第20話「親愛のアドバイス」
冒険者ギルドの掲示板は雑多な依頼であふれていた。
時間もないので、リオネルは受諾不可能なランクEより上のものはあまり見なかった。
ランクE以下で受諾可能なものだけ見た。
薬草、鉱石の採取や、各所への荷物運搬関係が多かったが……
中には冒険者への依頼と思えない仕事……
掃除、洗濯、メッセンジャー的なお使い、庭の草むしり、犬の散歩等々もあった。
中には、『ラブレターのお届け』なんて、とんでもないものも。
当然、現状で受けるつもりはない。
しかし、少しだけ安心した。
何故なら、
「おいおい、何だ。俺が実家でやってた得意な仕事ばかりだ。いざとなったらつぶしがきくな」
実家でリオネルは、父から使用人のように扱われていた。
兄ふたりも、リオネルの事を完全に『パシリ』としてこき使っていたのだ。
苦笑したリオネルは、ギルドの図書館へ移動した……
夕方までの時間で、地図を見て、王都を出た後の目的地を検討する。
今後の予定を考えるつもりなのだ。
図書館の司書はリオネルの顔を憶えていた。
リオネルが丁寧に地図の閲覧をお願いすると、ソヴァール王国内と世界地図を快く用意してくれた。
そう、リオネルは父から、この王都オルドルを1か月以内に退去するよう厳命されていた。
王都を出た後のあては正直言ってない。
だから地図を見て、行き先を考えるのだ。
勘当された当初は不安しかなかった。
生まれ育った王都を離れる事が怖かった。
しかし、冒険者として目途がつきつつある今は、旅立つ事が楽しみでたまらない。
「ええっと、まずは冒険者ギルドの本部があるワレバッドか……王都のこの支部より大規模で所属冒険者がたくさん居るだろうな。当然依頼案件も多いに違いない」
「国境を越えた、隣国アクィラ王国の迷宮都市フォルミーカも面白そうだ。ああ、迷宮探索をするのなら、照明魔法も覚えないと。猫の能力で得た夜目はどれくらい効くのか実験もしたい」
「港町ラールムも素敵かも。エキゾチックな街並みだし、海を越えて未知の国へ行くのもわくわくするな」
迷いに迷った挙句、結論は出なかった。
否、出さなかった。
リオネルは声を落とし、小さくつぶやく。
「やっぱり自分専用の地図を買おう。書店通りに寄って。今後もガンガン使うだろうから」
そして行き先も、
「アンセルムさんに相談しよう。元冒険者として、何かアドバイスを貰えるかもしれない」
他にも、明日向かう狩場に隣接する『ゴブリン渓谷の地図』をざっくりと模写する。
またいくつか古文書を読み込み、魔法とスキルの勉強をした。
地道にコツコツがリオネルの信条なのだ。
しばらくしてリオネルは、図書館を出て、書店通りの本屋へ寄り、ソヴァール王国内と世界の地図を購入した。
書店通りを出たリオネルは、街中に居る猫とたわむれる。
猫の能力を得たせいか、猫達は皆フレンドリー、「にゃあにゃあ」人懐こく身体を摺り寄せて来る。
猫達は身軽に屋根から屋根へ飛び移っていた。
可愛いと同時に、素晴らしい身体能力だとも思う。
ここでひらめいたリオネル。
安全な王都で、猫が持つ降下緩和能力の高さの限界へ挑もうと決意する。
索敵も使用して、人けのないのを見計らい、1m刻みで高い場所から飛び降りてみたのだ。
猫から学んだ体捌きと、膝と足を上手く使ってクッションとし、着地の際の衝撃も和らげる。
テスト済みの5mは、やはり楽勝。
猫の能力限界の6mはOK。
猫の能力を超える、7m、8mとなっても大丈夫だった。
もしかしたら、リスの能力が加味されているのかもしれない。
9m、10m、11,12,13,14もクリア。
そして最後の15mは、さすがに足に少しだけショックが来た。
だが……十分に耐えられる。
これで敵と戦う時、高所から奇襲も可能だ。
万が一、逃げる際も。
嬉しさが込み上げて来た。
もう少し行けそうだったがやめておく。
……今回はここまでで良いだろう。
満足したリオネルは、意気揚々と、宿屋へ戻ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
スーパーレアな魔道具を譲って貰って以来……
リオネルは夕方から夜にかけ、主アンセルムの手伝いをし、宿屋の仕事を覚えながら働いている。
特に力を入れたのは料理の習得だ。
リオネルが頻繁に持ち帰るウサギが拍車をかけた。
フライ、シチュー、ロースト等々……たくさんレパートリーが増えた。
アンセルムは料理が得意であり、包丁さばきも中々だった。
リオネルは宿屋業の実務を教わりながら、経営に関し学ぶ事も楽しかった。
アンセルムからは王都へ残るよう引き留められたが……
リオネルは少し迷った上で、『事情』を話し、『本名』も告げた。
対してアンセルムは、自分の境遇に重ねてくれたのだろう。
いつか王都へ戻れる日が来たら、自分の下へ来いと言ってくれた。
勘当されてしまったが……
「王都から出ていけ」と言われたが……
俺には生まれ故郷に『帰れる場所』がある。
リオネルはとても嬉しくて、涙ぐんでしまった。
そんなリオネルに、この日の仕事が終わった夜遅く、アンセルムはアドバイスしてくれた。
当然、今後のリオネルの行き先に関してである。
親しくなってから、アンセルムはリオネルを『リオ』と愛称で呼ぶ。
「リオ、あくまでも俺の個人的な意見だが……」
アンセルムは前置きして言う。
「まずはワレバッドへ行き、冒険者としての実力を身につけろ。俺もあの街で力を磨き、名を売り、心から信頼出来る仲間を作った。真面目に頑張れば、金も貯まる」
「成る程」
「次に迷宮都市フォルミーカだ。レアなアイテムをゲット出来る。一発逆転、つまりフォルミーカドリームが狙える街だ。但し、リスクは大きい。迷宮は地上よりも数倍厳しい場所だ。隔絶された空間のプレッシャーは半端じゃないし、魔物も強い」
「さ、参考になります」
「他にも面白い街や村はたくさんあるが、リオがあげた3つの街で限定、というしばりなら、最後に港町ラールムだ」
「3番目がラールム……ですか?」
「ああ! この街にはな。綺麗でおしゃれな女子がたくさん居る。エキゾチックな外人女子も多い。可愛くて優しい女子とのラブロマンスを夢みたいのなら、絶対にこの街さ」
可愛くて優しい女子とのラブロマンス……
港町ラールムを語るアンセルムの目は遠かった。
素敵な女子との甘酸っぱい思い出があるに違いない。
しかしここで敢えて聞くのは野暮である。
そっとしておこう。
リオネルはそう思い、ありがたくアンセルムのアドバイスを受ける事にしたのである。
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