第11話
「あけおめ~」
年が明けて最初の朝、私は欠伸交じりで告げられた挨拶で目を覚ました……気がした。
部屋には私以外誰もいない。
あの声は幻聴以外の何物でもなかった。
「はぁ、最悪」
私は枕に顔を埋め、再び夢の中へと落ちて行った。
***
「あけおめ!」
一月一日午前零時……四十二分。新年を湯船の中で迎えたらしい彼女は髪の毛をびっしょりと濡らしたまま窓の向こうにいる私にそう告げた。
「おめでとう。とりあえず、髪の毛乾かしたら?」
「あ~ 大丈夫。多分、きっと、すぐ乾く」
「こっち来て。今すぐ」
このまま放置すれば三が日中に風邪をひく未来が容易に想像できてしまった私は渚を部屋に呼びつけた。
「オッケー。ちょっと避けて」
渚に言われるがまま私は窓から離れ、掛け布団を床に敷いた。
それから程なくして窓の外から渚がやって来た。
「イエーイ! 成功」
「布団、濡れた」
「え? あ~ごめん」
「あんた、拭くってことが出来ない訳?」
窓越しからでは髪が濡れていることだけしかわからなかったが、窓から窓に飛び移ってきた渚は全身がびっしょりと濡れていた。
「年明けると思って急いで出てきたから」
「急いで、ねぇ」
現在時刻、午前零時四十四分。
「バスタオル持って来るからちょっと待っていて……少しも動かないで、何も触らないで」
「りょーかい」
渚に触られて困るようなものは置いてはいないが、部屋を好き勝手濡らされてしまうのは困る。
「くちゅんっ」
「そんな可愛らしいくしゃみ出せたんだ」
脱衣所からバスタオルを取ってきた私はそれを広げて渚の頭にかぶせた。
「待たせ過ぎた? 身体、凄く冷えているけど」
「寒いかも。ちょっとだけ」
普段はカイロのように温かい渚の身体はバスタオル越しでもわかるほど冷えていて私はとても不安になった。
「怒らないでね」
私と渚のどちらが告げたかわからないが、どちらかがはっきりとそう告げてぴったりと身体を重ねて抱き合いお互いの体温を共有した。
***
一月一日午前七時三十五分。私はスマートフォンから流れるアラームの音で目を覚ました。
不思議なことに普段ベッドの真ん中で眠り、真ん中で目覚めるはずの私はベッドの右端で目覚め、左端はカイロのような温かさが僅かに残っているような気がした。
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