第22話「ウルトラ超ハードスケジュール」
翌日、リオネルは冒険者ギルドへ向かう。
冒険者ギルドの開場、営業は午前8時からである。
午前8時から約1時間が『朝のラッシュ時間』
冒険者達が、「朝一番で良質の依頼を求めて殺到する時間」だと言われている。
現在の時間は午前9時過ぎ……
『朝のラッシュ時間』がまもなく終わる時間だ。
……業務カウンターはまだ混雑している。
大勢の冒険者達が、ギルドの職員とやりとりをしていた。
希望する依頼内容の確認と契約条件に関して詰めているようだ。
ナタリーも若い男性の冒険者と話し中だ。
若い冒険者は嬉しそうだ。
魔法使いのリオネルには分かる。
うきうきした気分が波動で伝わって来た。
きっと自分と同じで、金髪碧眼の美しいナタリーと話すのが楽しいに違いない。
苦笑したリオネルは、福利厚生コーナーへ。
そこにはギルド所属の冒険者達の為の様々なサービスを受け付ける事となっている。
リオネルは、福利厚生コーナーの職員へ頼み、昨日ナタリーから教えて貰ったギルド所属冒険者専用、各種講座の資料を貰った。
丁寧に目を通す。
講座とは、冒険者が生き抜く為に必要な武技、魔法や特技の基礎から応用を指導して貰う教室である。
「ええっと……属性別の攻防魔法。剣、打撃武器、盾、体術格闘、それぞれの基礎と応用かあ……何だ? サバイバル術なんてのもあるぞ」
各講座は、講義と実践で計1時間から3時間。
当然基礎と応用は別である。
風の魔法はともかく、俺の剣技、盾のシールドバッシュ、格闘技は我流で素人同然。スキル『見よう見まね』で習得したから戦えているけど……
ちゃんとした先生から基礎を習っておいた方がよりベストだ。時間があれば応用も学びたいけど……王都退去を命じられていて、時間がないから、無理だろうな。
生きて行く為の生活費を稼ぎながら、学び、鍛え、己をスケールアップして行くのは本当に難しい……そうリオネルは感じるし、切に思う。
今日の今日で講座を受講可能なのかと、リオネルが尋ねると……
午後の講座は全て満枠だが、10時開始、午前の部なら大丈夫だと言う。
しばし考えた結果……
リオネルは剣、打撃武器、盾、体術格闘、それぞれの基礎を申し込む事にした。
それぞれの講習料はひとつの講座で金貨2枚。
4講座で金貨8枚がランクEサービスで半額の4枚となる。
切り詰めて生活しているリオネルにとって痛い出費だが、今後の生死につながる。
背に腹は代えられない。
「これからゴブリン討伐の依頼完遂の報告をする。報奨金も手に入るし、何とか行けるだろう」
講座申し込み手続きが終わり……
業務カウンターを見れば、だいぶ空いて来た。
ナタリーが座る窓口も空いていた。
「よし!」
リオネルは軽く息を吐き、業務カウンターへ向かったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ええええっ!? ま、またですかあっ!!??」
一昨日に続き、またもナタリーの可愛い悲鳴が響き渡った。
対して、カウンター越しに対峙するリオネルは恥ずかしそうに困惑している。
「あの、ナタリーさん、目立つんで大声は……」
「あ、ああ、ごめんなさい」
しかしナタリーは謝罪しつつも、驚きの表情を隠さない。
「で、でも!? ……こ、これって!?」
ナタリーの視線の先にはリオネルの所属登録証がセットされた依頼完遂確認用の魔道具がある。
魔法水晶には、ゴブリンの討伐数が……1,115と映し出されていた。
「凄い! 昨日一日で討伐したのですか、このゴブリン1,115体? そ、そ、それも、リオネルさんおひとりで!?」
「ええ、そうです。たったひとりのぼっちですから、俺ひとりで倒しました。何とか……って感じですが」
相変わらず控えめなリオネルだが、
「な、何とかって……この前のスライム600体討伐もですが、このゴブリン討伐数も凄いですよ」
と驚きつつも、ナタリーは手続きをしてくれた。
報酬金貨11枚、銀貨1枚、銅貨5枚をリオネルへ差し出し、所属登録証を返してくれる。
「この調子だと、リオネルさんがランクDになるのもそう遠くはないですね。無理は禁物ですが、オークの討伐依頼を出しておきましょうか?」
「オークですか? 出してください」
「本当に宜しいのですか?」
「勿論です! 受けますよ、ぜひお願いします」
という事で、リオネルはオークの討伐依頼も受けた。
期限は無期限。
討伐は1体につき金貨1枚。
先述したが、死骸は一体銀貨5枚だ。
これから向かうゴブリン渓谷は、ゴブリンを捕食するオークの『狩場』でもある。
オークと遭遇したら、ぜひ戦いたいとリオネルは思う。
当然、あまりにも不利な環境であれば、ためらわず逃げる。
さしたる理由もなく、または不注意で命を失うなど愚の骨頂だ。
「早く終わらせて頂き助かりました」
「いいええ」
「ちなみにこの後の予定は、ナタリーさんが教えてくれたギルドの講座を受講します。今日は剣技、明日は打撃武器、明後日は盾、明々後日は格闘術。全て午前の部で、午後にゴブリン討伐です。さあて! 忙しくなるぞお!」
「ええっと……何か、相当にウルトラ超ハードスケジュールですけど……無理はせず、お身体は大事にしてくださいね」
「ありがとうございます、ナタリーさん! では失礼します」
元気よく辞去したリオネルは、講座が行われる闘技場へ向かったのである。
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