第25話
たくっ。なんだ、あいつ……。
やってられないとばかりに自分の右手で頭をかきむしった。
「渉流君、今帰りですか」
「渉流君、一緒に帰ろー」
先生やクラスの女達が次々に呼び掛けてくるが、返事代わりにそのどれもに右手を上げてそのまま通り過ぎる。
常に万事が万事こんな対応をするからだろうか、昔から人はやたらに俺に話しかけようとする。
へっぽこでへたれでヤワで、子供の頃から自分勝手な突っ走った単独行動を取りがちの俺の従兄弟は、俺から逃げるように消えちまった。
ガキの頃はああして勝手に何かやる度下手うって泣いて、結局は自分がいつも何とかしてやったものだ。
人の群れをかき分けて俺は校舎を抜けた。
定児はちょっと放っておくか。
猪狩の妹の様子を見に山へ行くか、と丁度公園を抜けようとしたところだ。
妙な気配を感じる公園だ。無意識に身体中の気の警戒が高まる。
「そこの格好いいお兄さぁー…ん……」
粘りつくような耳触りの声が聞こえた。
「あなた、とんでもない変態ね。幼い頃から一緒に過ごしてきてたまるで弟のような存在を心の底では好きだなんてさ」
「ハ?」半笑いで主のわからぬ声に聞き返す。
「自分で気付いてないの?鈍感くーん。フゥーン、子供の頃からの守ってやりたい使命感や情愛感が、いつしか思春期の多感な感情や性的衝動と絡まって、恋愛に近い感情へと昇華されちゃった感じなのかしらぁん」
俺は鞄を足元に放り投げた。
「テメぇ……、何だかわかんねぇーけど俺の心を読んでるな…………?」
キャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッッ!!!!!
突然打って変わった激しい笑い声が公園中に響いた。
気配から間違いない、人間では無い。
「出てこい、即地獄に送ってやるぜ」
俺は両手で合気道の手刀の構えを取った。
「出てこないなら………」
感覚を研ぎ澄ませ、目を瞑る。
すると空間に漂う流れの歪みの異相をより強くつかみ取ることが出来る。
「そこだ!……雷剛杵!!」
落雷したような音と衝撃が響いて、敵さんがとうとう姿を現した。
女だ。口が裂けたように大きい。
「ふふふ………私は見鬼姫_けんきき_!!!!」
そういうなりほぼ顔の下半分が口であるかのように一気に裂けた。口裂け女か。
向かって大きな口で噛みついてきた女をかわしカウンターで蹴りをくらわせる。人間であれば一発で顎を砕ける一撃だ。
「魍魎か、散らしてやろう!雷剛杵!」
近距離で波動を打ち込む。
女は蹴られた体勢を取り戻すなりふっと消えた。
雷剛杵がスカッと空振りに終わる。
「キャハッこの街の人間はもう終わりだよ……もうすぐ……」
最後の言葉だけを微かに響かせて。
もうすぐ?
地に落ちたカバンをパンパンはたきながら、魍魎の消えたほうを睨んで反芻する。
「もうすぐ何が起こる」
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