エピローグ②

「————ハルちゃ…春火。クラスの子がプリント届けに家まで来てくれたのよ。」

「‥‥そう。ありがとうって伝えといて」

「ハルちゃん。それは駄目よ。ちゃんと自分でお礼を言いなさい」

「あのねぇ、お母さん。私が何で学校を休んでいるのか知っているでしょ?」

「じゃあ、せめて部屋からでいいから「ありがとう」って言いなさい。

彼、ええっと‥‥星連ほしつらくんがリビングで待っているのだから」

「いや、聞こえないでしょ。そんな遠くにいるなら———」


仲睦まじい母娘の寸劇をBGMに、

私は天音家のリビングで珈琲コーヒーを堪能していた。喫茶屋以外で豆から挽いた本格的な珈琲を飲むなど滅多になかった私は此処から帰るまでの算段を考えることすら忘れ、ただひたすらに珈琲を堪能たんのうしていた。


「ごめんなさい星連くん。春火、今日も部屋から出たくないみたいで…」


 やがて寸劇が終わると天音あまね母は困り果てた様子で二階から降りて来て私に謝ってきた。…どうやら娘の説得には失敗したらしい。

「いえ、私は全然。長居してもご迷惑ですし、そろそろおいとましますね」

良い頃合いだろう…と私は帰りの言葉を切り出し、学校鞄を持ってソファから立ち上がると天音母は玄関まで見送ってくれた。


「‥‥コーヒー、ご馳走様でした。美味しかったです」


「お邪魔しました」と言おうとした所、珈琲のお礼を忘れていた私は何も考えずに感謝の言葉を口にしていた。


「あら? それは良かったわ。今日は突然だったからコーヒーだけだったけど…明日は・・・紅茶と茶菓子を用意するわね」

「ア、‥‥ありがとうございます」


これが天然か。はたまた意図的なのか。

その答えは彼女が「お義母かあさん」となった日まで分からなかったが、

この日から私は学校帰りに天音家へと通う事が日課となったのである。


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