第20話

猪狩先生と連れ立って歩いている。

これまでの経緯を簡単にだが説明した。


「青森神主か。あそこの人は神道といってもほぼ陰陽道でしょうね」


「まさか猪狩先生がそんなにそっち方面にかけて詳しいなんて全然思いませんでした」



「私の両親も昔とある神社をやっていました。今は両親亡くなりましたし、その神社も寂れて宅地造成のため取り壊されましたが。今は中学生の妹とアパートで二人暮らしです」


「じゃあ、先生は一人で妹さんを養ってるんですね」


人通りのない通学路だ。


急に猪狩先生は煙たそうな顔つきをして立ち止まる。



「………………あそこに怪しい者がいます、定児君」



目を凝らすと浮かんでくる、双つの影。

双子?

人魂のように炎のような揺らめく黒い波動が登っている。



「我々に対して強い邪気を放ってます。このままだと襲ってくる。何もしないと取り憑かれる。定児君は戦える?」



俺の返事を待たずに、双子霊は襲ってきた。



先生は詠唱している。


「極めて汚なきも

滞無ければ穢なきとはあらじ

内外の玉垣清浄くきよしと申まをす

一切清浄の祓い!

ひふみよいむなやここのたり、ふるえゆらゆらと、ゆらゆらとふるえ!」



双子霊の一方が俺に向かう。


俺は素早く札を懐から取り出し放った。



「食らえ!」



猪狩先生と俺の相撃で、双子霊はあっけなく消滅した。



「危なかったね」


「一体なんなんすかね」


息をつく二人。



だが背後から双子霊は再生していた。

双子霊は一方が倒されても一方さえまだ妖力が残っていたら、二人とも再生可能らしい。

多分仕留め残したのは俺だ!



「糸繰金棺飛遊_いとくりきんかんひゆう_!」



振り向くと金色の小さい棺が一つ浮かんで棺の蓋が開いている。

そこから金色の糸が発射されて再生した双子霊を縛り付けている。

まるでカンダタの蜘蛛の糸のようなお釈迦様が伸ばす糸みたいだ。


「唐操金棺飛遊_からくりきんかんひゆう_!」


唱え主は両腕を交差し、まるで見えないハープを弾くような不思議な動作をする。


そのまま光の糸は唱え主の動きに連動し蜘蛛の糸のようにがんじがらめにしていく。


「猪狩先生!定児!何やってるんだ!!」


渉流だった。




「雷剛杵_らいごうしゃ_!」



渉流の手から発せられた雷のようなエネルギーによって、双子霊は二体とも、一気に完全に消滅した。



駄目だ、……渉流を越えられる気が、永遠に俺にはしない。

化け物に遭遇する度、素直に渉流の後ろに隠れていたい。

渉流!カッコイイ!

俺の気分は単なる一ファンになった。

ふるえたね。

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