第46話「初めて助けた!!」
リオネルは駆けた。
街道を駆けに駆けた。
様々な動物の能力を得てから初めて、全速力で駆ける。
いつもの持久力重視の『狼』的走行というより、
『馬』的な、瞬発力を前面に押し出した、しなやかで軽快な走りだ。
たたたたたたたたたたた!!!
石畳を蹴る足がとんでもなく軽い!
脚力全開!
フルスロットル!
襲撃現場の約500mのうち、約300mを15秒で駆け抜ける。
あと、距離は200m弱!
先ほど『大鷲』から得た遠くを見通す『鷲の目』が力を発揮する。
リオネルの視力は、しっかりと襲撃現場に居る『敵』……
中型の
今にも襲おうと身構えているのは、身長2m弱、体重は200㎏くらい。
ノーマルタイプのオーク3体だ。
視力だけではない。
ぐはああああああああっっっ!
リオネルの聴力も、大幅にビルドアップしていた。
狙いをつけた獲物を威嚇する、食欲の本能に満ちた、不気味な唸り声が聞こえて来る……
補足しよう。
オークは猪を思い切り醜く、凶悪にしたような風貌の
リオネルが既に戦ったゴブリン同様、人間を捕食する恐ろしい敵だ。
そして『女性の敵』と忌み嫌われる性癖を持つ、とんでもない魔物でもある。
しかし、今のリオネルならば充分に戦え、勝てる!
そんな内なる声の確信があった。
確かにスライムやゴブリンのように、ギフトスキル『ハンター』は習得していない。
だが、オークはレベル15前後の魔物だ。
習得したレベル27までの対象者に有効な特異スキルもある。
大丈夫!!
絶対に助けられるっ!!
『獲物』にされかかっている人間も、リオネルの視力『鷲の目』は捉えた。
ブリオーらしき服をまとった若い女性と小さな女の子だ。
ふたりは母娘かもしれない。
絶体絶命の恐怖から……
ふたりは、もう悲鳴もあげられないらしく、無言でガタガタと震えていた。
オークどもを見ずに、固く抱き合っている。
ヤバイ!!!
グズグズしてはいられない!!!
手をぶんぶん!前後に振り、脚をしゃかしゃか!交互に動かし、リオネルは更に駆ける!
リオネルは気が付かないが、現時点で彼の走行速度は馬並みに!
時速70㎞を超えていたのだ。
『襲撃現場』がぐんぐん迫る。
駆けながら、更に考えた。
急ぎながらも、リオネルはとても冷静である。
イメージする。
剣を使い、オークを一刀両断に斬り捨てると、首が切り離されるとか、胴体から、派手に「ぶばっ!」と血しぶきがあがる。
すなわち、無残なシーンが目の当たりとなる。
助けようとしている女性と小さな女の子に対し、心身に大きなショックを与えるかもしれない。
トラウマになってしまう恐れがある。
風の攻撃魔法、『風弾』も『風矢』も、ダメだ!
風の攻撃魔法はオークの身体を粉々に破砕するかもしれない。
だが、万が一、貫通したり、当たらずに外れた場合、『流れ弾』が女子ふたりへ当たるリスクもある。
答えは出た!!
特異スキル『フリーズハイ』レベル補正プラス15を行使、ギリギリまで接近し、背後からオークの急所を「こん棒で殴打し、撲殺する」
それしかない。
確実にオークを倒し、女性と小さな女の子へ出来る限り血を見せない為だ
『ノーマルタイプオーク』の推定レベルは『15』だ。
対して、リオネルは格下の『レベル13』
しかし新たに習得したばかりの特異スキル『フリーズハイ』レベル補正プラス15は、レベル数15が補正され『レベル27』までの敵に通用する。
射程は500m、充分な有効範囲内である。
オーク3体の自由を5分間奪った上で、確実に倒す。
リオネルは疾走しながら……
『フリーズハイ』レベル補正プラス15を発動した。
と同時に、右腰から提げていた、樫のこん棒を抜き放つ。
『フリーズハイ』レベル補正プラス15は、すぐに効果を表した。
「ぐあ!!」
「あうっ!!」
「ぎゃう!!」
先ほどの強盗同様、3体のオークどもは身体をがっちりと縛られ、
短い悲鳴をあげると、ゆっくりと崩れ落ちて行く。
リオネルは更に速度をあげた。
オークに向けて大きくジャ~ンプ!
凄まじい瞬発力を発揮する!
そして、リオネルがスローモーションだと思えるくらい、
地へゆっくり伏していくオークの真後ろ、後頭部を狙い、背後から『こん棒』で打ち砕いた。
どごっ!
どごっ!
どごぉ!!
無防備な状態で、急所の脳天へ必殺の一撃×3発を受け、
オーク3体は頭蓋を「ぐしゃっ!」と砕かれ、あっさり絶命した。
あっという間に……オーク3体の生命反応魔力が消えて行く。
ふと見やれば、若い女性と小さな女の子は……無事である。
ショックは受けているだろうが、けがひとつない!
も、もう大丈夫だ!!
た、助けたぞお!!
お、俺!!
初めて人の命を助けた!!
それもふたりも!!
劣等生、役立たずと散々馬鹿にされた、俺が!!
た、助けたんだあ!!
心がどきどきしている。
リオネルは安堵し、「ふうう」と、大きく息を吐いた。
念の為、「背後から攻撃して、卑怯だぞ!」と言うなかれ。
リオネルは格式を重んじる騎士ではない。
それに緊急事態である。
このような場合、リオネルは『正々堂々』の戦いになどこだわらない。
奇襲だろうが、背後からだろうが、「襲われた者達の命を救う」のが、第一優先なのだ。
改めて現場を見た。
女子ふたりは怪我もなく無事。
オーク3体は絶命していた……
よっしゃあ!!
ミッションコンプリートだあ!!
初めて戦ったオークにもあっさり勝てたぞお!!
リオネルは心の中で叫びながら、襲われていた若い女性と小さな女の子をいたわる。
もう一度、良く見やれば、若い女性は栗毛の結構な美人!
小さな女の子はこちらも栗毛……妖精みたいに可愛いっ!
心のどきどきはまだ続いている。
少し噛んでしまう。
「……だ、大丈夫ですか? どこか、おけがはありませんか?」
どこからともなく、
わけがわからないまま、襲って来たオークの自由をあっさりと奪い……
そして!
動けないオーク3体を一瞬の内に『こん棒』で打ち倒した正体不明の少年!
自画自賛で恥ずかしいが……女子ふたりには、そう見えているに違いない!
やっぱり!
オークの首を派手に叩き斬ったり、誤射の怖れがあった攻撃魔法を使わないで良かった!
本当に良かった!
安堵し微笑むリオネルを……
抱き合ったままの若い女性と小さな女の子は、呆然と見つめていたのである。
※アップ時、速度に誤植がありましたので、数か所修正しております。
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