第31話「出会いたい! 助けてあげたい!」

超究極チートスキル『エヴォリューシオ』が導き出した、

同じく超究極ともいえるスーパースキル『ボーダーレス』習得により……

リオネルは、またもビルドアップした。

否!

ビルドアップを遥かに超え、いよいよ!

『本格化』といえる『覚醒』を開始したのである。


ひとつの時代にひとり、生まれるかどうかの全属性魔法使用者オールラウンダー、魔法使いの最高峰に位置する者へ……


この世に生まれて18年と少し。

リオネルが人生で最もショックを受けた出来事である。

いわゆる嬉しい悲鳴というものではあるが……


「ふうう……落ち着け俺、クールダウンしろ俺、こういう時こそ客観的に自分を見つめるんだ」


大きく息を吐き、更に魔法使い特有の呼吸法を使い、精神を集中させ……

冷静さを取り戻して、ようやく落ち着いたリオネル。

そう、このような時こそ、己を戒める。

無理やり、自問自答の独り言を繰り返している。


「数十億人にひとりの、全属性魔法使用者オールラウンダーといっても、俺はまだまだ未熟者だ。レベルだって、駆け出しのたった『12』だぜ」


「千里の道も一歩よりだ! 修行は始まったばかりだし、この先、俺がどんな魔法使いになるのか、全く分からないじゃないか? そうだろ?」


「下手に誰かへ告げて大騒ぎになり、過度な期待を持たれたら、最悪だ……チートなスキル同様、厳重に秘匿していた方が良い。いくら親しくても誰にも言っちゃいけないんだ。俺を見捨てた肉親は勿論、アンセルムさんにもナタリーさんにも」


「万が一ばれても、しばらくはふたつの属性魔法を行使可能な複数属性魔法使用者マルチプルという事にしておこう。うん、それが良い」


「ええっと……俺が持つ風属性と相性が良いのは、個人的な考えなんだけど、火属性だと思う」


「習得に関しては成り行きになるかもしれないけど、出来るのならまずは火属性魔法を習得したい。組み合わせれば、風弾も風矢も破壊力は勿論、使い勝手が増すと思うな。炎は不死者アンデッド対策にも使えるし」


「……という事で、今後は、見よう見まねのスキルも上手く活用して、新たな属性魔法の習得を始め、各種新能力の習得と既存能力の向上を目指そう」


「この後は、状況次第だけど……暗くなる前に風壁でゴブリンの襲来を防ぎながら、習得した魔法の訓練、鉱石採取って事でOKかな」


「数日泊りになるから、市場行きはその間休むとアンセルムさんには言ってあるから大丈夫と。でも今夜だけ、ここで野宿して、明日午前中にラッシュ時間をずらして、冒険者ギルドへ行こう」


「渓谷のゴブリン全てを討伐出来なくても構わないし、巣穴を探索するのはとりあえずやめだ」


独り言の連発なのだが、考えはまとまった。

次にやるべき事は状況の確認である。


いつのまにか……

ゴブリンによる投石はやんでいた。

索敵と肉眼で確認したが、木に登って岩へ飛び移ろうとする個体もなし。

リオネルが行使した風壁魔法の強力な防衛能力が、奴らへ認識されたに違いない。


そっと眼下を見やれば、ゴブリンの姿はまばらである。

気配は……巣穴らしき洞窟にはたくさんある。


敵わずと見て、巣穴へ一時退避したという事か。

油断は禁物、厳重に警戒しながらだが……

魔法の訓練と鉱石採取の好機到来に間違いない。


リオネルは大岩を取り巻く風壁をいったん解除。

残存するゴブリンを風矢の攻撃魔法で掃討すると、降下した。


「今のうちに河原で鉱石の採取だな」


リオネルは、残っているゴブリンどもを片付けながら河原へ移動。

河原にて自分の周囲を改めて風壁で取り囲むと、鉱石の採取を始めたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「うわ! 凄いや!」


ナタリーの言った通りであった。

河原には肉眼ではっきり視認出来る鉱石がたくさんある。


用意した木製根堀り鍬に、パンニング用の皿は使わなくて済みそうである。


こぶし大の砂金というか金塊がごろごろ。

ガーネットは、結晶化したものが目立つ。

トパーズは、貴重だとされる淡いピンクやオレンジのインペリアルトパーズも見受けられた。

深緑の半透明な宝石だが、原石は白っぽいヒスイ。

石英も含め、水晶は最も多い。


リオネルは、まずはひと目で分かる大きな砂金というか金塊を最初に採取。

ガーネット、トパーズもたくさんゲット。

そしてヒスイ、水晶の順に採取して行った。


初めての鉱石採取、それも「取り放題!」という状況に……

リオネルは幼い子供のように夢中となった。


「これ、ギルドというか王国の許可があるから採取出来るけど、普通は違法だよなあ……依頼を受けず、無断でやったら絶対に捕まるぞ」


しかしアンセルムが譲ってくれた収納の腕輪は本当に便利である。

重量と運搬の手間を考えず、採取する事が可能だから。


リオネルは改めて思う。

新たな決意をする。


「人生は、出会いと別れだと誰もが言う。でもさ、言い換えれば、別れと出会いだろ!!」


「つまり! 捨てる神あれば拾う神ありだ! 血がつながった肉親には、ゴミくずのようにポイ捨てされた俺だけど……アンセルムさんといい、ナタリーさんといい、支えてくれる素晴らしい人達と出会う事が出来た!!」


「やっぱり人はひとりでは生きていけない! 俺はこれからも、そんな人とたくさん出会いたい! 運命の邂逅かいこうをしたい!!」


「そして俺だってやらなきゃ! ただ恩を受けているだけじゃ駄目だっ!」


「何かに困っていたり、人生に行き詰まっている人が居たら、俺なりに支えるんだ!! もしも及ばずとも少しでも力になりたい!! 何とか助けてあげたいっ!! 人は支え合って生きて行かなきゃいけないんだっ!!」


やがて……

充分すぎるほど鉱石の採取を終えたリオネルは、次に魔法の練習に取りかかる。


改めて周囲を見れば、累々としたゴブリンの死骸しがいが折り重なっている。

人間を捕食する恐ろしい敵とはいえ、物言わぬむくろとなれば、もう敵視する必要はない。

それにゴブリンの死骸は買取もしてくれるが、これまでと違い数が多すぎる。

既にリオネルはこれまで狩ったゴブリンの死骸を金に換えていたが、手続き等に結構な手間がかかったのである。


という事で、どんな魔法の練習をするのか、それは……


「よし、良い機会だから、葬送魔法の訓練をするぞ!」


葬送魔法とは、主に創世神教会の聖職者が行使する魔法である。

現世に未練を持つ邪悪な魂を浄化する、魔法だ。

魂を浄化する事で、魂が怨霊となったり、死骸がゾンビ化するのを防ぐのだ。


見よう見まねのスキルの力もあり、リオネルは葬送魔法『聖印』を習得している。

『聖印』は死骸の魂が持つ邪悪な意思を封じる効果がある。

死骸が不死者アンデッドになるのを防ぐ葬送魔法の初歩だ。


リオネルが『聖印』の言霊を唱えると、彼の両手に白光が満ちる。


そしてリオネルが手を向ければ、満ちた白光はまばゆく輝き、ゴブリンどもの死骸を包み込んだのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る