしれない。
リオネルの方は見ず、壮年の男と話し始める。
油断は禁物だが、こちらへ無理くりアプローチして来る様子もない、
どうやら『害』はなさそうだ。
そうこうしているうち、兎の肉が焼けた。
リオネルは、黒パン、大きなチーズ、兎の肉、
そして数種類のドライフルーツを交互にかじり、魔導水筒から、冷えた牛乳を飲む。
食事を摂りながら見ていると……
男、少年、少女も食事の支度を始める。
火をおこし、何か食材を出して、調理をする。
『鷲の目』を使えば、どのようなものを食べるか、視認する事が可能となる。
また習得したての『念話』を使えば、心を読む事も可能となり、素性、旅の目的も判明する。
しかし、特別理由がなく、緊急時でなければリオネルは他者のプライベートを詮索したりはしない。
……やがて、リオネルの食事が終わった。
得意の生活魔法で水を出し……
牛乳を飲み干して空になった魔導水筒と、フライパンを洗う。
洗った後は、バッグから出した布で拭く。
魔導コンロも布で拭き、3人がこちらを見ていない隙に、
フライパン、空の魔導水筒、魔導コンロを、収納の腕輪へ仕舞う。
もうひとつの魔導水筒から冷たい紅茶を飲んでいると……
索敵に『反応』があった。
……これは!?
リオネルは驚いた。
結構な規模――200体近いゴブリンの群れだ。
上位種も……混在していた。
リオネルは急いで水筒をしまった。
身支度を整える。
距離は……約800m。
リオネルは少し驚く。
己の索敵能力が、大きく向上していたからだ。
より遠くより広く、気配をはっきり捉えるようになっている。
この付近の生息事情は詳しくは分からない。
しかし、王都近辺同様、どこかにゴブリンの巣があって、街道を行く人々を襲うのであろう。
「ちら」と、男と少年、少女を見る。
リオネルほどの索敵能力は持ち合わせていないらしく、まだ敵の出現に気付いてはいない。
……さて、どうするかと、リオネルは考える。
ギフトスキル『ゴブリンハンター』を持つリオネルにとって……
攻撃をほぼ無効化するゴブリン200体ごとき、もはや敵ではない。
「ぼっち」つまり単独で殲滅させる自信はある。
御者をやっていた壮年の男は武技、魔法とも相当な腕だと思う。
問題は、少年と少女だ。
放つ気配から、素質はありそうだが、現状では「少し強い」レベルである。
まだまだ半人前。
戦いに巻き込まれたら、さすがに無傷とはならないだろう。
ここでもし、いきなりという形で、ゴブリン襲来を3人へ伝えたらどうなるのか、
と、リオネルは考える。
まずは君は誰、何者? から始まり……
何故分かるのか? と理由を尋ねられる。
索敵?
気配?
でも……見ず知らずのリオネルが告げても、すぐ信用して貰えないだろう。
冒険者ギルド、ランクBの所属登録証を見せて、いろいろ説明している間に、
間違いなくゴブリンどもは襲って来る!
リオネルは考えた末、様子を見る事とした。
いつでも戦えるよう、駆けつけられるよう、すぐ助けに入れるという態勢で。
一旦保留にしていた体内魔力を再び高め……
軽くストレッチをしながら、リオネルはゴブリンどもがやって来るのを待ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
リオネルが「スタンバイ」状態になってから、3分ほど経ち……
まず男が「はっ」とした。
気配を察知したか、魔力を感じたのか、ゴブリンどもの接近に気付いたらしい。
その時ゴブリンどもは、『空地』へあと200mほどに迫っていた。
男はすぐ立ち上がると、大きな声で叫び、少年、少女に戦闘態勢を取るよう指示をした。
そして男は、リオネルへ向けても、手を「ぶんぶん!」打ち振り、
大声で叫んでいる。
絶叫と言って良い。
「おおい!! 敵襲だあ!! 逃げろぉぉ!! 逃げるんだああ!!!」
と、リオネルの耳には、男の声がはっきり聞こえた。
その間に、少年少女は身構え、男の指示通り戦闘態勢に入った。
男が御していた馬車の馬は完全に怯え、いなないている。
男は、警告を発しただけだ。
自分の身内らしき、少年少女を守りながら戦うつもりに違いない。
しかし!
今の『声掛け』でリオネルの心は決まった。
当然身内の安全が優先、見ず知らずのリオネルなど、完全スルーが普通なのに、
男はわざわざ「危険を知らせてくれた」からだ。
「俺達で戦うから、お前、今のうちに逃げろ!」という『緊急退避を促す気持ち』もあったと思う。
『男の思いやり』を知り、これだけで、リオネルは『戦う理由』が出来た。
肩の小型盾を手甲位置へ、
愛用のスクラマサクスの柄を「ぎゅっ!」と握れば気合が入る。
そうこうしているうち……恐ろしい咆哮が聞こえて来た。
ゴブリン200体余の咆哮に他ならない。
ぎゃあごおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!!
「!!!!」
「!!!!」
200体のゴブリンどもが殺気を込め咆哮、威嚇する迫力に、
身構えた少年と少女が思わず「びくっ!」と身をすくませた。
リオネルが索敵で捉えた通り、ゴブリンどもの大群が、男達の馬車の背後に現れたのだ。
ぶひひひひひひひんんんんんんっっっ!!!
迫りくるゴブリンを見た馬車の馬が、必死に逃げようと、身を震わせ悲鳴を上げた。
「ふう……さあて、行くか!」
リオネルは呼吸を整えると、「だん!」力強く大地を蹴り、
素晴らしい速度で駆け出していたのである。
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