霊王の章
第24話
猪狩の妹ひもろぎの裸がそこにあった。
護摩の炎がミリからミクロの火の粉を散らして炊かれ時折爆発するようにパチと弾ける。護摩祈願堂のうす暗い室内に、数人の僧侶と数人の神主、そして巫女が並んでいた。
読経と祝詞が共に響く中、金龍と青森は眠れる少女のすぐ側に立ち、手を翳してエネルギーを送り込んでいる。
すると腐ったような胸元の肌の範囲が少しずつだが縮小し、元の綺麗で正常な肌の面積が広がった。
青森は額から流れる汗を片腕の白衣の袖で拭う。
「これでいい。霊障は魂の外傷。魂が治癒すれば体も魂に伴う。少しずつしか進められませんが、確実に治して目覚めさせましょうねぇ」
それにしても、と青森は一息つく。
こないだ逃した警察官を操った人間の正体がふと頭をチラつく。一通り表を巡回しても、操り手の気配はとんと静寂の闇に静まり返り消えていた。
いち早く術が破られたのを察知して素早く退散したらしい。
あれは学園長を襲った犯人と関係があるのか、無いのか…………。
「あれ?今日森野休み?」
登校すると森野が欠席していた。前山は「先生から聞いたけど体調不良みたい」と答える。
ふぅん ……ズル休みかな?
授業を終え生徒達のテンションが一斉に上がる午後。隣のクラスから渉流が俺のクラスまで来た。
「ちょっといいか?」
クラスの女子どもがキャアと騒ぎどよめく。渉流はクラスや学年を超えて、この学校全体の女に人気があるからだ。
非常階段で二人、ポケットに手をつっこみながら立ち話をする。
渉流は最清寺に預けられたひもろぎが順調に回復していると伝えられたこと等を俺に報告し、俺は森野がハマってる光の共鳴教の教祖や小鬼の話、最近出会ったジャーナリストの話や、美戸履神社が何だか気になること等を情報交換した。
「ジャーナリストか……そいつ怪しいな」
当然口移しの救助の話は俺の名誉のために伏せてある。
「何だかいい人っぽいんだけどね。魍魎にやられそうになったとこを助けてくれたし。今日も美戸履神社に行ってみようと思うんだ、これから。何だか妙に……」
「気になるか。………じゃあ俺も一緒に行くか?」
「いや!いい!渉流は渉流で動いてくれ。手分けしてこの事件を探りたい」
「大丈夫かよお前、……………へっぽこだし何かあったら遅ぇだろが」
「ああ!そんな風に思われてたんだね!俺は!従兄弟に!!」
渉流はチッと舌打ち不機嫌そうに俺に向き直って壁を手で叩く。
「あのなぁ!俺は一応お前を守る柏木の任があるんだぜ。定児に万が一があったら俺の役目は一体なんなんだ?」
半分冗談で言ったつもりなのにマジで切れられた。
本気で心配されているのはわかるが、俺の何がしかのプライドが傷ついている。俺は女のヒロインじゃないのだから。
「と~~~にかく!一人で行ってみるからじゃあな!」
言い放つと渉流の脇をくぐり抜け走って去った。
…………早速白三祢山にある美戸履神社に来てみた。
平日だというのに相変わらず人の気配がしない。
なんだ?どこかにしばらく臨時休業しますとか、旅行に行きますなどとでも書かれた貼り紙でも貼ってあるというのだろうか?
そばに神社の母屋と見られる家があるので、思い切ってインターホンを押してみた。
が、誰も出ない。
社務所もシャッターは固く閉まっている。
しばらく敷地内をよじのぼったり窓を覗こうとしたりしてグルグル探ってみたが、唐突に背後から気配なく声をかけられた。
「泥棒かね?」
ビクッとしながら振り返ると、そこにあの教祖飯塚稲荷が立っていた。
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