第14話

 夢であって欲しいと思う出来事は十六年も生きていれば何度か訪れる。

 例えば、ときに姉妹のように、ときに恋人のように共に生きてきた幼馴染の死。

 例えば、あまり喜ばしくない形で再会した義理の姉から電話がかかってきた時……。



***



『琴音さん? 中林、中林華です』

「明けましておめでとうございます。昨年は大変お世話になりました」

『えぇ、おめでとう。あれから特に変わりはない?』

「そうですね。渚が最初から存在していなかったかのようです」

 もちろん、渚は確かに存在していた。それに今もどこかで私を……。

「華さんもお変わりありませんか?」

『今日も変わらず平和な時間が流れているだけ。さっさと成果を出してそっちへ戻りたい所だけれどあと数年は難しいでしょうね』

 華さんのその声は半分ほど諦めているように聞こえた。

『変わったと言えば……』

「何かありましたか?」

 大切なことを思い出したかのようにそう言った華さんに私はを期待して食い気味にそう返答してしまった。

『最近、と言っても三ヶ月ほど前からではあるけれど八重彦と同棲を始めたの』

 八重彦とは華さんの同期であり相棒である男性警察官の巻島八重彦さんの事だった。

『まぁ、この村の警察官は私と八重彦だけだから同じ家に住んでいるというだけで八重彦と同じ屋根の下で過ごした事は無いけど』

「そうですか」

『あからさまに興味無さそうね。女子高生ってコイバナとか好きそうなのに』

「偏見ですね。そもそも、お二人はお付き合いされているのですか?」

『してない』

 はっきりとそう告げられたその言葉を聞いて、八重彦さんが華さんに好意を抱いていることを僅かながら勘付いている私は気の毒な気持ちになった。

『あいつは昔から過保護すぎるの。何かあればすぐに自分が罪をかぶって……あいつを振り回しているのは私だって言うのに』

「私と渚みたいな関係ですね」

 私は華さんと違って振り回されている側ではあるけれど、に対して抱いている感情は私も華さんも嫌いすきという感情だった。

『琴音さん達の関係は私にはわからないけれど、私たちの関係はきっと同性同士の関係とは違うわ。急に電話してこんなくだらない話に付き合わせてしまってごめんなさい。また、連絡するわ』

「私で良ければいつでもサボタージュに付き合います」



***



 まさかこの次に華さんからかかってきた電話がと思う内容になるなんて、この時の私は思ってもいなかったのです。

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