第5話 意外

 四人は洞窟から出てきて、近くにある廃寺のような場所にやってきた。

扉は破壊されており、中には誰かが荒らしたような形跡があちこちに見られた。


「これです」


 レナトゥスは畳の床の、何の変哲もない場所をゆびさした。

正和は頭をひねったが、明日香とアキには察しがついたようだ。


「なるほど、隠し扉というわけか」


「随分無礼なとこに入口つくったな」


 明日香は感心し、アキは呆れていた。神様を祭る場所に勝手に出入口をつくるとは、酷いものだと思ったのだろう。


「私もそう思ったんですが、私たちはあくまでもこれを利用しただけなんですよ。無礼だ云々は制作者にタイムスリップでもして言ってください」


「……まずは時を遡ることから始めなきゃな」


「知り合いにいるぞ」


 アキの言葉に正和が口をはさんだ。アキはドッキリを仕掛けられた人のように驚いていた。


「数年前に離れ離れになったんだけどな。一応今でも時々魔術使って文通を行うんだが……」


 隠し扉の向こう側にある、薄暗い階段通路を通りながら、正和はべらべらと話していた。アキは眠いのか、全然話を聞いていなかった。


「これを使うんです」


「これは……魔道走行器か」


 明日香はレナトゥスが指さした巨大な円状の装置に対して呟いた。


「魔道走行器って?」


「20年ほど前に制作された、貨物運搬用のシステムだよ、事故が起きて開発が凍結されたけどね。おまけに、エネルギー源も非人道的だなんだと口うるさい団体のせいで、設計図も全部燃やされてね……」


 魔道走行器に用いられるエネルギー源は、魔力と呼ばれるものだ。

前々から時々出てくる”魔術”の発動に必要なもので、万物へと変わることのできる物質だ。

しかし、生物の心臓から発される物質のため、これを科学的に使用することは、この世界のテクノロジーでは、まだ人道的な方法では不可能だった。

 レナトゥスは装置を起動し、それによってできたワームホールを指さす。


「行きましょう。これなら一気にショートカットして、最初の仲間に会えるはずです」


「近場と言っても遠いんだな」


「逃避行ですから」


 そう言って、レナトゥスは一足先にワームホールの中へ入っていった。


「じゃあ、私は二番目に行かせていただこう」


明日香も、それに乗じて入っていった。


「俺たちも行こう」


「大丈夫かよ……」


アキは相当不安だったのか、抜き足差し足で入っていった。


 気が付くと、四人はどこかの地下にワープしたようだ。

正和らは辺りを見回し、近くにあった扉をそっと開ける。

 外には誰もおらず、屋根に大きな穴が開き、その下には屋根の外装と思しき瓦礫が散らばっていた。


「教会か?」


 正和が割れ欠けのステンドグラスを見ながらそう言った。レナトゥスは頷き、明日香は足で床を掃いた。


「埃が少ない……破壊されたのは比較的最近か……」


「おそらくな。こんなボロっちいのは、多分工作か……」


「このあたりの施設はあらかじめ破壊された様に見せかけてるんです。あれを隠すために」


 レナトゥスはそう言って、裏口へ続くドアを開けた。


「行きましょう、こっちからなら、地下道を通って街に行けます」


 レナトゥスは三人を連れて、地下道を用いて街へと向かって行った。

中は地下商店街のようだが、電源が僅かにしか入っておらず、殆どの店はシャッターがしまっている有様で、看板すら置いていなかった。


「本当の名店は看板さえ出さないって言うが……こんな場所が名店の集まりなわけないよな」


正和がそうこぼす。もしここが真の名店の集まりならば、集まり過ぎているし、何より環境がどう考えても飲食店にふさわしくない。


「街の財政難で封鎖されたんです。なんでも組織が金を巻き上げてるみたいで……私とドロシーが来た時には、解体費もすっからかんな状態で……」


「街そのものが無一文ってか……てかドロシーってアンタのお仲間?」


「はい、こう言ったら他のメンバーに失礼なんですが、多分味方の中で一番強いです」


 レナトゥスは鼻が高そうにそう言った。

 四人はそのまま進んでいき、やがてシャッターが閉まった出入口に着いた。


「これどうやって開けます?」


「溶かすとか爆破するとか?」


「爆破は音で人が寄ってたかる場合もある。溶かすとかでいいんじゃないかね」


「では、ここは私に任せておくれよ」


 どうやってシャッターを抜けるか会議したところ、明日香が意気揚々と飛び出してきた。


「溶かせるのか?」


「私はいろんなことに精通していてね、溶かすことに関してもプロフェッショナルを名乗れるくらいにはできる」


「意外だな」


「過去の私を知らない人々はみんなそういう」


 明日香はシャッターに近寄り、手を当てる。

たちまち、彼女の周りに高熱が生じ、真っ黒なローブの下に隠れた衣装が露になる。

 しばらくすると、シャッターは瞬く間に赤熱化し、原形をとどめぬほどドロドロに溶けてしまった。


「さあ、足場が冷えたら進もうではないか」


「……ある意味尊敬するよ」


「明日香さんってホント凄いでしょ」


「……とんでもないクライアントに鞍替えしちまったもんだ」


 四人は数分して、足場が冷えてから先へ進んでいった。

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