第33話「いえ、ホントです」
王都へ帰還する足取りも軽やかだった。
ゴブリン渓谷から、約45㎞弱の距離を1時間かからずに、走破したのだ。
とんでもない速度で駆けて来て、息は全然乱れていない。
リオネルは、己の身体能力が、更に上がっているのを感じる。
王都市内へ入ると、まずは『ねぐら』としている宿へ顔を出し、主アンセルムへ帰還の挨拶をする。
心配していたアンセルムが、リオネルの無事を、大いに喜んだのはいうまでもない。
リオネルは、「リオ」と親し気に呼ぶアンセルムの笑顔を見て、嬉しくなる。
全身についた汗と汚れを、宿屋の共同風呂で流し、さっぱりしたリオネル。
自分の部屋で収納の腕輪から採取した鉱石を出し、大きなズタ袋へと、入れ換える。
予備の革鎧に着替えて、冒険者ギルドへ……
魔導懐中時計を見れば、時間は午前10過ぎ。
ギルドのラッシュ、ピーク時は過ぎており、いつもの業務カウンターには、ナタリーが居た。
「ナタリーさん、おはようございます!」
「あ! リ、リオネルさん! お、おはようございます! よ、良かったあ! ご無事で!」
アンセルム同様、ナタリーもリオネルの無事を喜んでくれた。
自分の安否を心配する相手がふたりも居る。
リオネルは本当に嬉しい。
「ナタリーさん、依頼完遂の報告に来ました。お見せするものもあるので、ここではなく、個室を希望します。あ、もうひとり別の職員さんにも入って貰えますか?」
「え? べ、べ、別の職員?」
「ええ、密室でナタリーさんとふたりきりは、まずいと思いまして」
「へ!? 私とふたりきりは、まずい?」
驚き、一瞬ぽかんとするナタリーだが、リオネルの『配慮』に気付き苦笑する。
「うふふ、大丈夫ですよ! 私、リオネルさんを信じていますから」
「俺を? そ、そ、そうですか」
ナタリーから信じていると言われ、「どぎまぎ」するリオネル。
顔が赤くなるのが分かる。
やっぱり俺は……この人が好きなんだと思う。
ナタリーは、リオネルが持つ大きなズタ袋に気付く。
「それと! お持ちになっている袋の中身は、渓谷で採取した鉱石ですよね?」
「は、はい! そ、そうです!」
「では、討伐数を確認した後で、魔法鑑定士を呼び、確認して貰いましょう」
ナタリーは、そう言うと立ち上がった。
そしてリオネルを2階フロアの個室へ連れて行ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
2階の個室は初めて入る。
主にランカーと呼ばれるランクBの上級以上の冒険者がギルドとの打ち合わせに使う部屋だ。
室内は、そう広くない。
そこそこ立派な応接セットがある。
応接セットの傍に置かれた台には、業務カウンターと同じく、依頼確認用の魔道具が置いてある。
あとは片隅にもう少し大きめの作業台もあった。
リオメルとナタリーは応接の長椅子に対面となる形で座った。
「ええっと……改めてご報告です。ゴブリン渓谷のゴブリンを全て討伐する事は無理でした。オークも現れませんでした。深追いせず、一旦引き上げた方が賢明だと思いまして」
ふたりきりになって、リオネルはまたも緊張してどぎまぎする。
ナタリーが嬉しそうに笑っているから尚更だ。
「うふふ、それは当り前よ。あの渓谷のゴブリンは総数1万体とも言われているわ。全てを討伐するには騎士隊か、王国軍の大部隊を派遣しなければ困難だもの」
ナタリーの口調がより、フレンドリーとなっていた。
リオネルは嬉しくなる。
もう少し泊まり込んで戦えば……
渓谷のゴブリン、全討伐は自分ひとりで何とかなった……気がする。
しかし、リオネルは笑顔でとぼける。
「確かにそうですね!」
「うんうん! ランクDのリオネルさんが単独で行き、怪我もなく無事に帰還出来ただけで御の字よ。というか、たいしたものね! 鉱石も採取出来たみたいだし……じゃあ、早速確認するわね。所属登録証をお願いします」
「はい!」
リオネルは元気よく返事をして、自分の所属登録証をナタリーへ渡した。
……魔道具に所属登録証をかざせば、ゴブリンの討伐数と内容が付属の魔法水晶に映し出される。
やはり1階の業務カウンターと同型の魔道具である。
ナタリーは礼を言い、リオネルの所属登録証を魔道具へかざす。
「ありがとうございます、受け取りました。ええっと……」
次に展開される光景をリオネルは予想出来た。
否、確信がある!
「ええええええええええええっっっっっっ!!!??? ま、ま、まさかああっ!!!???」
やはり、ナタリーは驚き絶叫した。
しかし、助けを求める悲鳴ではないので……他者が飛び込んで来る心配はない。
魔法水晶に映された内容を見て……
ナタリーは呆然としていた。
「と、と、と、討伐総数……ろ、ろ、ろ、6,517体!!?? ゴ、ゴブリン渓谷の個体1万体の、半分以上ぉ!!?? さ、さ、昨日と今日だけで!!?? う、う、嘘ぉぉぉ!!??」
「いえ、ホントです」
にっこり笑ったリオネルの顔は、ゆるぎない自信に満ちあふれていたのである。
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