第12話

 『黄色い雷』だか『黄色い稲妻』だったか……正しい呼び名は忘れてしまったけれど、その少女は私の知る中で最も真剣にを追いかけている。



***



「凄いよね」

「何の話?」

 渚の話はいつも唐突で困る。

「優美ちゃん、東山の」

「あぁ、黄色っぽい金髪の……」

「アタシの話か?」

 話題に上がっていた東山優美が参加していたバスケットボールの試合はいつの間にか終わっていたらしく、試合を終えた優美は私たちの会話に混ざってきた。

「そ。東山の優美さんは凄いって話」

「遠山の金さんみたいな呼び方すんなって。で、アタシの何が凄いんだ?」

「本人もわかっていないみたいだけど?」

「聞いたけど? 本気でプロ目指してるって。の」

 それはとても意外だった。今の今まで他の生徒とは比較にならないくらい飛び抜けたバスケットボールの才能を披露していたのに目指す夢がサッカーボールのプロ選手とは。

「渚、それどこから聞いた? アタシが目指しているのはプロの選手な!」

「人の噂って信用ならないね」

「私は最初から天空の話は信用していなかったけれど」

「そう言う割には、さっき驚いたような顔していなかったか?」

「ほら、緋色って流行りのツンデレだから」

「違うから。流行もしていないし」

 私の参加する試合が始まりそうなのでさっさと話を切り上げて立ち上がろうとすると、私の方に向かってバスケットボールが飛んできた。

「緋色っ!」

 一瞬の出来事だった。

 優美の特徴的な黄色っぽい金髪がまるで閃光のような速さで私の前に現れて私に向かって飛んできたバスケットボールを素早くキャッチした。

 そんな姿がスローモーションのようにゆっくりと見えていた私の腹部はキャッチされたはずのバスケットボールが直撃したような激痛を感じた。

「さっすが『黄色い稲妻』。ナイスキャッチ。あと、緋色ごめん」

「普通、謝るのが先でしょ」

 私はバスケットボールから私の身を守ろうとして私の腹部にヘディングを喰らわせてきた渚を睨みつけてそう言った。

「琴音、大丈夫か? ……大丈夫じゃないよな」

「一応、平気。ありがとう『黄色い稲妻』……うっ」

 平気な振りをしてみた私だが、渚の体重が乗ったヘディングは私の意識を奪うには十分な威力だった。

 そんな薄れゆく意識の中でも、優美が叫んだ

「その呼び名恥ずかしいからやめてくれぇぇぇ」

 という言葉ははっきりと聞こえた。



***



 拝啓、親愛なる幼馴染

 あれから『黄色い稲妻』は本人曰く不本意ながら広まって遂に新聞の見出しになっていた。

 あんたから貰った最初で最後のプレゼント、が現実になるまで大事にするって。

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