第33話※

黒布に包まれているまま赤ちゃんのようにその手に抱かれながら目を閉じて反応を失う俺の額、頬、喉を、機洞の大きな手がフェザーなタッチで伝っているのがわかる。

抵抗が無いことを確かめているのか、指先の背で撫で下ろされている。確かに目も開けられないこんなんじゃ、暫く抵抗なんか出来やしない。完全に無抵抗の状態の人間をおもちゃにしているのか、そのまましばらく男の指は肌の上をくるくると遊んでいた。

が急に胸元のボタンを幾つか開けられたのがわかった。

(えっ……)と心の奥底で意表をつく。

男の指が自分の露になった左乳首をふいに摘まんで引っ張ったのがわかった。

奇妙な動作にもしかしてだけどこの幻惑的な男は俺の肉体に性的に催しているのかもしれないとドキドキした。あまりにも予想のつかない意外な行為だったから。

「体を清浄にさせろ」と機洞が部下に命じた声がした。




だめだ。機洞の手から離れて数分経つのに、一行にまだ意識は半分あるのに半分がどうにもならない状態のままだ。半分夢の中にいるような、痛覚や触覚の麻痺した五感の中にいた。

人工的に酔っ払わされているような、陶酔した状態だ。まどろみや夢うつつを強要されるというのはこんなにも不快なものだったのか。


自分の思いのままに「喋る」ということがまずままならない。


人の話す声が音として頭に響くも、何を会話してるんだかが頭になかなか入ってこない。遅れて入ってくる。


ただうなだれるように敵地の中で冷えた床に横たわる自分に女が声だけの姿となって近付く。


「さーあ、湯浴みをするから脱ぎ脱ぎしましょうねぇ」



服を数人の腕で剥がされていく。全裸になったのがわかり、大男の腕で持ち上げられたのがわかった。


感覚のおかしなままだと一瞬でワープしたかのようにお湯の流れる場所に着いたことがわかる。


女の声は俺の上から下までホースらしきものでお湯をかけジャブジャブと洗っていく。


順々に洗っていき最後にあらぬ場所にホースを突っ込まれたのが鈍くだがわかった。


「………?」

気付いたら半目だけは開けられるようになっていたが、視界はぼやぁっとして視力が極度に落ちたようにまとまらない。口は半開きのままだろう。

きっと自分の表情は何の感情も現さず人形のようになっている。



「機洞様の前で恥ずかしいものを見せたくなかったら、今ここでちゃんと洗っとかなきゃ駄目よぉ」



そういって水流を送り込まれるのが音と半分の感覚でわかった。

女の手が内臓の内側まで入り自分を芯から洗っているのも。

何しろ痛みはない。ただ何となしの下腹部の何かされてるなぁという不快感だけが脳に伝わる。


多分汚いものが内側から溢れ出ているだろうが、麻酔のような頭心地ではひたすらどうでもよかった。常の自分だったら耐え難かったはずだ。


何べんか繰り返されたようで

「綺麗な水になった」と満足げな声を発せられ、やっとホースの蛇口が締められた。




こんなのが何から何まで地下洞の神殿で行われている。





白い透過率の高い布が何枚もカーテンのように垂らされているだけの仕切りの神殿の奥の奥に寝かされる。


白い着物をゆるく着せられ寝台の上の布団の中に数人がかりで納められたのがわかった。


それでもずっと半分寝てるような感覚で不快を飛び越え既に心地がよかった。



そこへ機洞が現れたのがわかった。


半目に映る機洞は色違いの装束、黒い着物に身を包んでいて近付いてくる。



「怖くはない………怖くは…」

ギシ、と寝台がきしみ、一人分の体重が新たに乗った、と思ったら肩に手を伸ばしてくる。


仰向けだった俺の体を横向きにし、背後から抱き締めるような形で、着物をズラした。

そのまま肩を露にし俺の後ろ髪を指でかき寄せて首から徐々に下へと舐めている。

首から肩まで降りてくる舌が、鈍いから鼠のようなすごく小さいものにくすぐられてるような感覚がしてそれが何だかこそばゆく気持ち良い。

機洞の片足が俺の足と足の内側に入り内股に絡まり、動かされる。


されるがままでいいやと身を任せた。


結構な長い時間がそのままでしばらく経ったはずだ。


「ウッ………ゥウーッ………ウッ……」



恍惚と身を任せうつらうつらとしていたらいつの間にか下半身をかき回している力がある。



俺の上半身を舐めながら片腕が、尻からずっぽり手首まで入ってかき回している。


足の間をダラダラポタポタと何かが垂れていて、液体をかけられてかき混ぜられているのがわかる。



全然痛くはない。麻痺しているから。でも内臓を腕が行き交う度に、はらわたが押し上げられる苦しみで生理的な声が出てしまう。



何も経験が無い人間に普通そんなことする?



「ウグ…………アァ…………グッウッ……ウッ………」


直腸を手首が上下に行き交う度に生理的に口から飛び出る潰れた掠れ声。


信者に囲まれている神殿の奥で秘匿も何も無く誰にも聞こえるであろう声をあげ、こんな行為をされている。




いきなり腕がするするすると抜かれ、俺の肉体は解放に安堵した。


更に液体を背後から背中から尻の間に伝うようにかけられ、両脚の間を伝い落ちる。


腰が引き寄せられ一人分の体重にグッとのしかかられた。


スンナリと沈み込められる。



(ぜっ………全然、痛くない…………たっ…確かに……っ

………怖くない…………)


だって鈍くしか何もかも感じない。夢の中の出来事のよう。ちょっとエッチな夢を見ている時のような鈍い鈍い心地良さなんだ。



背後から全身をピタッと密に合わされ、動くというより、底まで押し付けられているように挿入されている。




なぜ男の俺がこんなことをされているのか。

こうしたほうが裏切らない仲間として陥落するという目論見の、実利的な魂胆でもってされているのか。



この人はただのゲイの人なのか。



「パワーが来てる………っ君の肉体から、私の中に…………荒ぶる邪神のエネルギーが………無限大に……、際限無く…、私の中を通る……………」



恍惚と男は囁いた。



「あぁ………ありがとう………私の元に来てくれて……………」


男はそういって俺の背中に口付けた。















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