第7話 力差

 開幕早々、アキはライフルを構えて、トーリスの眉間に弾丸を放った。

トーリスはそれを軽々ビーム剣で消し炭にし、どんどんこちら側に近づいてくる。


「はあぁぁぁ!」


 ドロシーが巨大なサーベルを持って、トーリスに突撃する。


「なまくらがぁ!」


「っ!? きゃあっ!」


 ドロシーは易々弾き飛ばされてしまい、草原に背中を叩かれた。


「ぐふっ……!」


「こんのぉ!」


 レナトゥスは異次元から透明な槍を出して、トーリスと斬りあった。


「っと! こっちはなまくらじゃないみてえだな!」


「そんなこと言うな! ドロシーの剣をなまくらだと思うアンタの感覚がなまくらなんだ!」


「んだとてめえ! もういっぺん言ってみろ!」


 トーリスは激昂し、足でレナトゥスの脇腹を思い切り蹴り飛ばした。


「ぐっ!?」


 吹き飛ばされた先では、アキとドロシーがカバーに入った。


(早いな……あのドロシーとかいう娘)


 ドロシーは先ほど背中を叩きつけられたにもかかわらず、すぐに動けていたのならば、相当に身体が頑丈ということになる。


「なるほど、相手はかなりの剣豪らしい。それも、あのシンとやらとは別格のな」


「あったりめぇよ! あんな雑魚を倒してイキり散らかすような奴の凡骨と一緒にすんじゃねえ!」


トーリスは仁王立ちしながら、明日香にビームの刃を向けてそう叫んだ。なんと哀れなことか、シンは組織内部でも下に見られていたらしい。


「じゃあ、俺の腕なら満足してくれっかな?」


「ん? おお! 手前がシンを殺った謎の剣豪ってやつか! 組織内じゃお前の話題で持ちきりだよ!」


「ほぉー、話題にしていただけるとはありがたいねえ。んじゃあ、話のネタとして戦ってくれや!」


 正和は刀を引き抜いて、向かってくるトーリスと斬りあった。

 斬りあった瞬間、トーリスは違和感を覚えた。


「その刀……おいおいおい嘘だろオイ! なんだこいつは!」


「ああ? 何がおかしいってんだ」


 トーリスは一旦下がって、刀を指さす。


「その刀……刃がないじゃないか!」


 その反応は味方陣営にも届いたようで、明日香が思わず声を上げた。


「なん……だと……?」


 その驚愕の事実を知って、アキも卒倒しそうになっていた。


「ほー、今の鍔迫り合いで見抜けるとは、お嬢さんは洞察力に優れてらっしゃる。どうだ? 刃が無くても斬れることにビビったか?」


「おいおいおいおい……嘘だろ? 嘘だって言ってほしい……」


「……こんなこと言ったが、正直これじゃ手前味噌だな……」


 正和は額をぽんぽんと叩いた。言ってて恥ずかしくなったらしい。


「……あー、興が冷めちまった。上であいつが監視してんだもん……」


「アイツ?」


「上見てみろよ。いるだろ、人影」


 正和とレナトゥスたちは、上にいる人影を目撃した。

 その人影は、おおよそ2メートルはあるだろう巨体を鎧で包み込み、顔はバケツのような鎧で覆われていた。


「少々お遊びが過ぎたな、トーリス。オープニングがお前を心配していたぞ」


「へっ、あんな自動人形に心配されるような奴じゃないやい」


「どうだろうな。すくなくとも、私を連れてきたということは、あいつなりの心配だと思うが」


 鎧の人間はそう言いながら、正和たちとトーリスの間に降りてきた。


「貴殿が碇矢正和か。私はウェルテクス、組織のナンバー3だ」


「ほー。じゃあ組織にちゃんとした名前つけるように上司に言っといてくれ。分かりづらいったらありゃしない」


「心得た」


 ウェルテクスはトーリスを抱きかかえ、マントをなびかせどこかへ飛んでいった。


「くっそー! お前らー! 次逢った時がお前らの最期だー!」


 トーリスはじたばた動きながらそう言って、連れて帰られるのでしたとさ。


「……ふぅー、疲れた」


 正和は、その場にゆっくりとしゃがみ、あぐらをかいた。

 深編笠を外して、獣耳をひょこひょこと動かしている。


「アンタ……その刀……」


「ああ? ああ、すごいだろ? 刃が無い分そんなに手入れの手間がかからなくてね。おまけにこの金属は特殊なやつでさ、血は吸収してくれんだよ」


 正和は刀をしまって、アキの言葉を察してそう言った。

 明日香は顎に手を当てて、怪訝そうな顔をしていた。


「しかし、刃がないのなら、どうやってあの時シンを斬ったんだ? 彼には確かに切り傷を残したはずだ」


「魔力を定着させて刃にしたのさ。殺しちゃいけないときは、その定着を解除すればいい。用途も変えられるから、便利なんだよ」


「なんでそんな難儀なことを……」


 レナトゥスがそれに突っかかる。


「はっはっは、難儀か。確かに難儀だ。でも、人を殺すことはもっと難儀だし、それを仕事にするのはもっと難儀だ」


「っ……」


「結局、俺らみたいなのは難儀の渦にもまれながら生きてんだ。俺がこんなことやってたって、世界にはもっと難儀なことしてる奴らなんていくらでもいる。だから、俺は難儀なことしてる」


「難儀が普通、ということか」


「そういうこった。じゃ、そろそろ動きましょうか。レナトゥスさんや、次は何をする? すぐに出ていくか?」


「そう思ったのですが、まずはここに駐留している組織を潰そうかと思ってます」


「じゃ、行きましょうか」


 正和は重い腰をあげ、全員で街の方へ向かって行った。


「……だから、刃無鋒か。刃が無くても斬れる、と……」


 明日香は、そう呟いた。

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