第49話「想定外の提案」

助けたエレーヌ、アンナ母娘と彼女達の住むアルエット村に到着したリオネル。

エレーヌの指示により、固く閉ざされていた正門がようやく開けられた。


門番ドニの対応が遅く……

柳眉を吊り上げ、怒っていたエレーヌの機嫌は、既に直っている。


「リオネルさん、ごめんね。ウチの村って、さっきのオークみたいな魔物とか、人間の賊が結構襲って来るから、自警団があるの。出入りの警備も厳重なのよ」


アンナも可愛く謝って来る。


「ごめ~ん、リオネルお兄ちゃん!」


「いやいや、全然気にしていないですよ」


という会話が交わされていたその時。

先ほど物見やぐらに陣取っていた、ドニと呼ばれた革鎧姿の少年がすっ飛んで来た。

両手を左右に広げ、リオネルの前に立ちふさがる。


「おい! お前! ウチの村のルールだ。一旦武器を預かる! 剣と盾、こん棒も寄越せ!」


ドニの物言いを聞き、声を荒げたのがエレーヌである。


「ちょっと! ドニ! 黙りなさい!」


「へ? エレーヌさん 黙れって何? どういう意味なんだよ?」


「あんた! 私の話を聞いてなかったの?」


と、エレーヌが言えば、リオネルの背におぶされたアンナまでも追随する。


「そうだ! そうだ! ママの言う通りだよ、聞いてなかったのか、バカあ!」


「は? バカあって、アンナ! それはないぜ! ルールはルールじゃんかよぉ!」


「ドニ! 仮にも村を預かる門番なら、杓子定規に物事を見ず、いろいろな角度から全体的に判断しなさい!」

「そうだ! そうだあ!」


「う! エレーヌさん、アンナ……ルールは守らないと、例外はちょっと……」


「ドニ! そこまでルールというのなら、従いましょう。但し! リオネルさんの武器は私が預かります」

「わ! ママ、ナイスう!」


「ええっ……そんなあ……」


エレーヌ、アンナ、ドニの大声は、静かな村では良く響いた。

そんなに多くないとはいえ、村民が野次馬的に集まって来る。


何故か、エレーヌはニヤッと笑う。

そして!


「みなさ~ん! 私とアンナは、王都へお参りに行った帰りに、街道で凶暴なオークの群れに襲われましたあ!」


「「「「「おおおおっ!」」」」」


内容が内容だけに、どよめく村民達。

 

そう、エレーヌは瞬時に機転を利かせ、

村民達へ『よそ者』のリオネルをアピールしようと考えたのである。


続いて、エレーヌは何と!


「絶体絶命の危機! と思いきや、このリオネルさんが王子様のように! さっそうと現れて、助けてくれましたあ! この通り、私もアンナも全然無事で~~っす!!」

「そうだよぉ! リオネルお兄ちゃんは、こん棒でオークどもをガイーン!って! 奴らは、あっという間に、ゴウトゥヘル!よぉ!」


「「「「「おおおおおおお~~っ!」」」」」


歓声をあげ、喜ぶ村民達。


エレーヌとアンナの『告白』に反応した村民達は、更に数を増し、

リオネルに大きな声援を送っていた。


「いいぞ! いいぞ! お・お・じっ!!」

「よくやった~! オーク破壊王子!!」

「破壊王子かっこいーぞぉ!!」


「いや、エレーヌさん。俺が破壊王子だなんて……勘弁してくださいよ」


しかし……

村民達から大声援を受けたリオネルは恥ずかしくてたまらない。

顔を伏せ、身体を硬くしていたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「これは一体、何の騒ぎだ?」


大いに盛り上がる村の正門前で、村民達の中からひとりの『男』が前に出た。

年齢は60代半ばくらいだろう、真っ黒に日焼けしていてたくましい。


エレーヌが何故なのか男をキッとにらみ、きっぱりと言い放つ。


「村長! 私達母娘を、オークから助けてくれたお客人をお連れしたのです」


「な、何? お前達をオークから助けてくれたお客人だと? ならず者の冒険者じゃないのか?」


「ええ、冒険者よ! でもならず者なんかじゃないわ!」


「ふん、冒険者など、金さえ貰えば、犯罪まがいの事さえするならず者だ!」


「リオネルさんは違うわ!」


「ふん、どうだか! 得体のしれない冒険者など、一切信用出来ん!」


この男が村長なのか……

村長とエレーヌさん、ふたりは何となく、顔立ちが似ている?


リオネルは認識すると同時に違和感を覚える。


……どうして、村長とエレーヌさんは険悪なのだろうかと。

するとリオネルの背に居るアンナまでが叫ぶ。


「ママが正しいわ! リオネルお兄ちゃんは、私とママをオークから助けてくれたのよ!」


アンナの言葉に間を置かず、エレーヌがきっぱりと言う。


「リオネルさんには、今夜からウチに泊まって貰おうと思います!」


今夜からウチへ泊まってと、村長へはっきり告げるエレーヌは本気だった。


対して、村長はひどく動揺する。


「な!? エレーヌ、お前の家だと? 女だけで暮らしている家に、どこの馬の骨とも分からん冒険者を泊めるのか!?」


「ええ、そうよ! 冒険者とか、馬の骨とか関係ないわ! 私とアンナの命を救って頂いたのよ、リオネルさんに精一杯のおもてなしをするわ!」

「リオネルお兄ちゃんに、い~っぱい! おもてなしをするわ!」


きっぱりと告げるエレーヌとアンナ。

しかし村長は、渋い表情である。


「だ、だが!」


「だが、何ですかっ?」

「何ですかっ!」


「冒険者だぞ。万が一、何か、間違いがあったら……」


「冒険者に、どんな間違いがあるって言うんですか!」

「リオネルお兄ちゃん、間違いなんか、起こさないもん!」


リオネルが女子がふたりだけで暮らす家に泊まる……

という事で、村民に要らぬ誤解を招く事を危惧していたから……

リオネルは、エレーヌとアンナの申し入れを断ったのである。


そして……

互いに譲らない、エレーヌとアンナ母娘と村長の言い合いは止まりそうもない。


ここはリオネルが『解決案』を出すしかなかった。


「じゃあ、俺、村の外で野宿して、朝出発します。それならOKですよね?」


当然ながら、エレーヌとアンナは猛反対!


「リオネルさん! 村の外で野宿はダメ!」

「リオネルお兄ちゃん、そんなの絶対ダメ~!」


しかし、ここで何と、何と!


「あ~! もう良い。これ以上ワイワイやっても時間の無駄だ! おい、冒険者の若造! お前、リオネルとかいったな!」


「はあ、リオネルです」


「うむ! じゃあ、こうしよう! おいリオネル! 当村に宿屋はない! だからふたりの命の恩人だという、お前の泊まる家を、村長のワシが用意する! 野宿など却下だ!!」


村長が想定外の『新たな提案』を行い、『場』はようやく収まったのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る