第8話
渚の事件が公となったのは渚の死後四十九日後の事だった。
政治家の
「良いんですか? 二人が居なければ誰も気づかなかったはずなのに」
誰よりも早く今回の件に関して疑念を抱いた二人の刑事は無断で捜査を行っていたことでキッチリ大目玉を受けて、畑が獣に襲われたくらいしか事件が起こらない田舎に配属させられていた。
「ここも意外と住めば都だよ」
「サボっていても怒られないですから」
「それにしても、本当に良かったの? 折角証拠も揃っていたのに」
「天空は自分が死んだ本当の理由を知ってくれていれば満足してくれると思うので」
「琴音さんがそれで良いなら私たちはこれ以上深入りしません」
「まぁ、父さんが公にしてしまったので逮捕は時間の問題かもしれないですが」
「その時はその時ですよ」
恐らく津ヶ原さんは罪を認めないし、証拠は全て彼女に渡してしまったので彼女自身が出頭しない限り証拠不十分で事件は風化していくことだろう。
「琴音さん、そろそろじゃないですか?」
「乗り遅れたら今日中に帰れなくなるよ。今日でしょ? 渚さんの四十九日」
「もうそんな時間でしたか。お二人ともお元気で」
急いで電車に飛び乗った私はずっと黙り込んでいる顔立ちの良い幽霊に声をかけた。
「話すなら今じゃないの?」
「恥ずかしいよね。改まると」
「今更恥ずかしいことなんて無いでしょ?」
「確かに」
隣に座っていた渚は席を立って私の向かいに座った。
大丈夫。この電車はまだまだ田舎を走る。
乗客はしばらく私だけ。
「今日で四十九日だからさ。多分、成仏する」
「やっと静かになる」
「明のことよろしく」
「あんたみたいにはならないから大丈夫」
「奈々子と優美に大好きって伝えて」
「言わなくてもわかっていると思うけど、伝えとく」
渚は今にも泣きだしてしまいそうだった。それにつられたのか、私の目にも涙が溢れてきた。
「緋色、泣いてる」
「お互い様」
「じゃあ、最後に緋色に」
「手短にお願い」
「無理。わたしは琴音がいつも一緒に居てくれて幸せだった。
いっぱい喜んだし、
いっぱい怒られたし、
いっぱい哀しんだし、
いっぱい楽しんだ。
琴音と一緒に居た人生は間違いなくわたしの宝物。死んでからの四十九日間ももちろん宝物。あのさ、わたしの遺言覚えてる?」
「忘れた」
渚の最後の言葉を忘れるはずがない。
「琴音……太陽が綺麗……。どういう意味か分かる?」
「そのままでしょ? 意味なんて無い」
渚の言葉なんていつもそうだった。
だから今回も……そうに決まっている。
「はずれ。正解は……アイ・ラブ・ユー」
綺麗な顔で汚いウインクをしたその瞬間が私と渚にとって最期の時間だった。
「馬鹿。それは、月が綺麗ですねでしょ! 渚、私もあんたが……大好き」
最寄り駅に着くまで私は泣き続けていた。家に着く頃には目は真っ赤に腫れあがっていて、こんな姿を渚に見られてしまったら恥ずかしさで飛び降りてしまうかもしれない。
もちろんそんなことするはずがないし、出来る訳がない。私は突然命を奪われた渚のためにも生き続けなければならないのだから。
***
「ただいま」
緋色琴音 十六の夏 《了》
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