5.「夢」
「
あの夏の日を境にアイ様はアイドルへの道を走り始めた。
ダンス、バレエ、水泳…と今までの習い事で培った経験を総動員した上で体力づくりに
【お疲れ様でした。アイ様】
「はぁ…はぁ‥ありがとう。いま…撮ったの…見せてくれる?」
ダンストレーニングを終えたアイ様にタオルと手製のスポーツドリンクを差し出すと彼女は息をつくことも無く私が録画した映像を要求した。
【こちらになります】
映像データをコピーしたアイ様の端末を渡すと、汗を拭くことも忘れてアイ様は映像に熱中してしまう。
「やっぱり…ここは‥こう、か。———やっぱり、もう一度先生に見てもらった方がいいのかも…」
【汗…お拭きしますね】
邪魔にならないようにタオルを優しく顔に当て、丁寧に汗を拭き取っていく。
…トレーニング映像の録画、徹底した食事管理、訓練メニューの構築など‥私は新たな役目を仰せつかった。今までの私がしてきたことは家事とアイ様のお世話をさせて頂くことだけだったが、あの日のアイ様の言葉をきっかけに私は本当の意味でマスターを支える仕事をさせて頂いている。
「ただいま」
習い事から帰ってきたその言葉から私はアイ様の機嫌を予測するだけ…。
マスターを見送って、それから帰って来るのを出迎える日々を送っていた私…。
そんな私が今、こうしてアイ様の頑張る姿を目の前で見守りながら、それを
…まさにAI
――――――――――・・・———————————
〈—————私、アイドルになる〉
…今夏の始めての「ただいま」の次に出てきたマスターの御言葉。
いったい、何が、どうして私のマスターが〝アイドル〟なるもの目指すのか分からず尋ねようとすると、
〈———だからお願い。手伝って…くれる?〉
次に出てきたマスターの言葉。私にとってそれは魔法のような言葉だった。
【畏まりました。マスター・アイ様】
断るはずがない。
右手を腰に、左手を腹部にあてながら頭を傾けて私はこれを
【ですが…どうしてアイドルなのですか?】
体を傾けながら尋ねると、アイ様は
「実は今日ね。不思議な
と言って更に話を続けた。…なんでも今日の習い事で出会った
――――…一体どんな人だったのでしょうか。
顔も知らぬ誰かを思い私が思考回路を巡らせていると、
「私…輝けるかな」
アイ様が小さく呟く。
それは不安とまだ見ぬ未来への展望――〝夢〟と呼ばれる不確かなものを抱いたマスターの心中だったと思われる。
【はい勿論。なぜなら…】
故に私はこう答えた。…この
〝アイ様は、いつだって私の希望の星なのだから‥‥〟
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます