第10話

「そう、臨、兵、闘、者、皆、陳、列、在、前」


印を組みながら和尚は説く。

ここは寺の敷地を離れたほぼ吐黒山の山の中だ。


「定児君、大事なのは経文や、呪文の文句を正確に放つことじゃない。下手したら呪文なんか何でもいい。君の力、法力や神通力と呼ばれるものを力強くその上に乗せることだ」


どうやら見えざる世界というのは、精神の力がものを言う世界らしい。


「これは必ず教えなきゃならない。力には限りがある。君がその力を使えるのはまだせいぜい三回までだろう。もしそれ以上の回数術を使い、力を使い果たしたら、君は生きる屍になり廃人になる」 


なんと!


あっぶねぇ、何て言う力なんだ!生命力そのものだと言うことか!



「法力とは霊力、生命力…………。失えば人間は精神を働かす事が出来なくなる。霊能者同士の戦いは法力と法力同士の戦いだ。呪詛と呪詛返しの決戦に破れて、負けて寝たきりになる霊能者も少なくない。」



三回までしか術を使えないとは、結構な縛りだ。




「定児君、いいですか~」



青森神主が間延びした声で講釈する。

和尚の修行が終わったと思ったら、すぐさま青森神主の講義を受けに神社へと走った。


「あなたはこれから封印が緩められ、神力が上がるにつれ、どんどんこの世ならざる者、魍魎を目にする機会が増えます。魑魅魍魎は見られていることに気づくとあなたに牙を向きます。そうなるとどうなるか~」


「魍魎には性質があり、効く術法と効かない術法があります。放つ波動が違いますからね~。定児君が昨晩合戦した餓鬼に代表される鬼系には火の術法、人の姿に近い幽系には水の術法、もはや妖怪としか言いようがない無数の人の念の集合体である化け物には力をそのままぶつけて散らして破壊してください」



「渉流君の金棺飛遊術や、和尚から教えてもらった臨、兵、闘、などの印がそれですね。ただし威力はあなたの残存の神力によって変わります」


コホン、と咳払いして向き直る神主。


「そこで私の人形術を教えます。常日頃から念を込めて紙のヒトガタを数枚持っておくこと。こちらがあなたの代わりに戦ってくれますよ~。さあ、まずは私の札術の習得ですよ。霊符は普段から心を込めて一枚一枚自分で書きましょう。必ず集中して念を込めること。さもなくば「符を書いて効なく鬼に笑われ・・」」



こうして俺は一通りの術法の基礎を教わった。


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