第19話「ランクアップしたぞ!」

「失礼します、こんにちはあ!」


想定というか、予定通り……

健脚がさく裂したリオネルは、約20㎞を30分かからずに走破。

息も切らさず、午後1時30過ぎに王都へ帰還。

その足ですぐ冒険者ギルドへやって来た。


やはり『ラッシュ時間』ではないせいか、冒険者の数はまばらだ。

閑散としている。


リオネルはすぐ、業務カウンターへ向かう。


「あら、リオネルさん。こんな時間にどうしたのですか?」


業務カウンターに……憧れの女子職員ナタリーは居た。


こんな時間というのは……閑散時間帯だから。

そもそも冒険者ギルドは朝8時から9時と、夕方5時から7時までは激込みする。

これがラッシュ時間。

好条件の依頼を求めるのと、早めに完遂報告をして居酒屋で一杯飲みたい冒険者が殺到するのだ。


ナタリーの問いかけに対し、リオネルは答える。


「はい、完遂報告とご相談です」


「え? 完遂報告?」


「はい、依頼を頂いたスライム討伐です。結構狩りましたんで、ご報告です」


フロアに居た数人の冒険者がリオネルの大きな声を聞き、侮蔑の表情を浮かべる。

今時、スライムを専門に狩る者は滅多に居ない。

理由は簡単、経験値は微小だし、儲からないからだ。


「分かりました。じゃあ所属登録証をお預かりしますね」


「お願いしまっす! これで」


「はい、少々お待ちください」


ナタリーは所属登録証を受け取ると、


……………


ほんのしばしの沈黙の後。


「えええええっ!?」


と驚きの声をあげた。


「どうしました?」


「い、いえ、ろ、603体って? 本当ですよね?」


ナタリーの質問は、『愚問』である。

討伐数は魔法で所属登録証へ自動的にカウントされる。

ギルドが厳密に設定したシステムなので、誤魔化しようがない。

疑う余地がないからだ。


普通の冒険者なら不快に思うかもしれない。

だがリオネルは柔らかく微笑んでいる。


「ええ、本当です。ひたすらコツコツ狩りました」


「い、い、いえ! う、疑っているわけではありませんが、ひ、ひたすらコツコツって……あの、リオネルさんって、ぼっち……い、いえ! ソロプレーヤーですよね?」


「はい! よく言えばソロプレーヤー、悪く言えば、寂しいぼっちです」


「う! ご、ごめんなさい! ラ、ランクFなのに! お、おひとりで、スライムをそんなに! ……す、凄いですね」


「はい! 褒めて頂き、ありがとうございます!」


「ええっと! き、既定のポイントに達したので、リオネルさんはランクアップします。……おめでとうございます! ランクFから、ランクEに昇格しますよ。これで依頼案件の選択肢も増えますし、ギルド所属員専用の講習が半額で受講出来ます」


「おお、嬉しいです、それ!」


受諾可能な依頼の内容はランクの高さに比例する。

当然上位のランクに行けば行くほど、難度は上がり、報酬も高くなる。


ギルドの講習とは武技、魔法等々の講座である。

ランカーと呼ばれるランクB以上の上級冒険者達による指導が受けられる。


魔法は初歩レベル、武技は我流のリオネルにとってはプロの技を学べる貴重なチャンスだ。

それにリオネルにはチートスキル『見よう見まね』がある。


見学するだけで、そこそこの結果が出たのだ。

しっかり指導を受ければ、『学べる以上』の成果が期待出来るに違いない。


「では、報酬をお支払いした後に、ランクアップとなります」


「ありがとうございます!」


報酬は、スライム1体につき銅貨1枚、日本円にすれば100円ほど……

603体討伐なので、銅貨603枚。

つまり清算すれば都合、金貨6枚6万円、銅貨3枚300円ほどだ。

※読者様へのご説明用で『日本円』に換算しております。


宿屋の宿泊費1日2食銀貨2枚(2,000円)を考えたら悪くない。

というか、最高だ!

それも、リオネルにとって、たった1時間の実働だから。


リオネルがつらつら考えていたら、

ナタリーは報酬と、ランクアップ済みの所属登録証を渡してくれた。


だが……

リオネルはまだ『用事』がある。

『本題』を切り出さねばならない。


「ナタリーさんに、まだご相談があります」


「まだ? 何でしょう?」


「はい、ゴブリンの討伐依頼も受けたいのですが」


「ええ、構いません。ゴブリン討伐はランクEの依頼案件ですから……リミットは無期限で、1体討伐につき、報酬は銅貨5枚となります」


銅貨5枚(500円)……悪くない。

100体倒せば、金貨5枚(5万円)だ。


「ナタリーさん、スライムは死して身体が崩壊する。なので買取りがないとの事ですが、ゴブリンは死骸の買取りをしていますよね?」


ちなみに、持ち帰り可能だったゴブリンの亡骸が、収納の腕輪に100体ほど入っている。


「はい、ダメージの少ないものを査定した上、ギルドでは、討伐料と別にゴブリンの死骸を1体銅貨2枚で買い取ります」


1体の死骸買取りが銅貨2枚(200円)、100体で金貨2枚(2万円)か。

別途100体の討伐料は金貨5枚。


合わせて金貨7枚かあ!


……普通の冒険者なら運搬の手間を考えて、死骸運びは絶対にやらない仕事だろうけど、俺には、アンセルムさんから頂いた収納の腕輪がある。

悪くない『仕事』だ。


もう少し情報収集をしようと、リオネルは更に尋ねる。


「えっと、ナタリーさん、念の為にお聞きしますが、オークとオーガの死骸買取価格も教えてください」


オークにオーガと聞き、

え?

という驚きの表情をしたが、ナタリーはすぐ苦笑する。


「オーク、オーガって……ランクアップしたからといって、ランクEで無理は禁物ですよ。ちなみにオークは銀貨5枚、オーガは金貨3枚になります」


「な、成る程! ありがとうございます」


ジト目のナタリーから諭されてしまったが……

思わずリオネルの声が上ずった。


オークは銀貨5枚(5,000円)、オーガは金貨3枚(30,000円)で買い取ってくれるのだ。

ゴブリンの銅貨2枚(200円)とはけた違いである。


但し、その分リスクも比べ物にならないほど高い……

命を失う危うさに比例するのだ。


「それより、リオネルさん、ランクE向けの依頼がいくつかありますが……ご説明しますか?」


「ええっと」


ナタリーの提案を聞き、リオネルは少し迷ったが……

断る事にした。


まずは今日見つけた『狩場』でゴブリンをいっぱい狩って、稼ぎたい。

経験値と実戦経験も積みたいと考えたからである。


「ありがとうございます。と、とりあえず、結構です。またの機会にお聞きします」


「そうですか。分かりました。あ、そうだ。他にもランクEの無期限を含めた依頼案件を記載した資料がありますからお渡しします。宜しければご検討ください。それとギルドの依頼掲示板にも張り出されていますよ」


「ありがとうございます!」


リオネルは素直に喜ぶ。

依頼の選択肢が大幅に増え、報酬も経験値もぐんと稼げるからだ。


貰った資料は後で目を通すとして……

この前は時間がなかったからチェック出来なかった、依頼掲示板でも見よう。


そう考えたリオネルは辞去の挨拶をする。


「では、ナタリーさん、失礼します!」


「頑張ってくださいね。お気を付けて」


こうして……

笑顔のナタリーに見送られ、リオネルはギルドの掲示板に向かったのである。

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