第28話

仏像の並ぶ本堂に場所を直した青森、金龍、渉流の三人は、諸宮一族の霊を呼び出してみることにした。



「私が口寄せますので、お二人にはいざという時の抑えの役割を担って貰いたい。霊の怨念が余りにも強力過ぎる場合、私が体を乗っ取られる事態も充分有り得ますので………。ま、お釈迦様の仏像やらが睨みを聞かせて見守ってるここなら大丈夫でしょうけどぉ」


青森は二人の顔を見渡しそう答えた。



「承知した」

「わかりました」



青森は神妙に手を合わせる。

「まずは諸宮修聖の父上から呼び出してみますか」



青森はそのまま頷くと経文を発する。口寄せの為の経文であろうか。トランス状態に入るためのような抑揚の無い長さが延々と続く。



青森の周りの空気がどんどん変わっていく。淀みのある空気へと。



濁った重々しい空気が渦を巻くように取り巻いていく。




青森の体の力がガク……抜けた。



金龍は「来たか」と呟く。





「あぁあぁあぁあぁあぁあぁあ」




それはいつもの青森の声ではなかった。






地の底から響くような怨霊のおどろおどろしい声。



金龍が尋ねる。



「お前は諸宮花涼か?」




「あぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあ」




怨霊は答えない。




「ニクキ・・・・・・ニクイ・・・・・ニクイ・・・・・ニクイ・・・・・」




「強い怨念ですね……」

渉流は呟いた。





「あぁあぁああぁあぁあああぁあぁあ……

ヒョウドウ……トリデ……ミヤマ………トクガワ…………タシロ…………」



「殺された人達の名前ですね……」

「たしろ?」


渉流と金龍和尚が怨霊の発話を慎重に判断する。



唐突に青森が唇を噛んで血を流し始めた。



「危ない、神主の体から霊を離します!仏のご加護あれ!」



そう言って金龍は青森の背中を長数珠で何回か力強く叩く。



「マーラよ、加護ありて去れ、降魔!」



しばらくすると周りの空気が変わった。



呼び寄せる前の穏やかな空気へと。




「あれは花涼でしたか?」

渉流が尋ねる。

青森は「ええ。そこらの低級霊とは重さが違う。凄まじい怨気だ。怨霊化している……」

息を荒く吐きながら答えた。


「俺もそう思います」

確認のため尋ねただけで、渉流もまた本人だという念の手応えを掴んでいたらしい。


和尚も頷き、唇の傷を拭き取るよう懐から茶巾を取り出し渡した。


自分の唇の端に滲む血を茶巾に押し当て移しながら青森は

「続けて、諸宮修聖の霊も喚び出しましょう」と睨んだ。




静けさを取り戻した空間で再度三人とも意識を集中する。青森の長い経文がまた唱えられる。



だが時間をかけても、ついぞ諸宮修聖の霊はその場に現れなかった。







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