第40話

渉流達の通う社樹学園は、もうそろそろ学園祭の準備にかかりはじめた。

色とりどりの模擬店や出し物の材料、看板材料などが、廊下に投げ出されている。

季節は秋へと完全に移り始めたのだ。


青森神主から、渉流に連絡が入った。




「渉流君、やっぱり定児君は犯人の手の内にいるようですよ……」



「はっ!!?」



渉流の受話器を持つ手に力が入る。



「クソッ、それで無事なんですか!」



「…え、ええ……。危害は、まだ何とか、ないようですが」



青森は口ごもる。

金龍は昨晩の怪我で寺で一先ず治療と休養をしている。

金龍からは、渉流と定児の関係性や諸々を考え、詳細はまだ伝えないようにと口止めをされている。


渉流と定児は身内だ。渉流が定児が受けた暴挙への激情のあまり暴走行為に走る可能性もあるし、定児君が男としてこのような内容を、他人の口から勝手に身内へと伝えられるのは、大変心に迫る屈辱であろうとの配慮である。定児自身がショックを受ける。


それ以上に、どう言えばいいのかだって、金龍と青森自身にもわからない。二人の心境とて、正直言って、言いたくない。二人だってショックなのだ。あの明るいのんびりした年相応のやんちゃな少年が、そんな目に遭わされているだなんて、想像するだに気に病んでしまう。




青森は金龍の状態を思い起こす。


金龍の説明には、声の奥には、明らかに恐れというものがあった。


金龍自身との力の差が、そんなにまで開いているのか。


いや、予測は出来ていた。あの呪詛の腕前からして、人間離れした底知れぬ使い手だと計れていたのだが、長年の交遊がある金龍の性格を考えると

あの、いつでも積み重ねた修行に裏打ちされた確かな実力と冷静な判断力と、そして秀でた対処力の持ち主であり、全員の精神的支柱でもあった誰より頼りになる年長の存在に、怯えが生まれているという事実が、青森にとってショックなのだった。




「渉流君、私達も余裕を見せてなどいられませんねぇ、もう」



「青森神主。白三弥山、に一緒に付いてきてくれませんか?できれば、猪狩先生も呼んでください」

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