第30話
最清寺の奥の部屋では、猪狩ひもろぎが寝かされていた。
広い和室だ。緑の畳の匂いが一室の中をどこまでも染み渡る。寝間着の白浴衣を来て横たわるひもろぎは布団を被せられまっすぐ仰向けにされている。
そんなひもろぎを見守るように猪狩祐司が隣に布団を敷かれて、ちょうどひもろぎ側に顔を向け横向きで寝ている。
「う…………うう……………」
唸り声によって猪狩祐司は目覚めた。真っ暗な部屋の中それがひもろぎの声だと気付くのに時間はかからなかった。
「ひもろぎ!」
「ぅ………ううう、お兄ちゃ……あ……ん…………!」
苦しそうに目を開けている妹を抱き起こす。
「起きたのか……」
「はぁっ……はぁっ……」
ひもろぎの額の汗を自分の襟そでで拭いながら兄は問いかける。
「一体何があったんだ……」
「あいつ…………あいつよ………………とても恐ろしく綺麗な顔をした、あいつ…………背が高くて………ゾッとするような男…………だったわ………………。黒髪で………27、8、くらいかしら…………」
「男?そいつがおまえをやったのか?」
ひもろぎは頷くと
「おにいちゃ………んも、気をつけ………」
と吐き出すように言い意識を手放した。
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