第24話

 私たちの記憶に大きな衝撃を与えた事件から始まった夏休みはあっという間に終わりを迎えた。

「謹慎明け初の試合はどうだったの?」

「そりゃあバリバリに活躍したって、お前ら試合見てただろ!」

「前々から思っていたけど、狩越学園の試合って優美がいない方が白熱しているよね」

 津ヶ原水奈殺人事件が起こってしまったせいで優美が必死に隠し通そうとしていた課題の件はコーチにバレてしまい優美は夏休み期間中試合に出場停止の処分を受けてしまった。

 誤魔化そうとした罰が当たったのだろう。

 もう一つの衝撃は華さん達だった。

 渚の事件以降柏越の交番で大きな事件も無く過ごしてきた華さんと巻島さんだったが、九月一日から梨蘇区警察署一課に戻ることが決まったらしい。

 とても喜ばしいことではあるのだが、

「華姐さんもマッキーも上司の目の届くところに置かれただけじゃねぇのか?」

「マッキーさんだけじゃ刑事さん止められないからね」

 と、噂されているが本人たちはまだ知らない。



***



「琴音さん、それ何ですか?」

「何って、精霊馬だけど」

「わたしの知っている精霊馬ってきゅうりで馬、ナスで牛を模った飾りだったと思うんですけど」

 いつツッコミを入れてくるのかとワクワクしながら作っていた私だが、まさか完成するまで明が一切ツッコミを入れてこないとは思ってもいなかった。

「あの子の事だからこっちにギリギリまで居座るつもりだろうからあっちの門限に間に合うようにスポーツカーにしてみたのだけど」

「琴音さん、器用ですね」

「何故か年々女子高生らしからぬ知識が増えていくのよね」

 私はそう言ってこちらにブイサインを見せてくる亡霊に視線を向けた。

 お盆はとうに終わったのだからさっさと帰ればいいのに。

「琴音さん?」

「どうかした?」

「困ったことがあったらいつでも頼ってくださいね」

 二年連続で幼馴染を失ってしまった私を明なりに慰めてくれたのだろう。その気持ちだけで私は十分嬉しかった。

「ところで……」

 私はあの事件以降、幼馴染の亡霊とは別に付いて来るようになった大男に目を向けた。

「あなたはさっさと雇い主の所に戻れば?」

「津ヶ原との契約はあの日をもって終了しました。今は家政夫として緋色家に仕える身、困りごとがあれば何なりと」

「はぁ、お母さんも変な趣味してる」

 私も明もこの大男を生活の一部として受け入れるにはまだしばらく時間がかかりそうだ。



緋色琴音 十七の夏 《了》

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