第16話

 劣化して今にも崩れそうなコンクリートに錆を通り越して腐敗した鉄柵。廃墟としか呼びようのないビルの屋上に私は居た。

 何故いきなりこのような場所に立っているのか不思議で仕方がなかったが、この世界がだと自覚すると全てに納得できた。

 このような夢を明晰夢とか言うらしい。

「ダメッ!」

 私の他にその場にいた……津ヶ原水奈と天空渚に対して私は思い切りそう叫んだが、その声は届かなかった。

 パキッという私が想像も出来ないほど呆気なく、弱々しい音で鉄柵は壊れ、天空渚は落下した。

「……渚」

 屋上から落下した渚を覗き込むと、そこに渚は居なかった。

 代わりに居たのは、渚を突き落としたはずの津ヶ原水奈だった。



***



この夢」

 午前二時十三分。私は夢から目覚めた。

 私の頭には、渚に代わって落下していた津ヶ原さんの不自然な笑顔がべっとりと焼き付いて離れなかった。

 そして同時に、渚が居なくなったに感じた嫌な予感がした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る