第6話 再開
足場が冷えてから進んだところ、外に広がっていたのは、そこら中から貧乏の雰囲気漂う街だった。
それでもなお、人々は活き活きと暮らし、元気に生活しているようだった。
「街の風貌と人々の活気が不釣り合いだな。気味が悪いくらいだ」
「慣れてしまったんだろう。さてレナトゥス君、ドロシーという子の場所はどこなのか、わかるのかい?」
「確実とは言えませんが、心当たりなら幾つか」
「じゃあとっとと見つけようや。変に聞き込みなんてしたら、どっから組織に漏れて奇襲を仕掛けられるか分かったもんじゃない」
アキはライフルを包に隠しながらそう言った。彼も幾つかの修羅場や茨の道を進んできている。そういう経験もあるのだろう。
「では早速行きましょう! 行動は迅速にしなくては」
「そうだな……なんかテンション高くないか?」
「会えるのが楽しみなのだろう」
四人はレナトゥスが先行していくかたちで、ある場所を目指した。郊外の牧場である。
「ここにもしかしたら……すみませーん! 誰かいますかー!」
レナトゥスは手をメガホン代わりにして目一杯叫んだ。しかし、反応はかえってこなかった。
「いないのかな……誰も所有していないからうってつけだと思うんだけど……」
「探してみるか」
「ちょっと待て、俺に任せな」
アキはウェストポーチからクナイを取り出し、柱に投擲する。
クナイは綺麗に柱に突き刺さり、そこを中心にソナーのようなものが展開される。
ポーン……ポーン……という音が鳴り響き、周囲の物体を壁越しに表示してくれた。
そして、人の形を捉えた。
アキは包からライフルを取り出し、右手で構えながら左手でナイフを持つ。
「おい!」
正和は止めようとしたが、時すでに遅し、アキはすでにそのソナーに映った人に銃口を向けていた。
「……あんたがドロシーか?」
そこにいたのは、一人の少女だった。
まるで闘牛のような角と獣耳、尻尾を持ち、その場で立ちすくんでいた。しかし、その眼は恐れておらず、むしろ「殺してやる」と言わんばかりの鋭い眼光だった。
「ドロシー!」
「っ! レナトゥス!」
その言葉を聞くと、アキは銃をおろして、ナイフをしまった。
「よかった……無事だったんだね」
「うん……! 長らく人の声を聞いてなかったから、つい隠れちゃって……」
「それであんな鋭い眼光放ってたってわけか……」
「……誰?」
「アキさん。訳あって雇ってる」
そう説明されつつも、アキは壁に刺さったクナイを回収しに向かった。
「それ凄いな。ソナーとしての効果があるのか?」
「ああ。こいつの先端部には信管で作動するソナーがあってな。一定の速度で叩くと起動する仕組みって訳さ」
アキは尋ねてきた正和に懇切丁寧に教えてくれた。正和はそれを聞き終えると、レナトゥスたちの方向へ向かった。
「その子がドロシーかい? 初めまして、私は明日香だ」
「明日香……レナトゥスがこっちに入ってきた理由っていう……」
「まぁ、仕事をくれた人って言えばいいかな」
レナトゥスはさらりとそんなことを言った。正和はすこし驚いた。
(なるほどそういう関係だったのか……)
正和は目を真ん丸にした。前々から親しそうとは思っていたが、まさかこのような関係であったとは。世の中は狭い、正和はそう思った。
「ああそうそう、彼は正和、碇矢正和だ。レナトゥス君を助けてくれたお方だ」
「あなたが……?」
「まぁ、成り行き中の成り行きだがな」
正和は深編笠をとって、素顔をさらけ出した。
燻されたような銀髪に、それと同じ獣耳を持っていて、真っ赤な瞳を輝かせていた。
「あっ……すみません、こんなボっとしちゃって……」
「ああいやいや全然。こっちも、ほんと成り行きで助けたみたいなもんなんで……」
「良い子のお話はそこまでにしてもらおうか」
「んん?」
正和は声をかけられた方向を見ると、そこには丸腰で、生気のない青のローブを羽織っている人間がいた。
男というには少々女々しい顔で、女というには身体が出来上がり過ぎている。
「おっと失礼、まずは挨拶から始めなきゃな。組織のマナーその1、これから交戦する相手には何が何でも挨拶をしろ、を忘れるとこだったぜ」
「組織の人間なら開始早々文句を言いたい。1、そのマナーを部下に徹底的に指導しな。そしてその2、組織じゃなくてきちんと名前つけろ」
正和は初対面の相手にそう言いつけた。よほど組織のことが嫌いな様子だ。
「マジかよ、シンのとこの部下がそんなことやらかしてたのか。すぅー、まぁあいつ組織の中でも異端児だったしなあ。残党には指導しとくわ」
「おう、頼む」
「これは漫才かなんかか……?」
アキが明日香に尋ねた。
「私に聞くな。打合せしてるとこは見たことないぞ」
明日香はそう突っぱねた。
「あーところで、そいつがレナトゥスと……そっちの牛娘はドロシーでいいんだよな? そろそろフラストレーション溜まってるんで斬り捨てていいか?」
「そのフラストレーションは俺にぶつけてもらおうか」
「ありがたいねぇ! そいつぁ!」
人間は前腕部からグリップを取り出し、そのグリップからビームの刃を展開して斬りかかってきた。
対する正和は、刀を引き抜いてそのビーム剣二振りと鍔迫り合いを起こした。魔力を定着させているため、鍔迫り合いが可能になっている。
「俺はトーリス! トーリス・ヨハネ! 騎士だ!」
「騎士ィ?! 呪術師とかの間違いじゃねえのか!? 鎧一着も着てねえで騎士を名乗るなこの色白野郎!」
「男っぽい名前で悪かったな! 俺は女だよ!」
2人は互いに蹴とばしあい、少し距離を置いた、そこに、明日香やアキが参戦する。
「こいつぁ面白くなってきた……久しぶりの超豪華ランチタイム、フルコースにありつけるぜ!」
トーリスは剣を構え、狂気に満ちた笑みを浮かべ、そう叫んだ。
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