第47話「救った母娘」

絶体絶命の危機ピンチを助けてくれたとはいえ……

女子ふたりにとって、突入して来たリオネルは初対面、

革鎧に身を固めた、見ず知らずの冒険者風少年である。


ここは、先にきちんと名乗った方が良いだろう。


さすがに……もう、心の「どきどき」は収まっていた。


軽く息を吐き、リオネルは軽く頭を下げる。


「ふう、危ないところでしたね。俺はリオネル・ロートレック。王都出身の魔法使いで、冒険者です」


すると、若い女性の方が、


「あ、ああ、リ、リオネル・ロートレックさんとおっしゃるのですね。ま、魔法使いで、冒険者なんですか……」


「はい、そうです。今朝、王都を出発し、とりあえずこの先のワレバットを目指して、旅をしています」


リオネルが、すらすら自己紹介すると、ようやく女子ふたりは落ち着いて来た。

やはり深呼吸し、気持ちを平静にしようと試みている。


「……私はアルエット村のエレーヌと申します。この子は娘のアンナです。危ないところを助けて頂き、本当に、本当にありがとうございました! 感謝致します」


「私、アンナ! リオネルお兄ちゃん! 凄いねぇ! 強いねぇ! 助けてくれてありがとぉ!」


抱きあって怯えていた若い女性と可憐な女の子は……

やはり『母娘』であった。


そして偶然にも……

ふたりは、リオネルが「今夜の宿に」と考えていた、アルエット村の村民でもあった。


失礼だから、女子に年齢は聞けないが……

鼻筋が通って端麗な顔立ちの母エレーヌは20代半ば過ぎだと思われる。 

そして、リオネルがついガン見してしまいそうな、ボンキュッボンな反則スタイル。

一方、天使か妖精のように可憐な娘のアンナは8歳前後といったところ。


改めて見れば、やはり母娘だけある。

ふたりとも栗毛、ブラウンの瞳等々、顔の造作にもいくつかの共通点があった。


リオネルが更に詳しく事情を聞いたところ……

エレーヌ、アンナ母娘は、王都の聖堂へお参りに行った帰りらしい、


そして母娘は、王都からくだんの『乗合馬車』へ乗り……

アルエット村最寄りの停留所で降車した。


帰村する為、村道の入り口まで、街道を歩いていたところ……

いきなり雑木林から現れた、オーク3体に襲われたという。


そこへリオネルが現れ、エレーヌとアンナ母娘を救った。

やがて……

完全に落ち着いた母娘は、何度も何度も笑顔で礼を言う。

本当に嬉しそうだ。


エレーヌとアンナには結構な疲れが見えていた。

旅疲れとオーク襲撃で受けたショックのせいだろう。


リオネルは「ささやかな手当だ」と前置きし、初級回復魔法『治癒』を行使。

少し元気になったふたりは、喜びまたも礼を言う。


ふたりのお礼を聞きながら、リオネルは「ちら」と空を見た。


日は……だいぶ西へ傾いていた。

ぐずぐずしていると日が落ちる。

他の魔物や賊出現の可能性が高まり、リスクが大きくなる。

少しでも早く、アルエット村へ移動するべきだ。


リオネルは改めてオーク3体の死骸を見た。

ぱぱぱぱぱと、考える。


オークの討伐は各ギルド共通の依頼である。

ワレバットのギルド本部でも報奨金を受け取る事が出来るのだ。


リオネルは更に、さくさくっと計算する。


討伐料が1体金貨1枚、死骸納品が1体銀貨5枚。

討伐料は金貨3枚受け取れる。

だが、死骸を回収すれば銀貨15枚。

つまり金貨1枚、銀貨5枚となる。

3体でも馬鹿にならない。


リオネルは王都支部で、ナタリーから討伐依頼を受諾している。

だから、しっかりカウントされるだろう。

加えて、折角傷をつけずに倒したから、売れる死骸を回収もしておきたい。


不死者アンデッドは、ひどくおぞましい響きがあり、女子にはとっても苦手な言葉であった。

どのような死体でも放置すると、ゾンビのように不死者アンデッド化する可能性があるからだ。


ちょっと、嘘をつくけど……

収納の腕輪の性能は、エレーヌとアンナのような利害関係のない一般人といえど、やたらには見せられない。


ごめんなさい!


「エレーヌさん、アンナちゃん。一瞬だけ、目をつぶって貰えます? オークの死骸を不死者アンデッド化しないよう、葬送魔法レクイエムを使って塵にします」


リオネルが頼むと、エレナとアンナは素直に目をつぶってくれた。


その間にリオネルは一瞬で、オーク3体の死骸を収納の腕輪へ入れた。


「もうOKですよ」


リオネルの指示で目を開けてみれば……

オークの死体が煙のように消えていて、エレーヌとアンナは驚く。


ふたりへリオネルは言葉通り、葬送魔法『鎮魂歌レクイエム』で塵にしたと告げておく。


そして頃合いだと思い……

リオネルは申し入れと確認をする事にした。


「実は俺、今夜アルエット村へ泊まろうと思っていましたから、おふたりを村までお送りしますよ」


「そ、それは助かります。心強いです」

「わ~い! リオネルお兄ちゃんが居れば、私もママも安心だよ!」


「ええ、あの、村に宿屋とかありますか?」


リオネルの問いに対し、エレーヌは首を横に振る。


「いいえ、アルエットは小さな村ですし、宿屋はありません。っていうか、今夜は、いえ今夜からしばらくウチに泊まってください。助けて頂いたお礼も兼ねて」 


「いやいや、……じゃあ、ひと晩だけエレーヌさんの家のお庭の一画をお借りしますよ。俺テントとか持ってますから」


リオネルが「やんわり」と断ると、アンナが、いきなりリオネルの手を、

「ぎゅっ!」と握った。


「ダ~メ! お兄ちゃんは、ず~っと、ウチに泊まるのぉ!」


アンナはきっぱりと言い切り、握ったリオネルの手をぐいぐい引っ張った。


「うふふ、多数決という事で、リオネルさんのウチへの宿泊、決定ね♡」


自分の愛娘がリオネルに懐く様子を見て、エレーヌも、にっこり笑ったのである。

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