3.「アイドル」
・・・――――あれから月日は流れて11年。
マスター・
少女の背丈は私を超え、
旦那様から課せられた習い事をこなしながら学業や多種多様なスポーツ・競技に勤しみ、その結果として数々の功績を残された。家内に置かれた賞状。大小様々なトロフィーがその証明となる一方で、アイ様が今まで失ったものは重い。
出生と同時に母を。
功績の代わりに多くの友人を。
失くしてきたものが多い人生であったが、それでもアイ様は
「私が私のままでいられる場所。
その作り方を忘れなければ…きっと大丈夫だよ」
…肥えたまぶたを細めながら笑顔でそう答えていた。
感情の嵐を幾つも乗り越えて、マスターは優しくも清廉な少女に成長された。
160㎝という女性にしては少し高めの身長に加え、スラリと伸びた手足。
きめ細やかな肌と色
…
―――マスターの女性としての輝きを私の
ふとそんなことを考え出すと、つい嬉しくなって家の中を走り回ってしまいそうになる。
「————ただいま!」
【…!お帰りなさいませ。アイ様…】
夕食の準備を終えたところでアイ様が習い事から帰って来られた。
うつつを抜かす私を
それは懐かしくも何をしでかすか分からない遠い日の幼女を想起させ、私は久しぶりに身構えてしまっていた。
【‥‥あはは】
幼いアイ様の天真
これはマスターを大人の
未だ少女のままである事を望んだ矛盾した願い。
…簡単に言えば〝ワガママ〟なのだろう。
【どうされたのですか?】
気を取り直して玄関に向かい、マスターに尋ねる。
すると「やはり…」というべきか。
どこか懐かしいような光景が私の視界に広がっていた。
「はぁ…はぁ‥」
脱ぎ捨てられた靴。
ポトリ‥と床に落ちた帽子。
頬を伝う汗すら気に留めない
息を切らしながら玄関に立ち尽くすアイ様と視線が合うと、
「…
私のカメラを真っ直ぐに見つめて、彼女はそう宣言した。
【アイ…ドル?】
マスター・
夏の暑さに侵された少女の瞳は私の先にある遠い光を見つめていた気がした…。
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