第58話「とんでもない強さだ!」

「もう近くだ」と言っても……

リオネル達とオークどもの距離はまだ150m弱あった。


加えて、こちらへ向かって、ゆっくり移動している。

なので、リオネルとクレマンが身を隠す時間は充分にあった。

ふたりは、木陰に潜み息を殺す。


ぐがぐぐぐぐ……

ぐおおおおお……


遠くから、はっきりと不気味な唸り声が聞こえて来る。


……やがてオーク5体がやって来た。


接近する個体数を、正確に捉えたリオネルの『索敵能力』に、クレマンは驚いている。


「おお、ぴったり5体だ」


「村長、冷静に」


「あ、ああ」


感情を出すと、気配――放出する魔力で、相手に悟られてしまう場合がある。

魔力を有するのは魔法使いだけではなく、生きとし生ける者全てなのだ。


リオネルの使う索敵は、対象が放出する魔力を感知するもの、

当然精度は、術者により著しい個人差がある。


魔法、スキルの射程距離を考え……

リオネルは呼吸法により、体内魔力を高めながら、オークの接近をじっくりと待った。

そして、改めて考える。


最初のオークとの戦いでエレーヌとアンナを救った際、リオネルは攻撃魔法を行使しなかった。

『こん棒』で後頭部を打ち砕く物理攻撃で倒していた。

それゆえオークを倒す為の目安というか、適正な魔力消費量が分からない。


結局、使用魔力の加減はゴブリンの5倍とした。


単純でおおざっぱな比喩だが、『オークの強さ』は個体比でゴブリンの5倍と言われているからだ。


チートスキル『エヴォリューシオ』の効果なのか、

リオネルは使い慣れた風の攻撃魔法を心で念じるだけ、ほぼ無詠唱で発動出来るようになっている。


相変わらずゆっくりと、オークどもが近づいて来る。


クレマンは間近で見る、魔物の猛々しさ、迫力に身震いする……


「ううう……」


引き付けるだけ引き付けて、充分な射程距離内へ来た!

100%外さない確信がある!

今だ!


リオネルは心で念じながら、攻撃魔法『風矢』を放つ。


『風矢!』


どしゅ!

どしゅ!

どしゅ!

どしゅ!

どしゅ!


「ぎゃ!」

「ぐお!

「ぎっ!」

「あうお!」

「きえっ!」


リオネルが練り上げた体内魔力を変換、生成して放った鋭い大気の矢。

いわば『カマイタチ』の人工生成。


高速で突き進む大気の矢に、オークどもは次々と身体を射抜かれた。

奇声に近い悲鳴をあげ、踊るように身体を地に伏し、あっさりと絶命する。

瞬殺、圧倒的な勝利である。


威力は……だいぶ大きいようだ。


ビルドアップしたリオネルが、『鷲の視力』で見やれば……

オークの身体には、派手な風穴がぽっかりと開いていた。


よし!

いける!

手応えを感じる!


今倒したノーマルタイプのオークならば……

もう少し魔力をセーブ、節約しても良いかもしれないと判断する。

上位種の場合は、今回使った魔力量にしようと考えた。


斃れたオークどもをじっくりと見つめ、無言で冷静に戦況を分析するリオネル。


そんなリオネルを見て、クレマンは驚きのあまり言葉が出ない。


以前、村の自警団全員で数体のオークと戦った事がある。

何とか勝てたが、結構な苦戦を強いられた。

そんな強敵のオークをたったひとりで殴り倒したリオネルを強いとは思っていた。


しかし、今度は魔法であっさり片づけた。


言霊、呪文の詠唱も聞こえず、いきなり強力な風の魔法が発動!?


いつ魔法を使った??

一体どうやって??

いきなり大気を切り裂く音がしてオークが全て斃れた??


背後で身をかがめるクレマンから驚愕の波動が伝わって来る。

ごくりと息を呑み込むのがリオネルには、はっきりと分かる。


この場での戦いは終わった。

……張り巡らしたままのリオネルの索敵には、ふたりの周囲に、

今倒した以外のオークは感知していない。


「村長」


リオネルが呼びかけると、クレマンは素直に返事をする。


「は、はい!」


「近くに敵は居ません。まずは死骸しがいを始末しましょう」


「りょ、了解しました。し、し、死骸を始末するのですか?」


クレマンの言葉遣い、態度が変わっていた。


初めて目の当たりにしたリオネルの魔法。

オーク5体をあっさり屠った底知れない力。


魔法だけではない、武器を使ってもリオネルは凄い!


愛娘エレーヌと愛孫アンナを救う為……

襲って来たオーク3体を、こん棒をふるいあっさり打ち倒したのだから。


今の戦いではっきりした。

魔法、武技……リオネルはとんでもない強さだ……

クレマンは強い畏怖の念を持ったのである。


しかしクレマンの驚きはまだまだ続く。


「ええ、オークを不死者アンデッド化しないよう、死骸を葬送魔法で塵にします」


「へ? オークを不死者アンデッド化しない? 葬送魔法? 塵?」


クレマンは、リオネルの意図、具体的な対応に想像が及ばないらしい。


そんなクレマンをスルーし、リオネルは「すたすた」と地へ伏したオークの死骸5体に近づいた。


はっきり言って少し惜しい。

オークの死骸は防具の材料として、どのギルド本部支部でも、1体銀貨5枚で買い取ってくれる。


しかし、さすがにここで「搬入!」と詠唱し、『回収』する事は出来ない。

収納の腕輪の能力を、クレマンの目の前で、駄々洩れに披露する事は出来ない。

なので、ここは葬送魔法を発動させ、死骸を塵にするしかないのだ。


鎮魂歌レクイエム


習得したての葬送魔法レクイエムも、念じるだけであっさり発動した。

リオネルの両手から放たれた、まばゆい白光がオーク5体の死骸を包み込む。

やがて……

白光が消えた時、死骸は全て塵と化し、跡形もなくなっていた……


クレマンは創世神教会の聖書を読んだり、話で聞いた事はあるが、葬送魔法を目の当たりにするのは生まれて初めてである。


「わわわわ!!?? な、何だ、この神々しい白い光は!? ……ま、ま、まるで貴方は!! し、し、し、司祭様だっ!」


「ははは、俺は司祭なんかじゃありませんよ。それより死骸の葬送が終わりました……さあ、洞窟付近へ行きますか」


「ど、洞窟付近?」


「ええ、村長のおっしゃった洞窟のある『丘』がオークと戦う為の陣地として、使えるのかどうか検証します。但し、敵の攻撃には充分注意しましょう」


微笑んだリオネルは……

先ほどから驚愕しっぱなしのクレマンを、静かな口調で促したのである。

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