第45話「行くぞ!」
襲って来た強盗3人に対し……
リオネルは命を奪おうとした代償として、新習得スキルデータ収集の為『人体実験』を行った。
事前にゴブリンに対して行使し、生命の危険がない事を確認済みである。
特異スキル『フリーズハイ』―レベル補正プラス15―停止、
『シャットダウン』レベル補正プラス15―終了、
『フォースドターミネィション』レベル補正プラス15―強制終了を次々に使い……
『リブート』レベル補正プラス15―再起動で、『束縛と解除』を……
何度も、何度も、何度も、何度も、更に何度も!
検証結果に納得が行くまで延々と、繰り返したのである。
……停止、終了、強制終了、再起動の途切れない『波状攻撃』に対し、強盗どもは心身ともに参ってしまった。
しかし、人体実験はまだ終わらなかった。
このようなチャンスは滅多にない。
……実は、先ほどゴブリンで実験をした際、収納の腕輪の実験もしておいたのだ。
生きた者を放り込んで、搬出した時『生還』出来るか、否かの実験である。
まずゴブリンでは成功。
そしてこの強盗どもでも、実験、実験、実験!!
……結果、この強盗どもも、ちゃんと生きたまま戻って来た。
アンセルムの言った事はやはり本当であった。
これで捕虜の確保、収容は勿論、『特別な事情がある場合』
例えば『味方や仲間を一時保護、移送したりする事』が可能となった!
他にも、いろいろと応用が利きそうだと思う。
さてさて!
散々人体実験台にしまくった強盗どもは、「ぽけ~」として、完全に無抵抗の虚脱状態である。
その状態でリオネルが厳しく尋問したら……
彼らは「ぺらぺらぺら」と、あっさりこれまで犯した罪を白状する。
発する魔力の波動から、「嘘をついていない」とリオネルには分かった。
詳しく聞けば……
強盗どもは殺人までは犯していなかった。
しかし金を奪っただけでなく、脅迫、傷害、暴行などいくつもの余罪があった。
「た、た、助けてくれぇぇ……」
「命だけはぁぁ……」
「もう強盗なんか、しませぇぇん……」
悪事を白状した強盗達は、スキルの事など全く分からず……
リオネルが行使した不可思議な魔法で心身を自由にされたと怯え切っていた。
強盗どもの処置をどうするか迷ったが……リオネルは考えた末に決める。
さすがにまだ、人間を殺す事には、ためらいがあるのだ。
「お前らにも家族は居るんだろう? だから命だけは助けてやる。自首して犯した罪をちゃんと償うんだ」
と、諭し、
「もしも再び悪事を働いたら、さっきのように、永遠に身動きが取れなくなる魔法をかけておいたぞ」
と偽りをふくませ大げさに脅した。
そして、
「今回の事は絶対に他言無用。漏らすと、犯罪を犯したのと同様に身動きが取れなくなる」
と再び、ダメ押しにダメ押しで散々脅し……
固く更生を誓った強盗どもを原野へ放逐したのである。
……そして原野を突っ切ってリオネルは今、元々歩いていた、ワレバットへの街道へ戻り、旅を再開していた。
「いきなり強盗に襲われて、結構回り道しちまった。だいぶ脅して、泣いて約束を守るって誓ってくれたから……つい許してしまった。甘かったかな、俺……」
「いくら強盗とはいえ、心苦しかったけど……良いデータが取れた! 新たに習得した4つの特異スキルは格上の人間にも魔物にも通用するし、スペックも完璧に把握した!」
「今回習得した特異スキルは全てバッチリ役に立つ! 使うに際し、相手の強さ、つまりレベルだけには要注意だな。さすがにドラゴンとか、吸血鬼の始祖とか、けた違いの化け物には通用しないだろう。俺がもっともっと強くならないと!」
「収納の腕輪も最高だぞ。コイツは単なるアイテムボックスじゃない。いろいろなシーンでもガンガン活躍してくれる超が付く優れモノだ!」
街道を歩きながら……
笑顔のリオネルは独り言ちた。
そして見果てぬ夢も見る……
やっぱり俺って、学んだり、分析したり、研究して考えるのが大好きなんだなあ……
超劣等生だったから無理ゲーだけど、もしも頭が良かったら学者になりたかった。
しかし、過去は取り戻せない。
前を向いて歩こう!
……リオネルが歩く街道に現在、人影はまばらだ。
旅人に、商人らしき者が数人くらい。
馬車が、2台ほど通り過ぎて行った。
リオネルは、少し歩いてから一旦立ち止まり、街道の片隅へ。
周囲を索敵で警戒しながら……
ベルトにつけた物入から、亡き母がくれた愛用の魔導懐中時計を取り出した。
「ええっと、時間はと……やっぱり、もう午後3時過ぎなのか……地図を見よう」
苦笑したリオネルは魔導懐中時計を仕舞い、今度は地図を取り出した。
「ここって、どこだ? はっきりと場所が分からないけど……さっき見た標識と、周囲の地形を見れば、多分王都から30㎞くらいの場所だろう。えっと、少し先に小さな村があるな。急ぐ旅でもないし、今日はその村へ泊まろう」
リオネルは大きく頷くと、再び歩き出したのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
街道に建てられた標識を見ながら、リオネルは元気よく歩いて行く。
太陽はゆっくりと西へ傾いている。
リオネルのすぐそばを、また馬車が通り過ぎて行った。
民間の乗合馬車と言われるものだ。
王都と各都市を結んで街道を走る、十数名乗れる大型馬車であり、街道沿いに何か所も停留所が設けられている。
先ほど、リオネルが見た標識は、
「アルエット村、村道入り口まで後、3㎞」とあった。
街道から村道へ、村が奥まった場所にあるのは、世界各国で同じ仕様だ。
領主達が街道沿いに村を造らないのは、防犯上と耕作面積が制限される為なのである。
「うん、今夜の宿はアルエット村か! 可愛い名前だな」
リオネルの言う通り、アルエットとは愛らしい小鳥、『ひばり』という意味である。
と、ここでリオネルの索敵に殺意を持つ『敵』複数の気配を感じた。
……この気配は人間ではない、狼や熊などの肉食獣でもない。
魔物である。
かといって、スライムでもなく、ゴブリンでもない。
もっともっと強い魔物だ。
王国の魔物生息、及び出没事情を考えれば、多分……
人間を捕食する『オーク』だろう。
距離はこの場から、約500m。
この距離だとオークの姿は見えない。
しかし、レベルアップしたリオネルの『索敵能力』は、ここまで離れていても、
敵の魔力、気配を察知する事が可能となっている。
そして魔物だけではない。
『人間の気配』も複数ある。
これは、まずい!!
何が起こるのか容易に想像出来る!!
「行くぞ!」
瞬時に『救出』を決断したリオネルは、猛ダッシュで駆け出していたのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます