第32話「ターニングポイント」
リオネルが葬送魔法『聖印』の訓練を終えると、夜になった。
人間は「寝て休息する時間」が近づいている。
だが、ゴブリンなど夜行性の魔物や獣にとっては活動時間の真っ只中となる。
当然ながら、ゴブリン渓谷はとんでもない喧騒に包まれていた。
その喧騒を切り裂くように、魔法によって生成された『大気の矢』が放たれている。
ひょおお! ひょおお! ひょおお! ひょおお! ひょおお! ひょおお!!
……リオネルはといえば、相変わらずゴブリンの掃討を続けていた。
トータル討伐数は、正確に数えてはいないが、6,000体を超えるのは間違いない。
とはいえ、戦闘パターンは昼間とはだいぶ変えている。
今はゴブリンからの投石、いきなりの奇襲に気を付けながら……
大岩頂上に陣取ったまま、スキル『フリーズハイ』で動きを止め、かく乱しながら、
遠距離からの『風矢』『風弾』の攻撃魔法オンリーであった。
暗闇の中、リオネルが目をこらせば、眼下でうごめくゴブリンどもが良く見える。
人間の7倍といわれる夜目を持つ、猫の能力を取り入れた効果だ。
この夜戦も今後の、そして来るべき迷宮での戦いにおいて貴重な経験となる。
勢いづいたリオネルだが……
さすがにゴブリンどもの巣へ乗り込み、最奥にこもる敵の長ゴブリンシャーマンを倒すほど調子には乗らなかった。
ギフトスキル『ゴブリンハンター』の能力によって、ゴブリンには超が付く無双状態、でもだ。
相変わらず、リオネルの焦らず、慎重すぎる性格は変わっていない。
石橋を叩いて渡らないかもしれない。
勝って兜の緒を締めすぎる。
ことわざを超える行動が徹底されていた。
だが、ゴブリンの本拠地たる巣穴へ乗り込まずとも……
今回単身でゴブリン渓谷へ乗り込み、ゴブリンの大群と戦った事実。
着実にレベルアップを行いながら……
風の攻防の魔法、習得したスキル、武技等の実践を徹底的に行い、全ての熟練度を大幅にアップ。
作戦の実施を含め、リアルな実戦経験を積む希望がバッチリ叶ったのである。
更に、上位種を含め、おびただしい数のゴブリン討伐と、鉱石の採取がもたらす莫大な報奨金は当面の生活の不安も払拭するだろう。
ゴブリン討伐5,000体を達成した結果、チートスキル『ボーダーレス』を習得。
リオネルは、
加えて、数々の課題もクリアし、心身には大きな自信が満ちた。
同時に自身の『生き方』も決まった。
人々と出会い、別れて、
別れて、再び出会い……
数多の人々と支え合い、自分が生まれた意味を確信した上で、人生を全うする。
最後には、満足した人生に抱かれ、眠るように終わる……
改めて人生の目標を設定したリオネルにとって、
『ゴブリン渓谷討伐案件』の成果は……
はっきりとした手応えを感じる、大きなターニングポイントとなった。
否、『人生最大のターニングポイント』と言い切って、構わないだろう。
全てにおいて満ちあふれたリオネルは、ゴブリンどもをどんどん倒して行ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
夜が明ける前、ゴブリン達は各々の巣穴へ戻った。
夜行性という本能に基づく行動である。
気配がなくなったのを感じ……
少し前から仮眠を取っていたリオネルは目を覚まし、帰り支度を始める。
ゴブリンを餌とする豚のような魔物オークが現れれば、今後の為にもぜひ戦いたいとも思った。
だが、残念ながらオークは現れなかった。
「またの機会に」とリオネルは思い直す。
改めて、眼下の様子を窺い、危険がない事を確認。
もう慣れた15mの降下も問題なし。
軽々と、大岩から降り立った。
ゴブリン全てがこのまま眠るわけではない。
しばし経てば、空腹となった群れが起き出してくる。
周囲を改めて見ても、リオネルが攻撃魔法で撃ち倒したゴブリンの死骸でいっぱいだ。
限られたわずかの時間も惜しまず、
リオネルは早速、
そして10回と少し発動すると……
またしても『朗報』が心の中に響く。
チャララララ、パッパー!!!
もはやお約束となった独特のランクアップファンファーレが鳴り響き、内なる声が淡々と告げて来た。
チートスキル『エヴォリューシオ』の効果により、
リオネル・ロートレックが行使する葬送魔法『聖印』が、
『
『
ランクアップファンファーレが鳴ったが、残念ながらレベルアップではない。
しかしリオネルは歓喜。
「おお、レベルアップじゃなく、葬送魔法の進化、すなわちバージョンアップか! やったああ! これはこれですげ~嬉しいぞ!!」
リオネルが、満面の笑みを浮かべるのも無理はない。
今まで行使していた『聖印』が制限のある不完全な
新たに習得した『
『聖印』と比べれば、有用性は著しく跳ね上がる。
「よっし! 早速『
ぱぱぱぱぱ!と電光のように計算したレオネル。
すかさず『
その後、時間が許す限り、鉱石各種をゲットし、収納の腕輪へ入れると……
「長居は無用!」とばかりに、速攻でゴブリン渓谷を後にしたのである。
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