第27話
「そうですか……けんきき、という魍魎」
「倒し損ねました」
ムッツリとした顔で不本意そうに、渉流は金龍に答える。
「渉流君でもスムーズに行かなかったんですねぇ」
パラパラと文献らしき物を調べながら青森が言う。
最清寺の境内である。涼しい風が、開放された境内を吹き抜け、三人を時折内輪のように扇いでいる。
金龍は告げる。
「渉流君、今回の呪詛殺人、この街で思い当たる一族が浮かんできましたよ。諸宮_もろみや_一族」
「諸宮一族!」
渉流の眼光が鋭く走る。
「ええ。ただし諸宮の一族は既に全員亡くなっています」
金龍の話によると、清町市には、この国の政治中枢にまで名を轟かせるほどの呪詛に強い一族がいた。
その一族は集団、一つの宗教団体と呼べるもので、血族の家族以外に多数の信者達と共に生活をしていた。
呪詛と呪詛返しに定評があり、そこには日々政敵打倒を願う政治家や会社成長を願う企業家が足繁く通うほどだった。
それが諸宮一族だった。
元々他の地域に定住していた諸宮一族は、とある議員の申し出でこの清町市に総出で移り住んできた。
この街はどんな企業も栄えない。街全体が衰退している。発展の遅れた田舎都市だと、諸宮一族を優待して招いたのだ。
諸宮のところに足繁く通った議員や企業主はあまねく成長し、出世をした。
諸宮の力を借りて誰しも一角の人間になる。
その一族の一人の子供は、どんな大人やそこらの術者をも遥かに凌ぐ甚大な力を持っていた。
諸宮の力はその子供の力といっても過言ではない。
生きている人を一瞬にして腐らせるほどの強い呪力。
そこまでの強大な禍々しい力は、人に不信と恐れを抱かせるのだろうか。
ある日、諸宮の面々が住んでいた建物は大火事を起こし焼かれてしまった。
もちろん中の居住者に生き残りなど誰一人居なかった。諸宮の家族も、信者も。
建物の出入り口や窓は不自然に塞がれていた。
このことから、諸宮と揉めたお偉いさんの顧客達の嫌がらせや報復ではないかと噂された。
警察が不自然な点があるにも関わらずろくな捜査をせずすぐに打ち切ったことにも、人の疑いの噂に拍車をかけた。
しかし、年月が過ぎれば街の人間は諸宮なんて名前すら、記憶の底に薄れていった。
「力を持った子供の名前は、諸宮修聖_しゅうせい_。父親の名は諸宮花涼_かりょう_。この事件と何らかの関わりがありそうです」
青森はひらめいたような顔をしてニコニコ笑った。
「それじゃあ!諸宮修聖をあの世から口寄せして話を聞いてみることに致しますか」
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