第29話

しかし、胸騒ぎが止まない。

俺は家に帰っても、あの美戸履神社が気になるという感覚が消えなかった。



そうなると気になって気になって仕方ない。


飯塚稲荷は本来あのマンションに住んでいる人間だろう。


時刻は夜の11時だ。ちょっと行ってみるか。

手袋をはめていっちゃったりなんかして、これじゃ本当に泥棒スタイルだな、と苦笑いした。

そして居間の両親の日曜大工セットが詰めてある箱からマイナスドライバーセットを取って、上着ポケットに忍ばせた。




美戸履神社に着く頃には丑三つ時の時刻に回っていた。



ゴクリと喉を鳴らしながら、住居らしき母屋の窓に近寄る。

窓の枠とガラスの間をマイナスドライバーで思い切り一突きする。

それを続けて三、四回行うと簡単に窓は窓枠から最小限の音を立てて外れた。


これじゃ完全に泥棒だな………。苦笑いした。




慎重に中に侵入してみる。ジャリ、と足音一つさえ立てないよう警戒して。




暗いがスマホの懐中電灯で何とか辺りを照らしつけて進む。





廊下を進みダイニングの扉まで来た。



何だ?この嫌な臭い……。扉の前まで来ると異状が鼻をかすめた。


嫌な予感がする。




開けてみると、何にも無かった。



俺はその奥のリビングの扉を開けてみる。





!!!?






人が四人倒れている。そこかしこに赤い絵の具を付けながら。

血だ。



そろそろと進むと背格好から神主の一家らしき老齢の男女と三十代位の男女だとわかった。……老夫婦と息子夫婦との世帯同居であろうか。


顔をよく見ようとすると腐敗が随分進んでいるのがわかる。


血と何とも言えない死臭。



かなり前に殺されたのであろうか。



「俺を……呼んでいたのか……この家族が……見つけてほしくて……」


自分の父母祖父母と重なり急に悲しくなった。


だがすぐはたと我に帰る。


これはいけない。指紋など証拠を残さないよう家から脱出をはかる。下手したら俺が犯人になる!



入ってきた窓から外に降りると心臓の早鐘が今更ながら自分の耳まで響いてきた。



か、帰ろう……でも侵入がバレるから警察に電話は出来ない……飯塚稲荷…………色んなものが頭を駆け巡る。パニックだ。




とにかく帰らなければ!


無理やりギクシャクする体を機械のように動かして振り向き様、誰かに鳩尾を思いっきり打たれた。


内臓が潰される吐き気じみた衝撃。


崩れ落ち、視界が急に暗転した。









「………………………」



「起きましたかな?」



冷たい石の感触を頬に受けながら、ぼんやりと聞き覚えのある声が耳孔を通り抜ける。



すぐそばに飯塚稲荷がいた。



「おまえっ」


倒れていた体を勢いよく起こす。



「周りをよく見てください」


余裕ある声が響く。


周りを見回すと何十人もの集団が俺一人を取り囲んでいた。



「共鳴教の信者達だ。白三祢山に掘られた地下のここは私達の特殊な儀式殿」



鍾乳洞のような場所だ。地底湖が広がり、そして空間にはキラキラとオーブが舞い散っていて不思議な仄明るさがある。

とても不思議な神秘的な洞穴だ。

この町にこんな空間があったなんて。

恐らく美戸履神社の神主達が代々守り通して秘匿してきた神域なんだろう。



「妙な動きをしたらあの湖に投げ捨てますよ。さて君に会いたい御方がいるようです」




奥の方からこちらに現れた人物は意外な人だった。






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