第48話「ぶっとばすわよ!」
リオネルは冒険者の街ワレバットへの旅の途中……
たまたまアルエット村のエレーヌ、アンナ母娘を、襲って来たオークの群れから助けた。
……元々、リオネルは旅路の途中にあるアルエット村で宿を取る予定だった。
なので、ついでに、ふたりを村まで送ると申し出た。
すると、母娘のやや強引なお誘いにより、ふたりの家へ泊まる成り行きとなってしまったのだ。
と、いう事で……
街道から入る村への村道を3人は歩いて行く。
村道の道幅は約5mと、そこそこは広いが、当然ながら石畳などは敷いていない。
土がむきだしの道だ。
「いや、でもまずくないですか?」
そんな懸念を示すリオネルの問いに対し、
「何がぁ? まずいのぉ? リオネルお兄ちゃん! 教えてぇ!」
リオネルと手をつないだアンナが、
道すがら……
リオネルは、エレーヌとアンナがふたりきりで暮らしているのを聞いていた。
いくら助けたとはいえ、身内でもない、女子ふたりだけで暮らす家に泊まる。
再び、事実を認識したリオネル。
村民達は、無遠慮な自分をどう見るでろうか?
折角のふたりの好意だが、要らぬトラブルの原因となる事は避けたいし、ためらいもある。
「いやいや、エレーヌさん、アンナちゃんって、ふたりきりで暮らしているんですよね? そこへ流れ者で男の俺が泊まるのはいかがなものかって」
懸念するリオネルの言葉を聞き、エレーヌは柔らかく微笑む。
「うふふ、リオネルさんったら、そういう気配りの人なんだ……女性の私達に気を遣ってくれるのね」
「気配りというか、その……」
「論点はそこだけ、じゃないと思います」と、言いたかったが……
リオネルは言えなかった。
対して、エレーヌはひまわりのように、笑う。
「うふふふっ……よし! じゃあ万が一、いろいろ聞かれたら、リオネルさんを、亡くなった夫の親しい知り合いって事にするわ」
「え? 旦那さんが、亡くなられた?」
「ええ、私の夫、アンナのパパは冒険者で、2年ほど前に亡くなったわ。リオネルさんは冒険者だから、親しい知り合いだって理屈は通るでしょ?」
「いや、2年前って……その時、俺はまだ冒険者じゃなく、学生でしたし」
「大丈夫、大丈夫、ばれないって。余計な事を言わなきゃ、ね! 何も聞かれなかったら、命の恩人で押し通すわ。だって、本当の事でしょ?」
「そうそう! 余計な事を言わなきゃ、ね! リオネルお兄ちゃんが助けてくれたのは本当だよっ!」
母の物言いを可愛く真似して、アンナはリオネルの手を「ぎゅっ」と握った。
そして更にアンナは、
「リオネルお兄ちゃん、アンナをおんぶしてぇ!」
綺麗なブラウンの瞳をうるうるさせて、おねだりして来た。
可愛い幼女の『お願い』を拒否出来る男子は皆無だろう。
「了解、どうぞ」
迷いなく、無防備に背を向けたリオネル。
「わ~いっ!!」
歓声をあげ、リオネルの肩に手をかけ、アンナは飛び乗った。
「ふう」
軽く息を吐き、軽々とアンナをおぶったリオネルは、ゆっくりと立ち上がった。
背中には満面の笑みを浮かべるアンナが「しっかり」としがみついている。
「あらあらあら、すっかりリオネルさんに懐いちゃったのね、アンナったら」
絶体絶命の危機を救ってくれたリオネルへ……
エレーヌは再び微笑んでいた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
街道から入った村道を30分くらいて、3人はアルエット村へ到着した。
リオネルにおぶさったアンナが嬉しそうに叫ぶ。
「やっと着いた! リオネルお兄ちゃん、ここがアルエット村だよぉ!」
「おお、これがアルエット村か」
ソヴァール王国内に良く見られる小さな村のひとつ、アルエット村は、
高さ5mぐらいの武骨な丸太の防護柵に囲まれている。
村道が突き当たる正面には、同じようなぶ厚い板で造られた正門があり、固く閉ざされていた。
そして正門の内側、やや後方に高さ7mぐらいだろうか、物見台を備えた木製のやぐらがある。
物見台にはリオネルと同じ年齢くらい。
金色の短髪で、日焼けした逞しい革鎧姿の少年が立ち、鋭い視線を飛ばしながら見張っていた。
どうやら、この少年が村の門番を任されているらしい。
エレーヌは少年へ向かい、声を張り上げる。
「お~い、ドニ君!! 門を開けるよう、指示してくれる~!! お客さんなんだ~!!」
意外にも、張り上げたエレーヌの声は大きくて良く通った。
対して、金髪のドニ少年は相手が『身内』だと、すぐに認識したようである。
「あ! エレーヌさん、王都から戻ったの? アンナも一緒かい?」
「ええ! 王都聖堂のお参りを終わらせて、今戻って来たわあ! アンナも一緒よ! この方に私達、命を救って貰ったの!」
「えええ!? い、命をぉぉ!? そ、そ、そいつがあ!」
「そうよ! 村の入り口の街道でオークの群れに襲われたの! もう少しで喰い殺されるところだったのよ!」
エレーヌが顛末を告げると、アンナも声を張り上げる。
「そうだよ! リオネルお兄ちゃんが、ひとりで大きなオークを3匹、こん棒でガイーンって、ぶっ飛ばしたのよ! カッコ良かったんだからあ!」
「な、な、な、何~っっっ!!! オ、オ、オ、オークを!? ひ、ひとりでぇ!?さ、さ、さ、3匹ぃぃぃ!!!???」
自分と同じくらいの年若いリオネルが!?
たったひとりでオーク3体を倒し、エレーヌとアンナを救った!?
意外というか、衝撃の事実を聞き、ドニは大いに驚いた。
しかし、このままではラチが明かない。
焦れたエレーヌが、きっぱりと言い放つ。
「ごら! ドニ!! もう!! いつまで待たせるの!! 早く門を開けなさい!! ぶっとばすわよ!!」
「はいいい~~!! い、い、今!! あ、あ、開けま~~す!!」
見た目の清楚さと違い……
エレーヌのオラオラ的な激しい叱責。
ドニは大慌てし、大急ぎで門を開けさせたのである。
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