4.「受難」
「…では、これより本日の会議を始めさせて頂きます。皆様、よろしくお願い致します」
金髪にアメジストの瞳を持った
しかし、そんな会議が行われようとしている最中、シーラの隣の席に控えていた男——————
「ねむ…」
時刻は午前7時。
この朝礼会議が始まる以前であれば今ごろ朝食を食べている時間なのだが、とある案件を解決すべく開始された朝礼会議によって睡眠不足気味な日々が続いていた。…いずれ会議が終結するならば咫狸も我慢が効いたのかもしれないが、これだけの重鎮が集まった朝礼会議にもかかわらず会議が終結することは敵わなかった。
「ふぁ~・・・」
しかし、朝から集まったところで特別何かが決まるわけでもない無駄な会議を前に
「秘書長。それでは‥」
「へいへい」
会議の進行を丸投げしようかと思ったところでシーラに先手を打たれてしまい、咫狸は仕方なく会議の議題を挙げることにした。
「はい。じゃ~‥いつも通りこの議題から。人型AIの
〈やはり人型AIには無理が————〉
〈———しかし、火山・海底・森林などの調査も…〉
〈———それってお金はどこから出すの?〉
〈技術省の方で何とか――――〉
〈——米国や各連盟諸国にはどう説明を‥?〉
・・・———西暦2500年より始まったAIの社会進出。
これにより医療・経済・農業・漁業———等、あらゆる分野に多大な好影響を与え、過去の大戦から背負った借金や500年前からの不安要素であった低い食料自給率を克服したことで日本は世界に大きく注目される国となった。
そして、現在2520年の夏。
AIによる日本の技術力向上をうけ、議会の話題に挙がったものが「人型AI」の
‥‥しかし、そのロマンと希望に溢れた存在を実際に生み出すとなると非常に大きな問題が生まれることになる。
そもそも「AIとは何か?」という定義を純粋に突き詰めれば、
電力のみで動く都合のいい従者。肉体のない仮初の知能生命体であり、演算機能を有したそれの使い道は無限の可能性を秘めていた…良い方にも、悪い方にも。
それは人の幸福を願って生み出されたモノが誤用されることを既に歴史が物語っていた。人々の生活を支えるべく生まれた人型AI————生命という概念を持たないそれを軍事利用すれば日本は無敵の兵隊を保持する軍事国家と変貌する。
たとえ
…大いなる力は持つだけで周囲に不安の種子をまき散らす。
初めは予感や憶測であったとしても日本の行動によって生まれた一つ一つの要素は確実に各国への疑心暗鬼を生む。やがて、それが最終的に戦争にまで発展してしまえば日本は本当の意味で終わってしまうだろう…。
「————…聞いていますか。秘書長」
「どうせ変わんねぇよ。
「人型AIの作成、賛成か反対か」「そもそも人型にする理由はあるのか」
問題ばかりで全く進まない会議に何の意味がある?」
人型AIの作成という試み自体、
ただ「軍事利用またはその余地有り」と各国に危険視されることを防ぐために
〝必要最低限の運動能力を有しつつ、
人間的な知性と道徳と判断力を有したモノ〟
が条件として求められるわけだが、この朝礼会議では人型AIを作る過程の話をするばかりで、それが生まれた後の話をする者はいなかった。
「…では、あなたの不満共々この会議で発散してみてはいかがですか?」
「冗談だろ。言ったところでこいつら…いや、
「
明日
2500年のAI社会進出に向けて創設された内閣・AI技術省。
日本における全てのAI作成を担っており、AI産業は『日本政府直属の特殊市場』となった。…これら省庁・市場は国民の税金の一部を媒介に設立されたものであるとして政府は企業・個人に対してAI機器を賃貸または無償で提供することが約束されている。
「確かシーラ嬢ちゃんと同じくらいの年だったかな。
そういって
「——————…だ・か・ら。
AIも肉体という器が異なるだけで人と同じように心の成長には時間が必要なんですよ。そんなホイホイと判断力だの道徳心だのが育つわけないでしょうが…ほんとに馬鹿だなアンタ等は」
白衣を着込んだ黒髪で眼鏡をかけた青年。AI機器ASBシリーズの生みの親であるAI技術者——明日
AI機器の生みの親である初代AI技術省大臣:明日
〈・・・・・〉
各省庁の代表達による冷たい視線を受けながらも
「心の成長には時間が必要…か」
AI技術における専門的な知識は咫狸にはない。人型AIを作るための時間やコストといったものは歩に任せれば基本的にどうにかなることだ。…だが、もし仮に条件に見合った人型AIを作ったとしても、そんな
「お前はどう思う?」
人型AIの在り方が思い浮かばず、咫狸は隣に座るシーラに尋ねるが、
「…では続いての議題に移ります。都外に建設されたスポーツ文化事業団所有の陸上競技場及びその他関連施設についてですが、その運営については全く目途が立っておらず――――」
全くやる気のない咫狸に代わり彼女は会議を進行していた。
「何か…つまんねぇな」
「————建設から月日はそれほど経っていないため取り壊すよりも再利用の方が…」
窓の外を眺めながら呟く
そんな彼を睨みつけながらシーラは手元の資料を読み上げていた。
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