第38話※
捕まえられてから何日が経ったかとか、何時間が経ち今は何時か、なんて頭の遥か彼方に遠退いてしまった。
昼も夜もない場所で、法力を通わせて行う性の交わりがこんなに衝撃的な中毒を伴う快楽であるなんて知り得なかった。
力を使えない普通の人では誰も味わっていないだろう境地に自分はいる。
脇の下を甘く撫でられ、耳朶を噛まれながらすぐそばで上ずった声が囀ずる。
「気持ちよいですか?私も気持ちよいですよ。こんなのは………他の誰ともないほどだ……。このまま、姿を描いてはいけない秘仏勧喜天のように、私とあなたを絡み合い一対にさせたまま、時間も空間も無い涅槃に上げられ永遠でいたいくらいだ」
自分から放たれるながやのおおきみのエネルギーとは、この男も中毒にするほどの体感なのであろうか。
「こ、こんなにっ………、こんなにっさせられ、させられ、たんじゃ、………っ、こ、こんなのが………、っっ…す、好きになってしま…う…………!」
毎日毎時頭を溶かされたんじゃ、この行為も、すぐそばに肌を合わせているこれ迄知り合った誰とよりも距離が近いこの邪悪な男にも、両方に心が持っていかれてしまう。
誰も知らない自分の秘密の領域に初めて他人がいる。それも全然得体の知れぬ突然現れた他人が、ポッと出て、親よりも肌の距離の近いところにいる。
「いいんですよ、好きになって」
やり場がなく男の皮膚を引っ掻く自分の手首を掴まれて、誘惑のように肯定される。
何かを求めるような俺の目線を捉えてわかりきってるかのようにふふっと微笑む。
「私も君を好きになってしまおうかな」
後ろから抱き締めるように
俺の両方の乳首を指で摘まんで弾きながら囁く。
だめだ、俺の人格_キャラクター_も倫理観も恋愛観も過去の恋愛遍歴も性指向も苦手意識も、そして何より善悪の分別も、体をブチ破られると同時に全てブチ破られてしまった。
粉々に壊されて誰にも見られたことの無い秘めた限界へと入り込まれ全て見られてしまった。
余裕は微粒子ほども無い。
薄く笑う男の顔から突如笑みが消えた。
護摩を炊いて一人祈祷をしている金龍の心の目の視界が突然開けた。
今迄視えなかった定児の存在感がやっと握れたのだ。
と同時に定児の姿が薄く、ぼんやりと、輪郭を成さない形でジワジワ、段々金龍の頭の中に映像として浮かんでくる。
(やった!)
金龍は安堵した。
だがすぐ不穏を察知した。
定児の体は黒い闇に絡み付かれ縛られて、とてつもない淫気に覆われていたのだ。
その時
「視たな!」
怒りの声が部屋の中、空間を切り裂くように、大きく響き渡った。
「覗き見とは、とんでもない下卑た坊主だ」
とんでもないことに一つの仏像の口を借りて喋ってきたではないか。
な、何という罰当たりな………!
金龍は怒りと驚愕に震えた。神聖なる神仏の結界が破られ、あろうことか仏の依り代を利用され汚されるなんて、あるはすがない、あってはならない事態だ。
これ程の力を持つ敵だったのか?まさかここまで。
「お前達が血眼になって探している男を抱いている最中なんだよ。野暮な邪魔をしてくれるな……」
だ、抱いて…………更に続く信じられない言葉に、あの金龍の顔からすら余裕が消え失せ汗が水のように額から流れ出していく。
「荒御魂は俺のものだ。返さない!クックック」
護摩の炎が風も吹かない部屋で不自然に一層大きく舞い上がり、天井につくほどまでに炎上が広がったかと思うと金龍の半身を襲った!
慌てて転がり避けたが、左腕は炎がまとわりついて熱く爛れ火傷を負っていた。
「グウゥ…………」
「今日はこのくらいにしておこう。次は腐らせる。ハハハハハハハッ…………」
残忍な笑いが祈祷部屋を反響し、そして嘘みたいに静まりかえった。
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